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HSP研究からみたHSPと,心の力「レジリエンス」との関連

2020年の11月にHSP研究の第一人者である,飯村周平先生による「HSC/HSPの正しい理解と伸ばし方(論文公刊特別講座)」(日本ポジティブ教育協会主催[1])を拝聴しました。
実際のHSP研究から分かっているHSPと,どのようにHSPを育てるのかといった内容のお話でした。


1.HSP、HSCの概念

HSC(Highly Sensitive Child)とは「人一倍敏感な気質を持つ子どもたち」
HSP(Highly Sensitive Person)は「非常に感受性が強く敏感な気質もった人」
[2]を指します。
「繊細さん」とか「生きづらさ」「HSP診断テスト」など,昨今の「HSPブーム」[3]のような現状を,HSPの専門家はどのようにみているのでしょうか。
最近も様々なところで「HSP」とか「繊細さん」という言葉を耳にしますが、ただメンタルが弱いというイメージだけで受け取られているようなので、実際に研究で分かっている範囲のことを、飯村先生のお話からまとめておこうと思います。


2.【動画】「レジリエンス教育と繊細な子供たち(HSC)」

※HSPに関する飯村周平先生の動画は、現在も日本ポジティブ教育協会のHPにアクセスして申し込めば視聴可能です。
【動画】「レジリエンス教育と繊細な子供たち(HSC)」『日本ポジティブ教育協会』はこちら☟
https://bit.ly/35KjH81


3.HSP研究で分かっているHSP

飯村先生によれば,HSPは「環境感受性が高い人たち」で,「『生きづらい人』『弱い人』ではなく,『良くも悪くも環境から影響を受けやすい人』」[3]なのだそうです。
最近の研究のよると,HSPは3~4人に一人の割合で存在するそうです。
レジリエンスの講演を行う中で、アンケートをとらせていただくことがあります。6割から7割程度の方が「自分はメンタルが弱い」という自覚があるのです。
例えば、「環境感受性」が「メンタルが弱いという自覚」と重なると考えると、3~4人に一人の割合という研究に納得がいきます。

飯村先生は、HSPの程度を花で例えていました。
例えば、アスファルトの隙間でも咲くタンポポはHSPの程度が低く,チューリップは中程度です。そして,温度,土の状態など環境の設定を上手くするとよく咲く胡蝶蘭はHSPが高い人に例えられるとのこと。

HSPの気質的な特徴というと,例えば「人より深く考えたり,満員電車などで圧倒されるとか,共感的で,情動的な反応をしやすいとか,変化に気づきやすい」などが挙げられるとおっしゃっていました。

HSPは,遺伝的要因と幼少期の環境の相互作用で発達するもので,親がHSPでも子どもがHSCになるとは限らず,遺伝率は47%くらいとのこと。

そして,もしHSPに関連する遺伝子を持っていても,ニュートラルな養育環境で育てば一般的な中程度の感受性になるそうです。

でも,養育環境がネガティブだと悪い影響をうけやすいため脆弱性になる。そして,HSPは,ポジティブな養育環境で育てば気質を上手く活かして,より良好な発達をするということです。

良くも悪くも環境の影響を強く受けて発達していくのがHSPなので,良い環境だと,HSPではない人よりずっと良い影響を受けやすい。逆に,自分でHSPを調整できないと問題行動になって表出するということなのだそうです。

だからHSCやHSP傾向の人に,自分で対処できるスキルを教えることや,調整できるようなサポートをすることが必要なのだということです。
環境としてのストレスをいかに減らすかより,いかに良い環境を増やすかという視点とのこと。
ストレスは対人関係など、なかなか自分では対処できないことも多いため、より良い環境づくりの方が建設的ですね。

「感受性の高い犬の問題行動は,ネガティブな罰を与えると増加し,飼い主と性格の不一致で増加する」という研究のご紹介もありました。この研究を,ヒトに置き換えてみると環境のヒントになりそうです。

最後に,よくある「HSP診断」について,専門家の視点からは

➀項目によっては大多数が数当てはまる
②分布がHSPと呼ばれる人に当てはまる項目に偏っている
③点数でカットポイントは特にない

ということから,「自分は低い傾向,高い傾向など,あくまで自己理解の参考程度にされると良いですよ」とのアドバイスでした。
飯村先生のHSPのご研究のお話は、とても興味深い内容ばかりで,HSPやHSCについて理解が深まりました。

4.HSPとレジリエンス

ここまでHSPを理解すると,HSCやHSPをのばす良い環境や,HSPを調整できるようなサポートとして,具体的にどのようなことをすればいいのかということが気になります。

「高校生を対象とした実践研究からレジリエンス教育がHSCの気質を持つ生徒に効果があることが示唆され」たという研究(岐部,鈴木,平野,イローナ,2020)[2]では,HSPとレジリエンス教育は、相性が良いことが示されています。(レジリエンスとは,困難や逆境があって落ち込んでも回復する過程や結果,その時に使う力などを指します。)

レジリエンス教育は,HSP傾向の子どもも大人も,自分のHSPを調整できるようなサポートをしているということなのだと思います。

レジリエンス教育で,自分で対処できるスキルを習得し,自分にレジリエンスという困難を乗り越える力があることを学ぶことが,HSPを良好に導く一つの要因になるということ。すなわち,レジリエンスが,自分でHSPを調整するスキルの一つになるわけですね。

HSPとレジリエンスの関連が見えました❣

一つでも具体的な方法がわかれば,アプローチしやすいですね。
自分で自分を認めたり,気持ちが向上する言葉を自分にかけたりする(セルフコンパッション)ことは,つい忘れがちだから,すぐ目に入るようにスマホのトップ画面にお気に入りのレジリエンスのイメージ写真にしておいたり、何かシールを貼るなどして、それを見てエネルギーが湧くなんて,流れにしておくなども、とても良い方法ですね☺

そして,周囲はその人の努力を褒めることも大切ですね。

他には,栄養からのアプローチや身体アプローチもHSPを逞しくできると思います。具体的なレジリエンスの教育や栄養からのアプローチは次の機会に☺

5.研究で分かっていることと一般の人の理解の乖離

先日、酸化と抗酸化について、油を専門に研究していらっしゃる山嶋先生のお話を聞きました。

酸化とは
体の酸化とは、釘が錆びるようなイメージ。

「じゃあ、あなたは、自分の体がどれくらい酸化していると思いますか。
体が100本の釘だとしたら、何本くらい錆びていると思いますか。」という質問がありました。
皆まちまちに答えたのですが、年齢的にアラ還の私は、きっと半分より少し少ない程度で酸化しているのだろうと思って、40本と回答しました。

先生のご回答は、100本のうちの1本が錆びているくらいの状況だとのこと。なんだかホッとしてしまいました。
企業がこぞって抗酸化とかいうから、一般の人のイメージがずいぶん本来の研究で分かっていることからずれてきている」とのこと。

これって、HSP研究の第一人者である,飯村周平先生のお話と重なります。

HSPやHSCという概念も、研究でわかっていることと、一般の人の理解の間でずいぶん乖離が起きているとおっしゃっていました。

HSPを正しく理解するための参考文献も挙げておきます。
どれも参考になりそうです。


参考文献


[1]日本ポジティブ教育協会
http://www.j-pea.org/

[2]Kibe,C.,Suzuki,M.,Hirano,M.,& Boniwell,I.(2020),Sensory processing sensitivity and culturally modified resilience education:Differential susceptibility in Japanese adolescents, PLOS One
https://bit.ly/3fll948

[2]「感覚処理感受性 と文化適応的レジリエンス教育:日本人青年の差次感受性 」日本語での概要説明:日本ポジティブ教育協会

[3]東京大学・日本学術振興会PD飯村周平(2020,11月13日)「HSPブームの今を問うKANEKOSHOBO,https://bit.ly/3lRa9hq

[4]Japan Sensitivity Research 心理学者によるHSP情報サイト
https://www.japansensitivityresearch.com/about-us

[5]串崎真志(2020)『繊細な心の科学―HSP入門』風間書房 

[6]エレイン・N・アーロン(2020)『敏感すぎる私の活かし方』(片桐恵理子訳),パンローリング株式会社

[7] Sensitivity research.com(感受性研究者のHP),https://sensitivityresearch.com/



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