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豚がいる。指定されたところに大人しく座っている。いつも目は優しい。

豚がいる。
もう何年もいる。

クリスマスの前、そうだな、おそらく11月あたりから、
豚はずっと待っていた、と思う。
誰かが誘ってくれねえかな、と。

豚は郵便局にいた。
オーストラリアの郵便局には文房具やおもちゃを売っている。
豚はぬいぐるみたちが入れられた大きなかごの中に入っていた。

クリスマス前にどんどん仲間が去っていくのを尻目に
豚はひたすら待っていた、と思う。
誰かが誘ってくれねえかな、と。

夏が過ぎ、秋が来て、冬も終わった。
(書くこともないと思うがシドニーのクリスマスは真夏だ)
春がきて、残っているのは蛙2匹と豚だけになった。
小さくなったかごは、ポツンという音がしそうだった。

そしてあるとき蛙たちも去っていった。
自分だけ、自分ひとりだけがホツンと残された。
来る日も来る日も、豚だけが残されたままだった。

豚は考えた、と思う。
何故なんだろう、と。

豚は考えていた、と思う。
ボクはここにいるんだけどな、と。

そんな豚と、目が合った。
うちにくる? と聞いてみた。何もできないけど、それでもよければ。
うん。
豚はそう言った後で、もう一回うん、と言ったと思う。

というわけで、
郵便局にひきとり代を支払って、
オフィスに来てもらったのだ。


その後、豚はずっとオフィスに居てくれている。
お利口さんに、という言葉が当てはまるのかどうか分からないが、指定されたところに大人しく座っている。いつも目は優しい。

その目はたくさん俺を救ってくれた。
本当に有難さしかない。

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