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意味わからない系の僕らへ

 鏡の中に知らない人がいました。それは醜くて、お世辞にも可愛いとは言えませんでした。けれど、瞳からは濃度の高い、感情の色が染み付いていました。そういうモノに私はなりたい。
 
 例えば、普段歩いている道からふと目線を上げて家の二階、その窓に綺麗な黒猫を見た時。褪せた道路を見た時。落ちた鏡を拾う時に、映った別の景色を見た時。知っていたもののもう一つを見てしまった時、綺麗だと思うようになった。物事の二面性を見つけた時、さらなる魅力を知った時、かっこいいなと思うようになった。
 
 前の僕ならどうだっただろうか。そこに純粋な羨望はあっただろうか。他人を当たり前に憎み、蹴落とす。蹴落とされた時には、相手が忘れられなくなるような目で、睨むことで傷を増やした。残酷なことをされてきた、残酷なことをしてきた。それでも、今になって思い出すのは私を傷つけてきた奴らよりも、私が傷つけてきた人たちのことだった。
 
 友達よりも熱く、恋人よりも首に指に埋まる。そんな重さを僕に向けた私が傷つけたあの子。私の汚点はあなたを許せなかったこととだいすきだった、だいすきと言わなかったこと。そのおかげで今、大好きなものに対して大好きだと口から出てくるようになった。あなたを踏まえて前に進んでいることを忘れないために。後退しないために。
 
 数年前の僕は、自分が笑顔でいることは復讐をするためだと思っていた。見ているか、僕はこんなに幸せだ。お前のしてきたことは無駄だったんだと叫んで、傷つけられたという証明書をもらうために練り歩いていた。この釘でぶっ刺した傷になんと名前を付けようか。そして、これを読んでいる君にもその傷があるのだろう。だとしたら、こんなところまできっと読まないだろうから。
 
ハリボテの空が怖いか、くしゃくしゃの地図は燃やして、なにも忘れなくていい、後悔なんて陳腐な言葉で片づけるな、馬鹿なふりをするな、愛してくれ。
 
ダメな僕を踏みつけて、ベットに乗せて、
ダメな僕を刺して、布団を掛けて、
ダメな僕を殺して、おやすみなさい。


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