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ADHDってなに? #キナリ杯

 noteを見ていただいて、ありがとうございます。注意欠如多動性障害(ADHD)・精神障害者手帳2級で博士(生命科学)のred_dash です。

 皆様、『キナリ杯』をご存知でしょうか。主催者の岸田奈美さんが主宰する"面白い文章が読みたい"をコンセプトにした企画です。これが本当に面白いのです。まず、主催者の岸田さんの文章が面白い。 参加者の文章も面白くて、インドで217万円のカレーを食べた話なんて、とてもいい。みなさん、こんなビックリするような経験ないですよね?(あったら文章化してください!)

 こんなに面白い文章と肩を並べられるのか? とは思うのですが、こんなに面白そうな企画を、こんなに人が集まる機会を逃す手はないでしょう。 せっかくなので、一障害当事者として、一学者として、書かせてもらおうと思います。
 ずっと書きたかった、ADHDとは何か? というお話。


Q1. ADHDってなに?


A1. ADHDとは、一言でいえば「超うっかり人間」です。
 ADHDは「ついうっかり、大事なことをやりそこねる」「余計なことを言ってしまう、やってしまう」特徴を持っています。当事者には「あれこれ考えているうちに、大事なことを忘れてしまう」感覚があります。
 専門的には Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder (注意欠如・多動性疾患) を指す、発達障害の一種です。一つのことに継続して取り組むことが難しい「注意」に関する症状と、落ち着いているべき場所でも動き回ってしまう「多動」の症状を併せもちます。結果としてTPO に合わせた行動が困難なため、社会生活に困難を及ぼす場合があります。人口の約5%程度がこの障害をもつ、との報告があります。

Q2. ADHDって本人の身近にどんな困りごとがあるの?



A2. 例えば、私はこんなミスをしてきました。
・うっかり、帰省の日付を1日早く親に伝えてしまって、両親に待ちぼうけを食らわせる。
・うっかり、友人との予定を複数バッティングさせる。
・うっかり、前の予定を長引かせて遅刻する。
・うっかり、飲食店に荷物を置き忘れる。お店からの電話で気づく。
・うっかり、電車に荷物を置き忘れる。後日、始発駅へ取りに行く。生涯で荷物を取りに行った回数は両手で足りません。
 一つ一つは、誰にでも経験があるかもしれません。ADHDには上のような「うっかりを頻発する」うえに、なかなか直せない困難があります(巻き込んだみんな、ごめんね)。


Q3. ADHDかどうかは、どうやって判別するの?


A3. 臨床心理士によるWAISやWISCとよばれる知能検査と、ADHD-RS(Rating Scale)のような行動評価、生活歴の聞き取りなどを元に、医師が総合的な診断を下します。


Q4. ADHDを放っておくとどうなるの? どのように困るの?


A4. 適切な処置を施さない場合、ADHDという"生まれの特性"が引き金となって、こんな困りごとや病気を併発する可能性があります。
・過剰に反抗的になってグレる、薬物にハマる(行動障害)
・極端な不安を抱える、鬱になる(情緒的障害)
・うまく寝られない・寝すぎる、排泄が不自由(神経習癖)
・得意・苦手科目が極端に分かれる、手先が不器用になる(発達障害)
※必ずなるわけではありません。併発する症状がない場合もあれば、個人によって異なります。

Q5. ADHDはどうやって治すの?


A5. ADHDは治りません。大事な事なのでもう一度。
   ADHDは治りません。

 ADHDは脳の一部の機能がない、または不十分であることに起因します。普通の人と比べて足りないものがある、という観点では「腕や足がない」事とADHDは変わりません。したがって、完治することはありません。

 治りませんが、症状を緩和したり困りごとを解決する知恵を身に着けることはできます。腕や足がない人が義手や義足を用いるように、道具の助けを借りることで生活を快適にできます。
 具体的には、行動療法と薬物療法があります。行動療法は、当事者に自分の"クセ"を把握することや、当事者とその周囲の人の悩みを相談しながら、当事者とその周囲の環境調整を行う方法です。薬物療法では、脳の中で情報の伝わり方を調節する薬(コンサータやストラテラ)を飲むことで、注意や多動を当事者が制御しやすい状態を作ります。
 アメリカの治験の1つでは、14ヶ月間の行動療法と薬物療法を組み合わせた治療によって、"ADHDの困りごと"が解消する傾向にあったと報告されています。
 

Q6. ADHDって個性なの? 障害なの? 


A6. 私はADHDは明確な『障害』だと思いますし、『障害』として社会に認知される必要があると考えます。
 「発達障害は個性、ADHDは個性」という言説があります。この言説は、当事者の周囲の環境を調整して当事者に関わる人が受け入れてあげれば、ADHDだろうが発達障害だろうが生きていける、という観点から納得のいく考えだと私は思います。
 しかし、当事者が特定の人とのみ関わるとは限りません。障害当事者とみなさんの間で「困りごと」は生じやすいものです。(障害者-健常者の場合も、障害者-別の障害者の場合もあります。)この時、障害当事者が「障害があります」と言えば、みなさんにとっても理解しやすいですし、障害当事者も助けを求めやすいのではないでしょうか。「私、うっかりさんなんです」と言うよりも、ADHDを障害と呼ぶ方が、あなたにとってもわたしにとっても円滑なコミュニケーションを生むのではないでしょうか。 


 障害があれば、困りごとは必ず生じます。当事者(私)とみなさん(私に関わる全ての人)の間に違いがあるからです。そのうえで、お互いにフォローし合いながらやっていきましょう、と。受け入れたり、受け入れられたりする世の中にしていきたいな、と私は思っています。
 私は、障害があろうと誰かの何かの助けになりたいと思っています。まずは障害に関する知恵を集めて整理し、発信していきたいと思います。

それでは、よい1日をお過ごしください。


※本記事は、red_dash が2020年5月10日現在までに収集した情報に基づき作成されていますが、情報の正確さを保証するものではありません。

※発達障害には個人差があります。必ずしも紹介した全ての事項が当てはまるとは限りません。いくつか当てはまる症状があった場合、心療内科や精神科に相談して医師の診断を受けてみましょう。

※リンク切れ、事実と異なる記載など、お気づきの点を発見された際はどうぞコメントからご連絡ください。


参考

【論文】Hinshaw, S.P., Arnold, L.E., & For the MTA Cooperative Group (2015).
ADHD, Multimodal Treatment, and Longitudinal Outcome: Evidence, Paradox, and Challenge. Wiley interdisciplinary reviews. Cognitive science, 6(1), 39-52.

【書籍】Carlson, Neil R. "カールソン・神経化学テキスト・脳と行動・原書 8 版, 4 章 精神薬理学, p102-134." (2006).

注意欠如・多動性障害 - 脳科学辞典
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E6%B3%A8%E6%84%8F%E6%AC%A0%E5%A6%82%E3%83%BB%E5%A4%9A%E5%8B%95%E6%80%A7%E9%9A%9C%E5%AE%B3

ADHD(多動性症候群) | NCNP病院 国立精神・神経医療研究センター
https://www.ncnp.go.jp/hospital/patient/disease07.html#link3

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