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「値上げ疲れ」ではない。無い袖は振れぬ。


可処分所得は物価ほど上がっていない。

 某外食チェーン店が、突然の値下げを発表した。先日、コンビニ大手の一社が主要なおにぎりとチルド弁当を値下げしたのに続く値下げとなる。

 平成の日本社会は、失われた30年と称されるだけのことはあり、デフレ経済で推移していたことから、値上げに踏み切る機会が皆無だったが、世界各国は緩やかにインフレしている訳で、輸入頼みの原材料費は否応にも高騰する。

 原価が上がるものの、値上げができない空気感から横行したのが、量を減らすステルス値上げ。いわゆるシュリンクフレーションだろう。

 平成に生まれた身としては、自身の成長と共に、同じ金額で買えるものの量が徐々に減っていったため、身体が物理的に大きくなったことで、食べ物が小さく感じる錯覚すらあった。

 しかし、シャ○エッセン1袋に8本入っていた筈の幼少期の記憶と、6本になっている現状を照らし合わせれば、どう考えても本数が減っているのだから、実際に価格据え置きで量が減っているのは、紛れもない事実である。

 そんな値上げアレルギーな日本でも、某国の戦争を契機に、エネルギー資源を中心とした原材料費の高騰が、これまでにないレベルで生じたことや、露骨に小さくするくらいなら、価格転嫁したほうが良いと気づき始めて、ガンガン値上げしているのが2022年以降の流れと言えるだろう。

 しかし、総務省が公表した23年9月のCPI(消費者物価指数)は、13ヶ月ぶりに上昇率3%を下回ったことが話題となった程度に、物価が3%以上上がり続けた1年だった。

 それにも関わらず、我々の多くの可処分所得は物価ほど上がっていない。現に名目値からインフレ率を差し引いた、実質賃金が減少の一途を辿っていることからも、これはスタグフレーションに他ならない。

 当初こそ仕方なしに相次ぐ値上げに付き合っていたものの、流石に無い袖が振れない局面に以降しつつあり、購買力が低下しているのが、大衆の率直な感情ではないだろうか。

値上げで増えた売り上げは外貨に消える。

 コロナの5類以降により、経済活動が2020年以前の状態に再開する動きが見られる中で、実に4〜5年振りに旅行や会食をしてみると、同じサービスでも極端に値上げされているか、露骨なコストカットで価格を据え置いているかで二極化している肌感覚がある。

 値上げの背景に人手不足もあって、コロナ禍以前の賃金では働き手が集まらないことも一因として考えられるが、求人を見てみると一部を除いて、相場感が大きく変わったようにも思えず、値上げで増えた売上高が人件費に還元されているようには思えない。

 では、値上げで増えたであろう売り上げは、一体どこに消えるのか。左寄りの人は内部留保を槍玉に上げがちだが、一番は外貨に消えていると私は踏んでいる。

 資源の乏しい日本で、輸入に頼ってばかりでは円安の影響をモロに受ける訳で、iPhoneの価格上昇が典型例だろう。標準モデルは米ドルなら$799で据え置きとなっている訳で、こんな形で安い国ニッポンが体現されていると思うと、何だかやるせない気持ちになる。

堅実路線、隠れたリスクを見落としがち。

 小学生の社会の授業で、ドイツが世界大戦で敗戦し、賠償金の支払いでマルクを刷りまくったことで、ハイパーインフレとなった時の、札束をおもちゃにして遊ぶ子どもの写真は、教科書に載っているため有名だろう。

 しかし担任はそれをガン無視して、余談で話したドイツ人兄弟の話が、私は好きで今でも覚えており、事あるごとに引っ張り出してしまうが、大事な示唆なので何度でも記す。

 兄は勤勉で質素倹約に勤め、将来を見据えて貯蓄に励んでいた。日本人のステレオタイプに通じる。一方の弟は、仕事に怠惰でビールばかり飲んだくれては、空き瓶を庭に捨てていた。

 しかしハイパーインフレによって、勤勉な兄の貯蓄は無価値同然で貧乏になり、怠惰な弟は空き瓶という資源を売ることで、インフレに対処できたことによりお金持ちになったという話で、インフレ耐性のある資産を持っておくことの重要性を示唆している。

 ドイツマルクと程度は違えど、現状は世界経済が大きく変化している渦中であり、ドル円が150円となっているが、これは100円の時代と比べると、米ドル比で日本円の通貨価値が2/3に下落していると捉えられる。

 そして、インフレの本質は通貨価値の下落である。そう考えると、いかに労働の対価で得た日本円を、これ以上目減りしないようにするという視点が何より重要であり、私は株式(金融資本)に振り分けている。

 これは、人によって自己投資(人的資本)や、人間関係(社会資本)に資金を投じた方が、期待値が高くなる可能性もあるため、各々で最適解を判断する他ないものの、質素倹約に努めては預金に励む、堅実路線を歩んできた人ほど、元本が保証されないこれらに資金をベットするリスクを避けがちである。

 しかし、預金一辺倒はドイツ人兄弟の話にもあるように、インフレに対処できないため貧乏兄エンドを迎える可能性が高い。リスクを取らないことにもリスクはあるが、元本保証の預金だとインフレという隠れたリスクを見落としてしまう。

 今は無い袖は振れぬでそれどころではないかも知れないが、家計の創意工夫により、小さくコツコツと余剰をインフレ耐性のある資産に投じておくと、またガンガンに値上げされる未来が到来した時の、立派な備えになることだろう。


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