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空席の多い演奏会

 街の市民ホールや公民館などでは、しばしば学校部活動や市民サークルによる各種のコンサートが開かれている。吹奏楽、管弦楽、ピアノ……私はよく足を運ぶのだが、気になるのは空席の多さだ。アマチュアとして上々の演奏で、入場料は無料かたいへんお手頃なのにもかかわらず客席にたいへん余裕があるのは、もったいない気持ちになる。

 さて、昨今の世の中では「文化的資本」というキーワードが認識されるようになった。この語が示す政策課題は、子どもがどんな家庭に生まれたかによって成育過程で得られる文化的経験が大きく異なってしまうというものである。これによる社会的格差の再生産を抑える政策が求められている。

 前述の「空席の多い演奏会」は、街に眠る未利用資源ととらえられる。例えばこの資源は、子どもの遊ばせ方(時間の過ごさせ方)のメニューを欲する保護者にとって役立ちはしないだろうか。
 小さい子を持つ保護者の行動パターンはルーティン化しがちであり、各地のショッピングモールやいわゆる“子どもの遊び場施設”が親子連れでごった返すのはその表れである。
 子ども本人の好き嫌いはあるだろうが、子を遊ばせる義務を背負った保護者にとって、快適なホールで子どもとしばし座っていられたらどれだけ気が楽なことか。演奏者側も、ある程度の子どもの声には寛容ではないだろうか。客席が埋まれば演奏者のモチベーションに資するし、“自分もやってみたい”と思う子どもや保護者が現れてくるかもしれない。街の文化的資本涵養にも価値ありそうだ。

 では、その供給と需要のマッチングを誰がやるか。地域のため役所が……と思ってしまいがちだが、とてもそんな柔軟さは望めない。私が期待するのは、世の中の課題解決に敏感なスマホアプリ開発者だ。街に未利用資源と、潜在的なニーズがあり、マッチングできればソーシャルバリューを生みそうだ。ただし誰をスポンサーにするか……?彼らにとって“実におもしろい”問いではないだろうか。

 世はまさに、課題解決時代。読者様の中に、AIが街のコンサート情報を収集してユーザーに供給してくれるスマホアプリを開発するようなエンジニアはいらっしゃらないだろうか。


画像はウィキメディア・コモンズより。
© B4たかし 2009年 (Philia Hall (Yokohama).jpg)

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