サムネクリスマス

クリスマスの願いごと

ここはモノカキサンタが集うクリスマスプレゼント製造工場。

イブまで1ヶ月をきった今、サンタ達は大忙しでプレゼントの準備にあたっています。

それぞれいったい何を送ろうというのでしょうか?

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――― 人は、死んだら、星になるのだそうです。

「ほし?」

「そう、星。お空にたくさん、きらきら光ってきれいだね。
 おじいちゃんはね、あのきれいなお星さまになって
 ずっと見守ってくれているんだよ。」

「ほし、ほしー!」

「そう、ほし、星だね」

「ほし、ほしーい!」

――― おじいちゃんの星がほしい。

娘がそういう意味で言っていると分かるまで、少し時間を要しました。
クリスマスには、"おじいちゃんの星"がほしい
サンタさんにお願いする、と言ってきかないのです。

私は何も、上手なことを言ってやることができませんでした。
難しいお願いだということは分かっています。
けれどどうか、どうにかして、娘の願いに沿った贈りものが
できないものでしょうか。

****

珍しく、「なくしもの屋」の方から電話がかかってきたと思ったら
そんな"願い"の落し物が届いたという話をうけた。
落としてしまったのだな、と、西日が差し込むステンドグラスの窓を
眺めながらわたしはぼんやりと考えていた。

そりゃそうだ。
星なんて、どうプレゼントしたらいいんだろう。
ましてや、「おじいちゃんの星」だなんて。


わたしは、大量のプレゼントを扱う、所謂プロのサンタではない。
ましてや魔法も使えない、特別な知識もない、ただの空想好きのモノズキだ。
そんなわたしが、サンタの仕事の一端を担う意味を、
クリスマスが迫って来たこの時期になって、うだうだ考えていた。
何もないわたしに、何ができるというのだろうか、と。

でも、モノズキでモノカキを続けてきたことで
知り合えた友人はたくさんいる。「なくしもの屋」もその一人で、だからこそ
こういった"願い"が自分のところにまわってきたのかもしれない。

彼女の"願い"を、そして、彼女を思う親御さんの"願い"を
なんとか形にしたい。
気がついたときには、辺りはすっかり暗くなっていた。




「いいガラス玉だな。これなら耐えうるだろう」
モノカキサンタ達が集う建物のてっぺんは時計台となっている。
あれから数日たったある日の晩、その時計台の屋根にひとりの女性が腰かけて
透明なガラス玉を手にまじまじと眺めながら呟いた。

「うん。わたしが信頼をおくガラス職人の友人に頼んで作ってもらったものだから。…あなたにも、急に無理を言って、ごめんね」

真下の小窓からゆっくりと、わたしも時計台下の屋根にあがりながら言った。
冷たい風が頬を刺す。寒い。が、その澄んだ空気に凛とした気持ちになる。


「なに、あんたの頼みだ。…だけど、いいのか? 死者との繋がりという感覚に、具体的な形を与えてしまっても」

「うん…だけど、そういう物があってもいいんじゃないかな。手元にあるということが、時に救いになることもあるもの、きっと」

「…そうか。そうかもしれないな」

静かな、少しだけ寂しさを含んだ声色だった。
星に思う大事な人が、彼女にも、わたしにもいる。
風が2人の髪を揺らした。

「…そろそろだな」
空気を変えるように、彼女は大きく息を吸い込んだ後、そう言った。
そしてガラス玉を親指と人差し指でつまみ、すっと腕を空に伸ばした。

透明だったガラス玉の中に満天の星空が映りこむ。

その時、時計台の針がちょうど「十二」をさし示し、鐘が鳴り響いた。
それと同時に、彼女はぎゅっとガラス玉をその手の内に握りしめた。

明日だった時間が今日になる。
今日だった時間が昨日に変わる。

鐘がなりやみ、再び辺りが静寂に包まれると、彼女は空に向かって伸ばしていた腕をゆっくりと引き戻し、掌を下にして今度はわたしに向け伸ばした。

彼女の目が真っ直ぐにわたしをとらえている。
わたしは黙ってうなずいて、両手で彼女の手の中のものを受けとった。

そして、そっと手を開く。
と、同時にほのかに指の間から光があふれ出る。
そこには、星空をそっくり映しこんだまま時を止めたガラス玉があった。

「うまくいったようだな」

それを彼女も覗きこみ、ほっとしたように表情を緩めた。

「…おじいちゃんの星だって、思ってくれるかな」

「人の思いが物に意味をもたせ、実際にその力が宿る事案を私はいくつも知ってる。その子供が願うなら、そいつは、"おじいちゃんの星"になるだろう。それに、そのガラス玉自身もそうなることを願ってるようだしな」

「うん、そっか、ありがとう」

わたしはクリスマスの夜に
そっと枕元にこの「星」を届けにいくことを思って
包みを開けたときの、その子と、その子の喜ぶとこを見た"願いの落とし主"が喜ぶところを思って

心があたたかく踊った。



人は、どうして誰かを喜ばせたいのだろう。

喜ばれると、自分が嬉しいから。
誰かを喜ばせることができる自分に
価値を感じるから。

それって、エゴじゃないか?押し付けじゃないか?時折、悩む。
相手の願いが見えにくい程、こちらの好意が、相手の不快となることも起こりうるわけで。

でも、クリスマスは…。

いいじゃないか、分かりやすく
物を通して誰かを喜ばせることができる日があったって。
誰かを喜ばせられる自分を、好きになれる日があったって。

サンタになれることは
とてもとても幸せだなと、思った。


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イラストは小山さとりさんとれとろで担当いたしました。
楽しいクリスマスがみなさまに訪れますように。


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