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“早慶クラシコ”から、大学スポーツの未来を変える。ユニサカ代表理事・奥山大の決意。

 毎年7月に開催される、早慶サッカー定期戦。筆者は、毎年現地(等々力陸上競技場)で観戦している。だからこそ実感しているのは、年々目に見えるかたちで、盛り上がりが増してきているということだ。著名なアーティストによるハーフタイムショーや、飲食店・両校のサークルとのコラボレーションなど、試合以外にも楽しめる要素を充実させることで、入場者数も右肩上がりで増加している(*1)。“早慶クラシコ”(*2)は、単なる学生同士の試合という枠を超えた、スポーツイベントへと進化を遂げた。

*1参考資料↓
*2 クラシコ=サッカー・スペインリーグのレアル・マドリードとFCバルセロナの試合のことを指す。スペインダービー(Derbi español)とも呼ばれ、数あるナショナルダービーの中でも最も注目を集めるものの1つである。

 そして、その成長を牽引するのが、現役の学生が中心となって運営されている一般社団法人ユニサカだ。「大学サッカーの人気向上による競技力向上」というビジョンのもと、“早慶クラシコプロジェクト”を実施。大学スポーツを盛り上げたいという志を持つ体育会の学生が、部や大学という枠組みを超えて集結し、既存の価値観にとらわれない取り組みを行なっている。

 今回は、そのユニサカで代表理事を務める、慶應義塾大学4年/ソッカー部マネージャーの奥山大さんに話を聞いた。


『葛藤』が枠を超える勇気を生んだ

(以下、奥山さん)

 普段は、慶應義塾体育会ソッカー部のマネージャーとして、1部昇格を目指す選手たちのサポートをしています。部での活動に加えて、いま力を注いでいるのが、一般社団法人ユニサカでの取り組みです。代表理事として、「早慶クラシコプロジェクト」や「関東リーグ1000名動員プロジェクト」を成功させるための試行錯誤を、メンバーたちと日々重ねています。

 もう一つ、僕がソッカー部やユニサカと同じく注力しているのが、K-Projectです。慶應義塾体育会の集客力を、競技横断的に向上させていくためのチャレンジで、部の垣根を超えて現役の体育会部員が集まり、様々な意見を交わしながら切磋琢磨できるコミュニティを目指しています。

 今はソッカー部以外の場所でも、大学スポーツを盛り上げるための取り組みに対して、こうして積極的に関わるようになりました。そうなったきっかけとして、マネージャーという立場から、学生アスリートである仲間の姿を見続けてきた影響が大きいです。

 マネージャーとして入部し、学生をしながら競技に打ち込む彼らと多くの時間を共にするようになると、「大好きなサッカーができること」に対する喜びだけではなく、「体育会の学生だからこそ抱える葛藤がある」ことを実感するようになりました。

 やがてプレーする仲間たちと同じように、僕自身の中にも葛藤が芽生えてきたんです。「マネージャーとして、何かもっとできることがあるはずだ」。そういう思いが自分の中で、日に日に強くなっていくのを感じました。

 その思いが、次第に「マネージャーという枠を超えて、何かできることがあるはずだ」という気持ちになって、新しいチャレンジがしたいという意欲も湧いてきました。そのタイミングで「自分にできそうなことに、思い切って挑戦してみよう」と決心したことが、ユニサカやK-Projectでの挑戦につながっています。

避けては通れない『問い』

 大学スポーツでは、『学生主体』という言葉が多く使われますが、実際にチームの様々なマネジメントを責任を持って担っていくのは、他でもない僕たち学生自身です。自分たちで自分たちの指針をつくっていく必要があって、そこに最大のやりがいと、最大の難しさがあります。同時に、葛藤もこの過程で顕在化してくるものだと考えています。

 その理由はいくつかあるのですが、一番は指針をつくる上で「何のために部活をやるのか」という問いが避けては通れないものであり、部員一人一人がその問いと向き合う必要があるということだと思っています。ソッカー部に限らず、体育会に所属する全ての学生が、対峙するこの問いに対してどう向き合っていくのか。考え続けていくからこそ、自分でも気づいていなかったような気持ちが浮き彫りになってきます。

 大学4年間が誰にとっても貴重な時間である中で、そのうちの多くを練習に投下し、チームのために全力を尽くすからこそ、「この先に何があるのか」や「このままでいいのか」といった葛藤へとつながるんです。K-Projectであれば、どうすれば大学スポーツを見に来てもらえるかといった議論をしながら、体育会の学生同士で多種多様な意見交換ができる。そういうコミュニケーションができる場所になっていけばいいなと考えています。

根源にあるのは「サッカーが好きだ」という情熱

 改めて、自分がソッカー部に入った頃のことを振り返ると、そのときも不安や悩みがたくさんありました。

 僕は幼い頃から高校3年生までずっと、地元・青森でサッカーをやっていました。高校生サッカーから引退して、しばらく色々なことを考えていたのですが、足首に怪我をしていたこともあって、選手としてやっていくことには限界を感じていたんです。でも、プレーすること自体は不可能ではなくて、「やっぱり大学でもやろうかな」と、すごく揺れたりもして。そうやって、色々な思いが重なるうちに、「これまで必死に練習して身につけてきたドリブルやパスは、この先何の役に立つのか」とか、「自分は何のためにサッカーを頑張ってきたんだろう」とか、もやもやと考えていました。

 その中で出した結論が、ソッカー部のマネージャーという選択でした。「サッカーに関わりたい」という思いが消えることはない一方で、選手としての限界も拭い去ることはできない。その二つを考え抜いた結果、出てきた答えだったんです。高校時代は最後の試合で力を出し切れず、納得のいかない引退となってしまったので、「もう一度サッカーと向き合いたい」という強い気持ちも、やっぱり心の奥底にはあったと思います。

 入部してからずっと感じてきたのは、僕以外の部員のみんなも、「自分はサッカーが好きだ」という情熱が根源にある人ばかりだということです。その情熱がどこへ向くか、そこが人それぞれ違うところなんです。プロを目指す人もいれば、高校サッカーの悔しさを晴らしたい、早慶サッカーに出たい、両親に恩返ししたい、そうやって一人一人の様々な思いが発露する。ソッカー部だからこそ、大学スポーツだからこそ、そういう場所ができるんだと思います。

 正直に言って、僕自身は「自分が将来どうなっていたいか」を明確にイメージすることができません。でも、まずは今やっていることに胸を張れる、そのために全力を維持できる状態でありたいということはいつも思っています。それは決断を重ね、目標を達成するために頑張る今の自分が、将来の自分をどこかで応援してくれる存在になる、そう確信しているからです。だからこそ、今は大学スポーツの盛り上がりのためにやれることをやる。そういう気持ちが益々強くなっています。

 僕が頑張ろうと思える原動力の一つに、地元の存在があります。八戸のことが大好きなんですけど、それは「自分がここで生まれてよかった」という純粋な気持ちにつながっていて、心の支えにもなっているんですよね。そういう支えを持っている人は少なくないと思いますが、「慶應の体育会に入ってよかった」と思える人も増やしていきたい。ユニサカやK-Projectでやっていることを通じて、母校で励んだことに特別な思いを持ってもらえたら嬉しいです

同じ方向を目指せているか

 僕が体育会の当事者として過ごせる時間は、もう一年もありません。時間が短くなってきて、気持ちとして変化したことがあります。

 「自分が何か名前の残るようなことを成し遂げる」。それこそが、これまでいろんなことを教えてくれた人たちへの恩返しになるとか、それが自分の使命だとか、活動を始めた当初は、そういう考え方をしていました。でも、独りよがりで押し付けのコミュニケーションになっているんじゃないかと、徐々に考え直すようになって。大学スポーツの位置付けなんて人によってバラバラだし、「みんなで山を登っている」という意識がどこか抜けているんじゃないかと。

 自分の中に確固たる目標はありますが、その目標は一人で叶えられるものではありません。色々な人を巻き込んでいく必要があるし、一人ひとりが主体性を持ってやっていける、そういうチームにしていく必要があり、僕は常にそのための視点を持っていなければいけない。当たり前のことなんですけど、大事なのは、あくまで共に頑張る一人ひとりの中に個別のストーリーがある、その上で僕のストーリーも自分ごととして捉えてもらう、そういうバランス感覚なんだということに気づきました。

 それに気付くまでは、例えば自分の意見がうまく伝わらないと感じたときに、僕の考えを完全に理解してもらうために必要なことを、必死に考えていたんです。でも僕がやるべきことはそうではなくて、考えは多少違ってもいいから、同じ方向を向いて一緒に取り組んでもらう人を増やしていくことなんだと考えるようになりました。「少し考え方は違っていても、みんなで一つの主語を共有して、同じ方向を向けているかどうかを常に確認する」。そういうコミュニケーションを心がけるようになってから、周りの人たちとより前向きに、色々なことに挑戦できるようになったと感じます。

観客のワクワクが選手たちに必ず伝わる

 何よりも、今年の“早慶クラシコ”を大成功させたい。その思いだけは誰にも負けません。

 僕自身、入部した当初は、「どうしてそこまで早稲田を意識する必要があるのか」と疑問に思っていました。でも、初めて早慶サッカーの盛り上がりを体験して、「言葉にできない、そこいることでしか感じられないものが本当にあるんだ」と、めちゃくちゃ感動したんです。あのインパクトが忘れられなくて。だから大成功だったと言えるように、やれることは全てやりきりたいです。

 もちろん、ライブ配信や中継もありますけど、やっぱり感情の揺さぶりとか人に刺さるものとかは、生で観るのが一番だと思っています。何より、これはもう絶対なんですけど、ワクワクする観客の気持ちは、ピッチでプレーする選手たちにとってエネルギーになるんですよ。自分は観客の皆さんに対して、ピッチに出て体を張ることはできないですけど、自分にできる形でお客さんにワクワクを届けて、選手たちにはエネルギーを届けたい、その一心でプロジェクトを進めています。当日会場にいる方々に、記憶に深く残る体験を提供できたら、これ以上嬉しいことはありません。最後の最後まで、目の前のこと一つ一つに全力で取り組んでいきます。

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取材・執筆=栗村智弘
写真・デザイン=高橋団

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。「大学スポーツの『人それぞれ』を伝え、広がりをつくっていく」という信念を大切に、一つ一つ、発信を積み重ねていきます。