お出かけ徒然なるままに ~むつざわスマートウェルネスタウン

ご縁があり、むつざわスマートウェルネスタウンを訪問し、睦沢町役場の方々とも意見交換できた件について、雑感所感を徒然なるままに。近藤克則先生研究チームからのご紹介に大変感謝。

2023年5月、むつざわ道の駅へ。同僚先生と。

訪問の目的

まちづくりにおける健康に関連した研究活動や成果活用の実装例について見学・意見交換を通し、多様なステークホルダーと取り組む高齢者の健康に焦点を当てた研究について学習し今後の示唆を得る

 役場の企画財政課、健康福祉課の方々が来てくださる。
 導入でむつざわスマートウェルネスタウンの紹介動画を鑑賞。プロジェクトの概要を説明いただき、日本老年学的評価研究(JAGES)の近藤研究チームが関わった成果も伺う。
 ちょうど2023年6月に開催された日本老年学会総会のシンポジウムにて、「スマートウェルネスシティ」が取り上げられていた。個人的には全国的に推進されたスマートウェルネスシティとむつざわの事例がつながり、勝手に盛り上がって聞いていた。

睦沢町と道の駅

 睦沢町の正式な概況は他に譲りつつ、ここでは今回の訪問に際して入手した情報のみを記載する。語弊や誤りがあってもお許しいただきたい。
睦沢町付近は、農産物が特産であることに加え、国内有数の天然ガス産出地である。さらに2020オリンピックでサーフィン種目の会場となった一之宮が近く、ゴルフ場も豊富で、リタイア後の余暇を楽しむための別荘購入者が多く流入するという特徴がある。
 そして道の駅には睦沢町を中心とした近隣で収穫される農産物や花など、生産者の顔が見える品々が並ぶ。年配の方はもちろん、小さな子どもを連れている人も。レストランに温泉、敷地内には遊具、そして住居が隣接している。防災拠点としての役割も担えるよう設計されているとのこと。

ミドル層への先進予防アプローチ

 道の駅のリニューアルのタイミングで、先進予防事業にからめてスマートウェルネスタウン事業は始動した。ターゲット層は、なかなか健康イベントなどに足を運んでもらいにくい壮年期にあたるミドル層。仕事や子育てで忙しくしている層だ。令和2年からは町民の健康をサポートするアプリ「むつざわさん歩」もはじめ、健康チェックができるイベント(おでかけフェスタ)や運動公園に来てもらえるような仕掛けづくりをしている。
意見交換でも話題にのぼったが、健康に対して無関心な層にどうやって興味を持ってもらうかは、予防やセルフケア支援でなかなか有効な手立てが見つかりにくいポイントだ。仕掛ける側は、欲が出てみんなに健康を一番に考えて生活してほしいと思いがちだが、みんながみんな、人生の中で健康を第一優先にはしていないし、それが一番良いとも言えない。LIFEにおける価値の置き所は千差万別、正解はない。なので、健康に無関心な層には、とりあえず別の目的でもいいので、出てきてもらうだけでも、大変な成果だと考えた方がいい。行動変容を起こすハードルは高い。

閉じてしまいがちな認知症介護

 今でも認知症は、他人には話しにくいあるいは話したくない事情と思われることが多いようだ。
 まちの中の健康イベントや人が集まる場所を作ったときに、どこかに出向いてくる人は、他の機会にも参加しているというように、来る人は大体知った顔になりやすい。裏を返せば、出てこない人は、いろいろな場や機会を展開しても、やっぱりどこにも出てこない可能性が高いということだろう。
その理由の一つには、認知症への偏見もあるのではとのお話。認知症に関する啓蒙活動は全国的に盛んになり、認知症サポーター養成も進んだことで、幅広い人々にとっての認知症や認知症を有する人への捉え方は随分変わってきた。それでも、自分や家族が認知症であると話すのは、恥ずかしさや引け目など心理的なハードルが高いのではと伺う。
 そうすると、認知症を有する人と家族は家の中だけで完結しようとし、結果的に家族介護者の負担が大きくなり、ご本人も苦しくなる状況が生まれやすくなる。この点へのアプローチも目下の課題とのこと。認知症カフェをはじめとするいろいろな事業を展開しながら実態把握に励むものの、このような状況にある人・世帯が実数としてどのくらいいるのかも把握できていないと。

研究成果を社会実装する上での覚書

 研究として進めるにも、まちづくりプロジェクトとして進めるにも、その取り組みの評価設定は重要ポイントだ。健康に関する介入研究の場合、アウトカムは罹患率や死亡率などがわかりやすくて、強そうなイメージである。明らかに有効だと考えられる指標の変化があればいいのだが、実際は実験室でも病院の中の治療介入でもないので、多要素で複雑な変化が起き、わかりやすい項目では効果を見られないことも多い。
 このプロジェクトでは、主観的健康感が高くなったというのが、その時点での結論となっていた。主観的健康感が高い、つまり、参加者の主観で前より健康になった感じがするというようなものだ。健康の概念として、「主観的健康感」はすでに確立されており、測定具もきちっとある。ただ、もっとばしっとわかりやすい結論でないと、研究者以外のまちの人々などには納得してもらえないのではと疑問に思った。
 そこで町役場の方から、主観的健康感が高まった先にどのようなインパクトがあるのかについて、知見を示してほしいと研究者へのリクエストをいただいた。その発言に改めて、介入の評価やアウトカムに用いる概念が、対象となるポピュレーションやステークホルダー(ここでは、企画財政担当の自治体の人など)にとって、どのような意味をもつのかを自覚し、意識的に明示していく必要性を感じた。特に、外部資金を投入する研究では、研究成果の一般への公開も求められている。そして、「まち」という一つの生きた場に入り込み、一緒に取り組んでいく研究だからこそ、質の高い研究につながるアウトカム設定だけでなく、そのアウトカム達成の臨床的な表現型を共有する大切さが生じるのではないだろうか。コ・デザイン(協働デザイン)プログラムでは、その点も指摘されているのではと思う。今後調べてみたい。
 国際老年学会などで近年さかんに発表されている、Age-Friendly Cities(あるいは、Dementia-Friendly Communities)の報告でも、その取り組みの評価をどのようにするか議論が多い。まだ現在のメインは学術的な観点で、評価指標の開発・検証が論じられているように思う。今後はプロジェクトにかかわる多様な立場から、それぞれにとって解釈可能で有益な評価指標についてさらに議論が深まると大変興味深いと思う。

 この件に関連して、8月1日に成果報告シンポジウムに参加予定。つづきが書ければ。

記事作成日:2023年7月7日


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