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【インドの社会考察】カーストと政治

本日はカーストについての話だ。
カーストとは、一言で言うならば、身分制度のことである。
「スクールカースト」という言葉があるように、このことは日本でも多くの人に認知されていることだろうと思う。
今年は選挙イヤーでもあり、おそらく、野党側は票田の開拓のため、全国的なカースト調査をマニフェストに含める可能性が高い。
カースト調査がなぜ、票田の開拓につながるのか、政治との関係に焦点を当て、考察していく。


カーストについて:


ヒンドゥー教の法典のひとつで、最も権威のあるものとされるマヌ法典では、カーストへの言及が確認されている。
しかし、歴史家によれば、植民地以前に、カーストによる支配を確認できる資料は存在せず、カーストの厳格な制度化が進んだのは英国統治時代に入ってからだと言われる。
それまでは、カースト間の移動も比較的容易で行え、社会の大部分はカーストを意識せずに生活を行っていたという。

カーストの制度化:


統治時代に入り、カーストは制度化されていく。
理由はシンプルで、多様で複雑な土地を支配するには、一つのルールによって社会を制度化し、単一の社会を生み出す必要があったためだ。
このころに、カースト制度は、4つの主要なカテゴリーに分けられ、それはヒンドゥー教の創造神であるブラフマーに由来すると解釈された。
頭部はバラモン(僧侶・教師)、身体の部分がクシャトリア(支配層、戦士) 、下肢の部分がヴァイシャ(商人・農民)、足の部分がシュードラ(上記三階級に奉仕する労働者)の順に表され、
カースト以外には、ダリットや不可触賤民といったアウトオブカーストが存在する。

ブラフマーとカースト図

1834年にはバラモンだけで107のカーストが存在した。
1871年に国勢調査に携わったWR Cornish氏はカーストについてこのような記述を行っていた。

「カーストの起源については、ヒンドゥー教の法典に書かれている記述に頼ることはできない。ヒンドゥー教徒が4つの階級から構成されていた時代があったかどうかは、極めて疑わしい。」
"… regarding the origin of caste we can place no reliance upon the statements made in the Hindu sacred writings.
Whether there was ever a period in which the Hindus were composed of four classes is exceedingly doubtful"

1880年から全国でカースト調査は実施され、これは1941年まで続くことになる。
この調査を通じて、後進カーストへの公立学校や官公庁の入試試験での優先枠が定められた。
1932年には後進カースト住民による後進カーストの候補者への選挙が英国統治政府から提案されるも、マハトマ・ガンディーの猛烈な反対により、結局、後進カーストへの指定議席が定められことになる。
これはのちに、彼らの政治・経済・社会参加を促すための改革案として、
インド憲法に、「指定カースト(SC)・指定部族(ST)への国公立大学の入学枠、中央省庁・公的機関の優先枠」と「向こう10年間、指定カースト(SC)・指定部族(ST)への参加を確保するための、留保議席の設置」
を認める文言が明記される。

独立後のカースト制度:


このようにインド憲法には、社会的な優遇措置(上記の教育と仕事の優先枠)と政治的な優遇措置(中央と州政府の留保議席)が存在した。
憲法の発表から10年後に、政治的な優遇措置は見直しがされるはずであったが、2030年まで延長されることになった。
こうして、1979年に優遇措置は見直し、つまり現在どれだけの人がSC・STに該当するのかを調査する委員会、通称「マンデル委員会」が中央政府によって発足する。
1980年に提出された調査結果は驚くべきものであった。
結果によれば、インドの人口の52%が、SC・STであり、国公立大学の入学枠、中央省庁・公的機関の優先枠の27パーセントは彼らに割り当てられる必要がある、というものだった。
この後当時の政権与党のBJPは下野し、国民会議に政権交代をしてからは、「マンデル委員会」の結果は触れられずにきた。
しかし1990年に国民会議が下野したことを契機に、「マンデル委員会」の調査結果は実施された。
この調査には、SC・SCに加え、「その他の後進カースト(OBC)」という区分も存在し、これらを合わせると実に49.5パーセントが社会的な優遇措置されることになった。

マンデル委員会の調査結果による優先枠のグラフ

現在の問題:


現在まで、あらゆるカーストや部族がこの優先枠を求めて、抗議を行い始めた。
理由は実際の優先枠と実際の雇用数にはギャップがあり、優先枠に自身のカースト・部族を登録させたいからだ。
これは2021年に公表された中央政府のSC・ST・OBCの実際の雇用数と優先枠である。
これを見るとOBCには優先枠と実際の雇用には大きなギャップがある
優先枠とは試験の合格点が下がるだけで、試験自体は同じなので、合格点が得られなけらなければ、仕事を確保できない。
これは大学や上級官僚などでは顕著で、優先枠はあるが、実際はその人数に届いていない。
政党も票田の開拓のため、新たなカースト調査を実施し、これらのカースト・部族を登録させたいこともあり、次第にカーストの問題は、本来あるべき弱者救済から、政治的な問題へとシフトして行ってしまっている。

最後に:


カースト差別は、みんな反対である。
そしてカーストの優遇は本来、カーストのない社会を目指して作られたものである。
しかし、実際には政治的分断を呼び、カーストの存在感はむしろ強まっている。
この矛盾をインドはこれからどう乗り越えるだろうか。
与野党を超えた解決が望まれる。

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