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『翔んで埼玉Ⅱ』映画感想~県民たちの誇りと驕り~

翔んで埼玉Ⅱ

埼玉県民として公開初日に埼玉県の映画館で『翔んで埼玉Ⅱ』を鑑賞してきました。

誇り高き埼玉県民、麻美麗を主人公として描かれた本作品は劇場がゴリ推ししているため少なくとも30分に1回は上映している鬼滅の刃無限列車編ペース、満員とはいかないもののロビーにはたくさんのお客さんがいました。
実際に見た感想としては、とても馬鹿げていてだけどその馬鹿な部分を除いても一作目よりも重厚なストーリーになっていたと思います。

前作は東京埼玉などの関東地方が舞台でしたが今作では麻美麗が和歌山の白浜から砂を取ってきて埼玉にビーチを作るという計画を立てて関西に向かうため滋賀や大阪など近畿地方に焦点が当たっています。

そんなしょーもない話の質をぐっと引き上げているのが大阪府知事として大阪だけでなく関西に影響を及ぼし君臨する嘉祥寺 晃を演じた片岡愛之助さんと大阪府に虐げられている滋賀県民を救うために立ち上がる滋賀解放戦線のリーダーで滋賀のオスカルと呼ばれている桔梗魁演じた杏さんの存在です。

この二人の演技力が凄すぎて馬鹿馬鹿しい映画のはずなのに傑作ミュージカル『レ・ミゼラブル』のような上質な大衆喝采作品に感じられ、目が離せませんでした。
麻美麗を演じたGACKTさんも「片岡愛之助さんがいたことで作品が引き締まった」とおっしゃっておりまさしくその通りの出来です。

「埼玉県が~」と埼玉あるあるを言いながら映画の感想を書こうと思っていたのですが今回は大阪と滋賀の関係を中心に書いていきたいと思います。

あらすじ

1作目ではダサいたまと言われ東京都民から虐げられ、通行手形なしでは東京を行き来できない埼玉県民を救うために埼玉解放戦線のリーダー麻美麗や彼に一途な恋心を抱いている生粋の東京都民、壇ノ浦百美の活躍で東京都知事の不正を明らかにして、通行手形の撤廃を成し遂げます。

2作目では平和が訪れた埼玉に海をつくると掲げ、麻美麗ははるばる和歌山まで白い砂を取りに船で向かいますが、その途中船が難破してしまい、白浜ビーチで桔梗魁に助けられます。
桔梗魁が住む滋賀県の県民も大阪府に虐げられていて、仲間が甲子園で強制労働させられており、その同士を解放するためリーダーとして立ち上がり戦っていました。
麻美麗が乗っていて難破した船には彼の同士も乗っていましたが運悪く大阪に捕らえられてしまい甲子園に収容されたことや、埼玉と滋賀は同じ虐げられている立場の県民であったと2人は意気投合して、麻美麗は滋賀解放戦線に加わります。

一方悪役である嘉祥寺 晃は密かに大阪植民地化計画を進めており、大阪率いる京都市&神戸市VS滋賀&和歌山&奈良と近畿地方を巻き込む壮大な戦いへと発展していくという話です。

物語の中で成長する桔梗魁

滋賀解放戦線のリーダーである桔梗魁は大阪で強制労働させられている同士を救うために麻美麗と手を組みますが、嘉祥寺晃に麻美麗を差し出せば滋賀県民を解放すると唆され一旦は裏切ります。しかし、意気投合した仲間を裏切っても、滋賀県民を解放してくれず罪の意識や自分の無力さを感じます。

そんな彼を立派なリーダーへと成長させるのは麻美麗の存在です。
埼玉解放戦線のリーダー麻美麗は前作で埼玉を救っただけでなく、埼玉に海を作るという壮大な計画を持ち、そのために誰よりも危険を顧みず、前に立ち勝利へと先導するカリスマ的リーダーです。
しかし、桔梗魁は初代滋賀解放戦線リーダーであった母の意志を受け継いだものの、まだリーダーとしてどうすればいいのか分からず、嘉祥寺の甘い言葉を受け入れてしまうようなまだ未熟のリーダーです。

それから再び桔梗魁は反省をして捕らえられた麻美麗を救い、彼からリーダーとしての心得だけでなく誇り高き県民とは何かを学び成長していきます。

終盤の大阪府&京都府&神戸市という強大で高い地位を持つ敵と戦うことに弱気になっている滋賀県&奈良県&和歌山県の県民を桔梗魁が鼓舞するシーンはよく考えればただの県民ディスを言っているだけなんですけど杏さんの気合が入りすぎて完全に勝利へと導く演説シーンになっていて、昨年放送された鎌倉殿の13人で北条政子が承久の乱を前に鎌倉武士を焚きつけたシーンを思い出しました。

嘉祥寺晃という名ヴィラン

この映画の主人公は麻美麗ですが、裏主人公は間違いなく嘉祥寺晃です。
キャラ的にほんと素晴らしい悪役で、片岡愛之助さんの大ファンになりました。

彼は大阪愛に満ち溢れた生粋のなにわ男子で、東京と肩を並べるべく大阪都構想という大志を抱いていましたがそれが頓挫してからダークサイドに堕ちてしまいました。
それから、粉物が有名な大阪という評判を利用して、食べた人が関西弁になってしまったり、何かと突っ込んでしまう効果のある怪しい粉を製造して、全国にばら撒いて日本を大阪の植民地にしてやろうという悪だくみを実行します。

他県民には容赦なく、すぐに地下労働施設送りにしたり桔梗を唆して裏切らせるという悪知恵も働く男ですが、そのすべては大阪を1番にするため、粉物が大好きだったりと、大阪を愛する心は変わりません。

京都市長や神戸市長と手を組んでいますが京都の雅さや神戸の華やかさに嫉妬している部分もあり、派手に着飾らなければ自分を保てないとコンプレックスを抱いているような描写もあり人間味もあります。
彼のキャラクターを120%引き出している片岡愛之助さんの演技力は本当に凄いと思いました。嫌だと思いますが片岡愛之助さんにとっての代表作といえるでしょう。

それと大阪府知事を演じた片岡愛之助さんと神戸市長を演じていた藤原紀香さんは夫婦であり、なんとその2人が画面の1つに収まるシーンがいくつもあり、さらにとんでもないシーンも用意されており、ただただ驚きです。
「あれ!?2人夫婦だったよな!?」と混乱するくらい攻めたシーンもあるので必見です。

大阪視点で考えると、大阪は関西では一番栄えていますが、全国で見ると東京には絶対に勝てない、いわば永遠の2番手の立ち位置にいるのです。
それをどうにかして東京と肩を並べることだけでなく超そうとしている。
手段はどうあれその野望の高さはどのキャラクターよりも高いと思います。
大阪植民地計画を進めている中で、眼中になかった東の埼玉県民に邪魔をされ、滋賀や和歌山、奈良が奮起して反旗を翻す、嘉祥寺晃にとってはたまったもんじゃありません。
大阪にまったく縁はありませんが大阪を応援したい気持ちも出てきました。

誇りと驕り

記事のサブタイトルにした『誇りと驕り』は『少女歌劇レヴュースタァライト』の劇中歌からとっており、私は翔んで埼玉Ⅱを観ている時にこの劇中歌が頭の中に流れました。

麻美麗や桔梗魁は虐げれている側の県民ですが決して屈せず誇りを持って戦っている、一方嘉祥寺晃は大阪という近畿地方を牽引する県の府知事という立場であり、さらに上へと目指していますが権力の高さから驕りを持ってしまい、ダークサイドに堕ちてしまったこともあり、傲慢な態度で他県の人間を利用しています。

しかし、両者ともより高みへと目指したいという欲求があるからこそ何かを手に入れようとする、誇りと驕りは紙一重になっていると改めて思いました。

『少女歌劇レヴュースタァライト』は神楽ひかりと共にスタァになるためにその夢を目指し、誇りを持って戦う愛城華恋と、西條クロディーヌという決して目の離せない存在に迷いを見せながらも圧倒的な高みと誇りを持って孤高を受け入れ頂点に立ち続ける天堂真矢のレヴューが行われ、戦いで交わっても心の中で交われない2人の心理が歌にして表現されています。

お互い誇りを持っているつもりでも、もしかしたら愛城華恋としては頂点に立ち続ける天堂真矢の誇りを驕りに感じ、天堂真矢としては頂点に立てるのは1人なのに2人で立とうと戦う愛城華恋は覚悟のない驕りから芽生えた夢だと感じているのかもしれません。(これは私の解釈です)

さいごに

終盤は『少女歌劇レヴュースタァライト』のステマです、翔んで埼玉Ⅱと一緒に見てください。

翔んで埼玉Ⅲがあるとしたら博多VS佐賀と思わせてまさかの世界進出ニューヨーク州VSその周りの州とかがありえそうです。

それと最後に言いたいこと、エンディングが素晴らしいです。
前作に引き続きはなわが歌っており、1作目の歌は埼玉を面白おかしくディスる歌でしたが今作はただただ埼玉って住みやすいよねという歌になっており埼玉県民の私は共感しました。
歌詞やメロディーもすごくキャッチ―でいい曲なのでぜひ聞いてください。

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