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米澤穂信『小市民シリーズ』アニメ化決定!喜びと共に面白さを紹介したい


『小市民シリーズ』アニメ化決定おめでとう!!

先日、創元推理文庫から出版されている米澤穂信作『小市民シリーズ』のアニメ化についての発表がありました!

個人的にもう今年はこれ以上の嬉しい情報はないのではないかと思うくらいのサプライズ、本当に嬉しいです!
原作者やアニメ化に携わるスタッフ、その他作品に関わった関係者にお礼を申し上げます。

嬉しかったのが、このシリーズは日常で巻き起こる不思議な事件を描くいわゆる〈日常ミステリー〉というジャンルなんですが、同作者の作品で『氷菓シリーズ』があり、氷菓シリーズの方が先にアニメ化されたこともあるのでそちらの方が有名で、周りに小市民シリーズを知っている人がいない状況だったので、こちらはファンがあまりいないのかなと思っていました。
だけど、Xではアニメ化で喜んでいる人がたくさんいて、トレンド入りまでしていたのでアニメ化を望んでいる人が沢山いたのだと嬉しく思いました。
原作1巻目は↓、是非アニメ化までに一読して欲しいです。

日常ミステリーの魅力

私が小市民シリーズ1巻である『春期限定いちごタルト事件』をはじめて読んだのは大学生の時でミステリー小説にハマっていた全盛期でした。

殺人ミステリーを読み過ぎて頭が疲れていて、そんな時に可愛らしい表紙とタイトルが購入のきっかけとなります。
衝撃的でした、殺人ミステリーよりも気楽に読めますが、トリックなどは優劣をつけられない程本格的で、登場人物が高校生ということもあり青春小説としても楽しめる本作品。

取り上げられるミステリーは、学校内で起きた盗難事件や、美術室にある絵の謎、友達の家に遊びに行った時の友達がした行動についての推理など、事件だけでなく事件までいかない小さな違和感についても描かれています。

こんな題材でどう話を盛り上げていくのかと疑問で、日常ミステリーは殺人ミステリーのスケールの小さい版としか思っていなかったですが、謎の提起から推理の開始、解決の転機となるひらめきがあっての論理的な解決までと、ミステリー小説においてのセオリーを丁寧になぞっていることや、探偵ポジションである小鳩くんとヒロインの小佐内さんの絶妙な距離感の掛け合いと青春への苦悩の描き方も見事で、またミステリーが起きる土台となるドラマもキャラクター性が出ていて最後まで飽きることなく面白く読めます。

それからミステリー小説においては殺人事件を扱っているからスケールが大きいわけではないと知ることが出来きました。
また、私達が生活している世界で何も起きていないと思っている日常でも視野を広げたり、視点を変えればいつでもどこでも謎があり、それを知ろうとすることで知識が広まったり、生活がより面白くなると気が付きました。

私の好きな本のジャンルを広げてくれただけではなく、生き方も少し変えてくれた作品です。
それから私はいろんな日常ミステリー作品を触れてきましたが、小市民シリーズの特に面白い所は〈小鳩常悟朗と小佐内ゆきの関係性〉と〈登場人物のポジションが変わる日常ミステリーの面白さ〉だと思い、それについて紹介します。

そもそも『小市民シリーズ』とは

小市民シリーズは学校内で平穏に暮らしたいと思う小鳩くんと小佐内さんの日常を描き、そこで巻き起こる事件を解決していく作品です。

そもそも小市民シリーズの〈小市民〉というのは小鳩くんと小佐内さんが社会的階級が低くてもいいから、平穏に目立つことなく学校生活を送りたいという志を持って生まれた同盟関係です。

小鳩くんと小佐内さんは同盟関係を結んで平穏な学校生活を手に入れために便宜上交際関係になっていますが、決して愛し合い、いなくてはならないと思い合う共存関係ではなく、小市民として学校生活を送っているか監視し合い、日常的なやっかいごとをお互いの存在で時には盾にもするwin-winな存在とされる共恵関係になっています。

小鳩常悟朗と小佐内ゆきの関係性

本作品の主人公であり物語の視点主でもある小鳩くんはミステリー作品においての謎を解く探偵ポジションです。

しかし、探偵というのはミステリー作品においての中心的人物、謎を解くということは真実を伝える過程でどうしても目立ってしまいます。
そして、真実を伝えるということは時に人間関係に刃を入れることでもあるので、小鳩くんの憧れる小市民とミステリーとしての探偵ポジションは程遠い立場にあります。
そのため、相反する2つのポジションを小鳩くんは担っています。

何故小鳩くんは小市民に憧れるのに探偵ポジションになっているのか。
それは小鳩くんは本来の性格としてミステリーを解くのが好きというか、謎を解いてそれを得意げに指摘する、その結果誰かの人間関係が変わっても気にしないという本作品では〈狐〉と表現されている謎を解きたくてたまらないという生徒でした。
しかし、そんな性格ゆえ中学時代に校内で起きた事件を推理して得意げに解決してしまったことで、集団の中で悪目立ちをしてしまい、平穏に暮らすことができず彼自身の心の中でトラウマが植えられました。

そのため、高校生活は平穏に暮らしたいと、そのために小市民になりきり、もし学校で事件が起きても、その出来事に口を出さないと決意して進学して同じ志を持つ小佐内さんと同盟を組みますが、日常的なミステリーはいつでも潜んでおり、ミステリーが小鳩くんを誘惑します。

謎を解きたくてたまらないけど、謎を解いてしまったら悪目立ちをした中学時代と同じ轍を踏んでしまう。
謎に対して貪欲な小鳩くんが小市民を目指しながらも、また謎を解いてしまう背徳感も含まれる推理シーンが面白いです。

小佐内さんは本作品のヒロインです、スイーツが何より好きで見せかけの交際関係であるものの放課後や休日には小鳩君と一緒にスイーツ屋巡りをしています。

可愛い。
キャラデザ本当に良いです、100点です。

性格はお淑やかで、どちらかというと気弱なんだろうなあ!
そう思っていた方もいるでしょう……

同盟関係が結ばれている理由は平穏な学校生活を望んでいるから、裏を返せば平穏な学校生活を1人では送れない事情があるから同盟関係を結んでいるということです、なので小佐内さんにも裏があります。

小佐内さんは半沢直樹みたいな人です。
あの「やられたらやり返す、倍返しだ!」の。
彼女は心の中に復讐の炎を常に宿し、カウンターを喰らわせることが生きがいで生きていました。
本作品では狐である小鳩君と対照的な〈狼〉と表現されています。
噛みつかれれば、噛みつけ返し、相手が自分の負った傷より深くなるまで決して離さない。執念だけでなく、復讐のためなら小鳩君を凌駕するほどの知能や戦略力もある小佐内さん。
だけど、そんな復讐をしても自分が後味悪いだけも分かっている彼女は小鳩君と同盟関係を結びます。

小佐内さんと小鳩くんは平穏な学校生活を送るために、お互いの心の中に飼っている獣を出してしまわないように監視し合い、利用し合い、甘い物を食べるのです。
それでも平穏に過ごしたい2人の前に謎が舞い込み、推理欲を掻き立てられる小鳩くんは推理をしてしまいます。
小佐内さんが小鳩君に「また推理するんだ」と呆れながら言いますが、彼女は推理する小鳩君も良いと思っているような感じで非常に尊い。

小鳩君が推理する欲求を抑えられない様に小佐内さんも然りと……平穏な学校生活を送るのは難しいと悩み合う仲なのです。

2人の関係性が私は大好きです。

登場人物のポジションが変わる日常ミステリーの面白さ

もう一つこのシリーズの好きなところは登場人物のポジションが変わる日常ミステリー独特の面白さです。
どういうことかと言うと基本的には小鳩君は探偵ポジションで物語が進みますが時には彼が犯人、時には事件に巻き込まれるポジションにもなります。
殺人ミステリーの場合は犯人が探偵ということはルール上ありえないとされています、シリーズ物でも犯人が次の回で探偵役になることもないので。

それはシリーズ2作目の『夏期限定トロピカルパフェ事件』で読むことができ、私はシリーズの中でこの作品がダントツで一番好きです。
特にラスト一文は私の読書史に残る名文だと思っています。

2作目では小鳩君が小佐内さんに買ってきたつもりのケーキが美味しかったので小佐内さんの分まで食べてしまい、どうにかバレない様にケーキ箱に細工をしたり嘘をついて元からなかったようにする話や、事件を推理したのに小佐内さんが小鳩くんよりも1歩先を行ったことで事件の構造が大きく変わったりする話があり、ミステリーとしてのジャンルがとても幅広いです。

日常において人誰でも何かを仕掛ける側になったり、思い通りにいかないことがあるという人生の本質をついた作品になっています。

まとめ

このシリーズアニメ化発表の他に今まで『秋期限定栗きんとん事件』までしか出ていなかったですが15年ぶりに正統続編となる『冬期限定ボンボンショコラ事件』発売されることも決定しました。
それもとてつもなく楽しみです。
最後に公式PVの紹介です。

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