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全ての野球好きに、全ての女の子に、全ての男の子、全ての人々に、捧げる。『野球少女』(チェ・ユンテ監督作品)は、天下一の野球映画だ!

速い球は必要ない。回転数の高いボールとナックルボールで、打者を討ち取る。それがわたしの長所ー

野球が大好きで且つ天才的な能力を持つ少女スイン。韓国では高校の野球部に女子が入ることは許されていないが特例で入部し、野球を続けてきた。最速134kのストレート、女子では世界に数人しかいない触れ込みで、知る人ぞ知る存在だった。

映画パンフレットの解説によれば、韓国の高校野球は、プロを目指す者が選択する特殊な部活で、年間で3200人くらいしか選手はいないそうだ(日本は14万人)その中からプロ野球選手に選ばれるのは、さらにわずか。そんな中に入ったただ一人、プロを目指し努力し続ける少女の立場とは?

自分でいうのもなんだけど、わたしは相当かなりのプロ野球ファンである。中学生の時からプロ野球を見てるし、2007年からは年間最低143試合北海道日本ハムファイターズの試合及び、その他を見てるし、野球本も読むし、野球記事も毎日読むし、普通一般よりは、野球のいろんなことを知っている、はずである。

だから敢えて言いますけども、「最速134kのストレート」は、プロ野球ではほとんど全く評価の対象にはならない。それは韓国でも同じことーいや日本のプロ野球よりも格段にパワー勝負の韓国プロ野球ならば、よりもっと評価は低いと想像できる。映画の中でもスインが言われるように「女とか男とか関係ない、ただ力がないんだ」と。

しかしまた。さらに言ってみますけれども、わたしは、130kのストレートしか投げなかったプロ野球選手を知っている。記憶の限りの最速は138kだが、平均的には130を下回っていたと思う。そんな彼は、27歳でプロ入りし、38歳で引退するまで、都合11シーズン主に先発投手として投げ続け、通算82勝を挙げた(この数字を多いと思うか少ないと思うか。プロ野球好き度の分かれ道はあるだろう)。

(公式発表)身長176cm体重73kg。北海道日本ハムファイターズ。小さな左のエース。その名は、武田勝。

非常に可愛らしいルックスを持つ武田勝は、屈強なでかいサイズのプロ野球選手の中にいると、まるで可憐な、たおやかな少女のように見えることがしばしばあった(ある時は、よぼよぼしたおじいちゃんに見えることもあったけど…)

120~130k のストレート、スライダー、カーブ、チェンジアップ、ボールの回転と緩急、四死球の少なさを誇る精密なコントロールによって打者を翻弄するその姿に。わたしは、大エースダルビッシュ有よりも、他のどんなピッチャーよりも、胸がドキドキときめいた。大好きだ勝さん💓 おっとっと脱線していく前に。

だけど武田勝は、プロ野球選手として最後まで言われ続けていた

「そんなに遅い球でどうやって抑えてるの?」

遅いも速いもへったくれもない。打者を討ち取る、抑えている事実が、その結果なのに。

速い球はいらないー

速い球に自ら固執していたスインは、助言してくれるコーチとともに試行錯誤の末、一つの答えにたどり着き、はっきりと自分を取り巻く大人たちに向かって、言葉にする。

ー野球は難しいスポーツです。でも野球は誰でもできる。女でも男でもできる。回転数の高いボールとナックルボールで、打者を討ち取ること。それがわたしの長所ですー

相手のあるスポーツ。相手との関係性で成り立つ「野球」というスポーツの本質が、そこには、ある。

競技としての野球、女子禁制の場に飛び込むことへの様々な障壁、少女の夢、少年の夢、拒絶する大人、受け入れようとする大人…映画には、様々な、本当に様々な視点から、多くの物事を読み取れる工夫がなされている。

念願を押し通し、ついに韓国プロ野球チーム、SKワイバーンズのトライアウトに挑む、スイン。

相手は、莫大な年棒を稼いでいる巨漢の中心打者だ。

ナックル ナックル 空振り空振り ナックル ファール

ツーストライクのカウントで。

(ストレート投げろ、スイン)

(130kのストレート投げろスイン)

映画館の暗がりの片隅で。わたしは一人、胸の前で両手を組み、祈るように声をかける。いや頭の中だけど。コロナだし映画館だし。声出せないけど。スタンドにいたらきっと叫んだだろう。

ストレート投げろ!! スイン!

彼女の長所が生かされるとしても、スインがプロ野球選手として成功するかどうかは、わからない。でもそれは、どんなプロ野球選手でも同じことだ。




















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