見出し画像

私の中の「食」

予想はしていた。
ひとりになったら1番おろそかになるのは「食」だと。

料理が好きではない。でも苦手ではない。
作ればそれなりのものが出来上がり、意外にも美味しいとの評価も得られる。
ただ私にとって、おっくうな作業であることのひとつ。それを毎日繰り返すことはけっこうしんどい。
娘が成長した今は、手を抜くことばかり考えている。

もともと食に対する興味が薄い。
美味しそうなものをみても、食べたい、行きたいとは思わないことが多い。
人とのギャップを感じる瞬間。

昼休みや仕事帰りの更衣室などで「今日の夕飯何にする?」なんて話になる。この手の会話に弱い。たいてい「何も考えてない」と答える。本当に何も考えてないから、こう答えるしかない。盛り上がらない。

私が夕飯のことを考えるのは帰りのスーパーだったり、帰宅後冷蔵庫を開けてから、なんてことが多い。食べる直前に目についたもので、まあ、なんでもいいのだ。
だから同僚が、美味しい店のメニューで盛り上がっていたり、夕飯のメニューで作り方を教え合っているのを聞いたりして「美味しそう」と思ったとしても、イコール食べたい、作りたいには繋がらない。

子育て中は、一汁三菜をかたくなに守り作ってきた。その反動なのかもしれない。
栄養バランスとか 頭ガチガチで気にしていた。そのせいで苦しいと分かっていても、子どもの身体を作ると思うと毎日毎日手抜きができなかった。美味しい美味しいと食べてくれていたけれど、この作業から解放されたいと思っていた。でも手は抜けない。自分の生真面目さがいやになるほどに。
仕事終わりはクタクタだから、朝早くから夕飯の下ごしらえをしてお弁当も作って、おっくうな作業なのに手抜きができないアンバランスさで、余計に楽しめなかった日々。

ひとりになって義務感が消え、皿数が減った。
それでもたんぱく質と野菜の割合とか気にしてしまうけれど、一汁三菜を取っ払っただけで随分楽になった。
どう手を抜こうか、そんなことばかり考えている。おっくうならお惣菜だって買って帰る。

実は最近出会った元気な100歳の女性に、元気の秘訣は粗食だと言われたばかりだけれど、彼女は粗食の意味を勘違いしないでね、と付け加えていた。
「昔みたいな粗末な食事のことじゃないの。旬のものを食べたりシンプルな味付けにしたり。丁寧に食べること。粗食の、一汁一菜の本が出ているから探してみなさい」
一菜?

ちょうど返却本があったので、図書館に行ってみた。
丁寧な食から離れた少しの罪悪感と、一菜だと作るのが簡単かも、なんて期待があった。

確かに、粗食とは質素ではなくバランスのとれた日本食としての伝統が詰まっているということが書かれていた。載っている写真もなかなか彩りよく美味しそうだ。でもおかず少なすぎない?たんぱく質少なくない?
読み進めていくと「ご飯>汁>おかず」の割合という文字が目に飛び込んできて、そっと本を置いた。

完全に逆である。
私は「おかず>汁>ごはん」
しかもおかずの内容が違い過ぎるし、今や「汁=ビール」だし。ほど遠い。遠すぎる。
不健康と言われても今はまだそこへ行けそうにない。汁(ビール)とつまみをとったら働けない。
たとえ良いと言われても、近づくことは今はできない。心地よくするには、自分の合うスタイルにすることが大切。勝手な言い分でもいい。

もうひとつ食の欠点がある。食べるのが早い。
社会人になってから身についた。
最初の勤務先が休憩中でも担当コールを受けるところだったので、時間がなくて「かっ込む」ことを覚えた。食が、ただお腹を満たすものへとなった時期。あれから早食いはなおらない。だから、食べ過ぎてしまうことにも繋がる。

作る時間より食べる時間が圧倒的に短いということに理不尽さすら覚えてしまうことがある。消費するために作るなんて、と思ってしまう。自分の身体を作る作業でもあるのに。

ここ数日、ついつい早食いになりそうなところを、
ぐっとこらえてゆっくり食す。
ぐっとこらえてゆっくり食す。
繰り返しているうちに、少しだけ、丁寧に生きていると感じることができる。食べるって生きることなんだと当たり前のことを思う。

作る時間より食べる時間が長くなっただけで報われる気がする。大袈裟だけれど。
製作過程が好きな人ならこんなことは考えないのだろう。
私だって、ミシンで時間をかけて作ったまま使っていないポーチやトートバックがあったりする。作る過程が楽しければ、報われないとかそんなこと全然考えない。

食への興味があればもっと味わってゆっくり食べるはず。いや逆にゆっくり食べることができれば、食にもっと丁寧に接することができるのかもしれない。

内容や料理はいったん脇によけて(笑)、せめてよく咀嚼し「食べるという行為」だけでも丁寧であることに、今更ながら 心を尽くしてみる。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?