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西 加奈子 / 通天閣

通天閣、新世界には、旅行や出張で4回くらいしか行ったことがない。なのでTHE 観光客目線にはなってしまうが、ただ、明らかに大阪の他の場所とは違う空気が流れていて、個人的にはとても好きな場所だ。もともと東京でもやや治安が悪い場所が好きなところがあるのだが、新世界は治安が悪いとかとは少し違う。いや、実際治安は悪いんだろうけど。なんというか、人間が生きてるんだよなって感じ。脇道に入るとひりつく空気。嘘も綺麗事もない感じに惹かれてしまうんだと思う。そんな空気を一通り感じた後に、常に見えていた通天閣の麓に戻り、囲碁教室を通り抜け、串カツを食べて帰る。串カツ屋にいるおじさん達、昼間から飲んでるけど普段何してるんだろう。囲碁を打つおじさんも。でもなんか、この感じが好きなんだよな。
小綺麗な梅田、心斎橋よりも。バカみたいに高いあべのハルカスよりも。大阪はやっぱり通天閣、新世界が一番好きだ。

そんな通天閣が見える街で生きる2人が主人公。
1人は、映像作家になると言ってニューヨークに行った恋人の帰りを待つ女性。
もう1人は、人生に対して目標や生きがいを持たずに淡々と日々を生きることにした男性。

交互に描かれるのは、そんな2人の、どうしようもない人々とのどうしようもない日常。
働く場所、そこで働いてる人々。近所の店に近所の人。みんな少しずつ、どうしようもない。
主人公の2人だって、ちょっとどうしようもない。
(西加奈子はどうしようもない人を描くのがうますぎる。)

そんな2人の日々が、ある時交わる。
いつかは交わるんだろうなと思っていたけれど、自分が思っているよりも急に、その瞬間が訪れる。
そのシーンがとても、とても良い。
今自分は、西加奈子を読んでいるんだ!ってことを強く実感できる。
西加奈子は、生きること、愛することを、しっかりと肯定してくれる。
どうしようもなくたっていいんだ、って。

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