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麻布競馬場 / この部屋から東京タワーは永遠に見えない

いつだったか、不意にTwitterのタイムラインに現れたのは、確か本書のはじめに書かれている『3年4組のみんなへ』だった気がする。
田舎への嫌悪、早稲田、東京、自信、現実、諦め。
当時、ツリーに書かれたこれらの物語に完全に打ちのめされたのを覚えている。
そこからこの物語を書いた”麻布競馬場”というアカウントをフォローし、気づいたらいわゆる”タワマン文学”というものにハマってしまっていた。

なぜハマるのか。
自分には関係ない世界だから?
埼玉の中では大きめの街で、共働きの両親のもとで何不自由なく育ち、特に親から勉強を強要されることもなく、受験勉強に追い詰められることもなく、さらーっと入れる大学に入り、さらーっと入れる会社に入った自分。
麻布競馬場が描く学歴社会、マウンティング、プライドと無縁だから?

それは違う。
実は自分も当事者だから、だから目が離せなくなってしまったんだと思う。

埼玉の大きめな街?嫌いじゃないけど好きでもなかった。
受験勉強に追い詰められることなく?本当は頑張って失敗するのが怖くて頑張らなかっただけ。
さらーっと入れる大学に入り?努力しない自分でも入れるレベルで妥協しただけ。実際落ちてるじゃん、早稲田。
さらーっと入れる会社に入った?やりたいことが明確に見つからず、それを考えることから逃げただけ。

とっくに何かから「諦めて」しまった自分が、もしかしたらそうだったかもしれない「自分」と向き合うための物語なのかもしれない。
だから、読んでいて吐き気が止まらなかったんだ。
吐き気が止まらないのに読むのをやめられず、結局一気に読み切ってしまった。地元のドトールで、一番安いブレンドコーヒーのSを飲みながら。

東京は怖い街です。
家族4人で暮らすには家賃が高く、本当は埼玉に戻りたいと思っているのに、なぜか抜けられない。抜け出すタイミングはたくさんあったのに、いつも理由をつけて先延ばしにしてきた結果、色々なしがらみでさらに抜けられなくなってしまいました。
そろそろ自分にとっての”東京”とは何なのか、真剣に向き合わなければいけない時期がきているんだろうと、この本を読んで、突きつけられた気がします。
今年で、38になります。

まるでTwitterのツリーを読んでいるような、140字以内で区切られた段落。
どの話に出てくる「僕」や「私」の中にも、どこかしら必ず「自分」がいる。
その「自分」と向き合う作業はなかなかハードだけど、向き合わなければいけないのが38の自分なんだろうと思う。

そんなわけでまぁまぁ抉られますが、1話目の『3年4組のみんなへ』のラストはたまらなかったです。あと『希望』はただただ泣ける。なんか泣くのが悔しいけれども。
タワマン文学、侮るなかれ。
是非。

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