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「あまちゃん」再放送を見終わり紅白出場シーンを見返した10月のはじまりの日

北野武映画で「あの夏、いちばん静かな海」というのがあります。聾唖カップルの話で結構好きです。

この映画、終わりになってはじめてタイトルが出てくるため、あれ?まだ始まってなかったの?と思わずツッコんでしまいました。

 
同じく北野映画の「キッズ・リターン」では、それをセリフで言わせていますね。
「俺たち、終わっちまったのかな」「バカヤロー、まだ始まっちゃいねえよ」


さて、
「あまちゃん、、終わっちゃったね」には、こう答えましょう。

「あほんだら、こっからがはじまりでガス」

毎日毎日、アキが一人で突っ走っていた防波堤を、アキとユイの二人が走っていました。

 
「明日も、あさっても、来年はこっから先まで行けるんだ」と前向きなセリフを口にしたわりに、アキの走りは遅いぞ。ユイに追い抜かれてるじゃないか。

 
両手を上げたり拳を振ったりと先へ向かうんだという意志表示を前面に表わしているユイに比べ、アキは、アキらしくなくフツーに走っていた。

 

全156話の終わりに近づくにつれ、アキの出番やセリフが少なくなってきていることが気になっていました。
最終週の主役は、鈴鹿ひろ美であり北鉄であり北三陸市であり、どちらかというとアキの周囲の人々や出来事。アキはそれらの変化や成長や復活を傍らで見守るというポジションだったような気がします。

動き出した周囲に重点を置くため、必然的にアキの比率を減らさざるを得なかったのか。
いやいやいや、これも計算に基づくものなのかもしれません。

北三陸編の最後、アキが東京へ旅立つ時、春子は叫びました。

 
「あんたは変わってない、みんなが変わったんだよ」

 
そして勉さんが言うように月と太陽の、太陽であるアキが照らし続けてきたいくつかが、自らの意志で輝きだし動きだしたから、もうじゅうぶん太陽的役割を果たしたアキは描く必要がないってことなんだと思えます。

そう、太陽はいっぱい周囲を照らしました。あとは太陽に照らされいつのまにか自ら光を発する恒星となって輝きはじめた周囲をしっかりと描く。
だからアキの出番が少なかったのかな、と。

ラスト1ヶ月の「あまちゃん」には、実話に基づくエピソードが、巧みに盛り込まれています。

 
震災から5日で北三陸鉄道が一部運行を開始したこと、
さかなクンが魚と水槽を寄贈したこと、
琥珀発掘現場で恐竜の骨が見つかったこと。


「あまちゃん」を見ている人同士で「あまちゃん」の話をするとき、誰も俳優名でその人を呼びません。
大吉さん、足立先生、ミズタクとなどと役名で呼びます。


そんな「あまちゃん」世界と一体化した者にとって実話エピソードの導入はダメ押しでした。誰もがいつのまにかあの町の擬似市民となってしまって、海開きを待ちわび、もっと先まで行ける来年以降を夢見ちゃっています。

第156回(あえて最終回とは言いません)は、良かった。お座敷列車が終わり駅のホームで北鉄を見送るシーンで、放送時間は残りあと数分。そういえば予告で見たトンネル内を走るシーンがまだ出てきていない。この後か。
で、どういうきっかけで走りだすの?

 
おそらく自分だったら

ホームからトンネルを見つめるアキ。
アキ「(ユイに)行ってみようか」
ユイ「え?」
アキ「ユイちゃん、行ってみるべ」

と、アキにきっかけを作らせていたでしょうが、実際は逆。

 

「アイドルになりたーい」とトンネル(の先の東京)に向かって叫び、トンネル内に閉じ込められ、トンネルの先に広がる変わり果てた光景を目にし、もう怖くて東京へは行けない、とまでなってしまったユイが誘う、やられました。

で、♪~ドレミファソラシド~♪ではじまるテーマ曲が流れてきます。

 
灯台に続く防波堤を走る。今度はひとりじゃない。二人。

組み合わせしだいでどんなメロディだって生み出すことができるドレミファソラシド。
アキとユイと、そしてみんなで、どんな曲をこれからを奏でていくの。

こんな締めくくりをされたら続きを期待するなというのが無理。

 
この二人で走る映像は、明らかに「あまちゃん2」のオープニング映像でしょう。

 
「こっから先」をイヤでも期待してしまいます。
1年後?3年後?5年後?

と、本放送の2013年には願っていましたが、10年経っても実現せず、再放送でこうして再び出会えることができました。

 
「来てよ、その火」ならぬ「来てよ、その日を飛び越えた」みんなは、今、どこまで進んでるの?

さあ、私たちはどうやって待ちましょう。


と、(2013年当時に)思っていたら、その年の大晦日紅白歌合戦に大集合です。
「第157回 おら、紅白に出るど」
録画したそのシーンを引っ張り出して、さあ、見返しましょう。

後回しされていたみんなの願いが叶えられる前向きな話なのに、しょせんテレビの中の作られた語なのに、嗚呼なぜにこんなにも泣ける。

個人的うるうるポイントは7つ(順不同)

1:ドラマの中では小生意気なキャラだったマメりんこと足立梨花の実に楽しそうな歌い姿

2:ユイの「アキちゃん、すぐ行くから待ってて」をきっかけにはじまる例の♪~ドレミファソラシド~♪から2stジャンプ

3:「来てよタクシーつかまえて」の歌詞通り捕まえたタクシーが空を飛びTOKIOに舞い降りて、LIVEに切り替わる見事なタイミング

4:鈴鹿ひろ美登場の第一声「アイ・ミス・ユー」

5:年末年始に聞く「地元に帰ろう」の意味深さ。自分の出身地が「埼玉!」「徳島!」「佐賀!」「沖縄!」「岩手!」だったらなお一層染みたであろうことと、年齢の問題であの場に立てなかった小野寺ちゃんの「仙台!」とベロニカの「ブラジル!」の不憫さ。

6:「地元に帰ろう」の大団円で大吉さんがいつになく神妙で、一番あまロスに陥っているのは大吉さんじゃなかろうかとちょっぴり心配に。

7:太巻、ミズタク、美寿々さん、フレディ花巻さん、いっそん、種市先輩と、そしてそしてなんといっても未だ亡霊として彷徨っていてただ観客やテレビに映らなかっただけなのか、若春子の不在。

ああ、録画しておいて良かった。

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