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膝窩筋の疼痛-PLRIのメカニズム-

膝関節の疾患において、膝窩部(膝窩筋)に疼痛が生じるケースがある。今回はその一例として、後外側回旋不安定性(PLRI)によって膝窩筋へ負荷のかかるメカニズムをまとめる。歩行時の立脚初期での疼痛や、膝屈曲時の膝窩筋部痛があるケースにあてはまると思われる。

後外側回旋不安定性(PLRI)

後外側回旋不安定性(Postero-Lateral Rotatory Instability)は後外側支持機構の損傷により生じる、膝関節の動揺性(特に後外方)が増加した状態のことである。

そもそも膝関節は関節の特徴として、固定性の多くを靭帯に担ってもらっている。そのためこういった支持機構の損傷はそのまま不安定性につながってしまうことが多い。

話をPLRIに戻すと、下腿の回旋軸は内側顆周辺にあり、外旋時には大腿骨に対して脛骨外側が後方に動揺するような状態となる。

PLRIの症状としては、歩行時(足底接地から立脚中期)の膝伸展時痛、過度なknee in toe out、膝前面の打撲(膝を地面についた・事故でダッシュボードに打ったなど)などが挙げられる。受傷機転がなくても、変形の進んだ膝関節や、関節弛緩性の強いケースではPLRIがみられることもある。また後述する膝窩筋の圧痛が見られることが多い。
以下に代表的な整形外科的テストをまとめる。

膝窩筋の作用と運動学

膝窩筋は大腿骨外側上顆・外側半月板・腓骨頭に起始を持ち、脛骨後面近位部に付着する筋である。
主な働きは下腿の内旋であり、膝関節屈曲初期のロッキングの解除や外側半月の後方への牽引である。歩行では、立脚初期において膝関節が過伸展しないよう屈曲する際に最も強く働くと言われている。

また膝窩筋部の疼痛が生じる場面として非荷重での膝屈曲が挙げられる。以前は膝窩筋が大腿骨と脛骨に挟まれ、圧迫を受けることで疼痛が生じるのではないかと考察されていたが、近年の報告では屈曲時に膝窩筋腱が上方に移動し、走行が変化することで挟まれることはなく、むしろ伸長されるのではないかと推察する論文もでてきている。

これをふまえると、屈曲時の疼痛が下腿内旋誘導によって減弱するケースでは、膝窩筋の伸長ストレスが軽減しているおかげなのかもしれない。

まとめ

PLRIにより歩行や走行時に下腿の外旋不安定性が生じる。立脚初期では下腿内旋と膝関節屈曲が生じるが、PLRIによって下腿の外旋が強要され、代償的に膝窩筋が働くことになる。この状態が慢性化することで、膝窩筋に疼痛が出現する。

つまり治療を考える際には膝窩筋を緩めることではなく、下腿の外旋を制動し、内旋を誘導する働きかけが重要となる。

具体的な治療についてはまた次回の記事で触れていきたい。


ここまで読んでいただきありがとうございました。
また次の記事もぜひご覧ください。

参考文献

整形外科運動療法ナビゲーション下肢.2014,林典雄 他
膝窩筋の位置と機能からみた膝窩筋部痛の発生機序.2006,国中優治 他
膝窩筋機能の肉眼解剖学的検討.2012,江玉陸明 他
歩行および立位保持中の膝窩筋筋活動について.1999,大西秀明 他

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