見出し画像

アラサー女子、銭湯にハマる4

今日は仲良しの友達、芽衣子と一緒に平和島温泉へ行く日である。
10時に待ち合わせをしているので、8時過ぎに起きれば余裕である。それにも関わらず何故か6時半に目が覚めてしまった。
布団に入って目をつぶったが一切眠気が来ない。
諦めて起床することにした。
のんびりと洗面所へ行って顔を洗い、髪を整えたら軽くメイクを施した。すぐにお風呂に入るので最低限のメイクである、眉とアイラインを描くだけで完了だ。
お昼は平和島温泉にあるレストランでご飯を堪能したいので、お茶漬けときゅうりの漬物だけで済ませる事にした。朝ご飯は一応食べたいので、サッと食べられるお茶漬けは便利である。
テレビをつけると羽田空港に新しく出来た施設の紹介をしていた。
なんと、新しく温泉が新設されたようだ。飛行機を見ながらお風呂に入るなんて、最高だ。
そんなことを考えながら歯を磨いていると芽衣子から電話があった。

「もしもーし、温泉に行く前に行きたい所があるんだけど。」
「急にどうしたの?」
「広い公園でのんびりしたくってさ。」
「別に良いよ。集合時間は10時で良い?」
「OK!じゃあよろしくね!」
芽衣子にしては珍しくテンションが低めだった。
いつもテンションが高くて早口なのにトーンがゆっくりだったからよっぽど疲れてるのかなと思った。
いつもの銭湯セットをカバンにしまいながら身支度を整えた。
思ったより早く準備が整ったので散歩がてらのんびりと歩くことにした。

家を出ると時間が早いこともあり、犬と散歩している人や自転車に乗ってサイクリングを楽しむ家族連れとすれ違った。
「休みの日に誰かと過ごすのも素敵だな。」
そう思いながら芽衣子と会えるのを楽しみに目的地へと向かった。

何だかんだで30分近くかけて、目的地へとたどり着いた。朝から運動をするとカロリー消費が良いと聞いたので、爽快な気持ちだ。
「平和の森公園についたよっと。」
芽衣子へ送るメッセージを声に出しながら入力して送信した。
大きな広場が入り口のすぐ近くにあり、草原が広がっている。
その周りは石段になっていて、おじいさんが座って休んでいたり、家族連れがレジャーシートを敷いて楽しそうに過ごしていた。
意外と人が多いな、と思いながら座る場所を探すことにした。
あいにくレジャーシートは持っていないので石段に腰掛けて芽衣子が来るのを待つ。
「都会のど真ん中なのに空が広くて良いな」
リラックスした気持ちで家族連れがシャボン玉を作っている様子を眺めている。

メッセージの通知が来た。
「着いたよ。どこにいるの?」
あたりを見渡すとすぐ側に芽衣子は居た。
いつもはワンピースにパンプスといったアナウンサーのような服装をしているのに、今日は珍しくトレーナーにズボン、スニーカー姿で現れた。
「イメチェン?いつもと雰囲気違うね。」
素直に思ったことを伝えると、彼女は困ったような表情で話し始めた。
「後で話すよ。とりあえずレジャーシート敷くの手伝ってくれる?」
テキパキとした動きでレジャーシートをカバンから取り出し、すぐに広げた。
「レジャーシート持ってきてくれたんだ。ありがとう。」
「私のストレス発散に付き合ってもらうんだし、むしろこちらこそって感じ。」
レジャーシートに座ると気付いたら水筒を取り出し、紙コップにコーヒーを注いでいる。コーヒーの香ばしい香りが広がってとても良い感じだ。

「私、会社辞めたのよ。」
芽衣子は私の目を見て静かに言った。
彼女は大手企業の海外営業をしていて、バリキャリの部類に入る仕事人間だった。
「そうなんだ。だからイメチェンしたのね。」
どういう言葉をかけるべきか仲が良いからこそ分からなくなる。
「そうだね。身綺麗にしてるのも窮屈だったし、自分を蔑ろにしてるのも辛かったから。」
真っ直ぐと前を向きながら彼女はそう言った。
「海外出張が多くてプライベートの時間もないじゃん?なのに親が結婚しろってうるさくてさ。全部嫌になっちゃったんだよね。」
「色々嫌なことは重なるよね。」
結婚やキャリアの悩みは私も持っているが、アドバイスみたいに言うのは違うだろうと思った。
「そうなの。だから自分が好きな物や心地の良いものと向き合うことにしたの。そうしたら公園でのんびりしたり、温泉に行く事にたどり着いたんだ。」
「思ってる以上に自分の好きな物とか心地良いものって分かってないものだよね。」
自分自身も同じように好きな物や癒されるものを知らなかった。
銭湯めぐりを始めてからは美味しいものを食べたり、のんびり散歩することが好きなことに気が付いた。
「次のお仕事は決まっているの?」
「失業手当が終わるまではのんびり暮らす予定。だから好きな時に誘っちゃうかも。」
いたずらっ子のような笑顔で微笑んだ。今までになく楽しそうな笑顔で安心した。
「良いよ。私も天空の湯に誘おうと思ってたから。」
「私もあそこに行きたい!じゃあ近々計画して行こうよ。」
次の行き先もスムーズに決まったところでコーヒーが空になったことに気付いた。
あっという間に11時半になっていたので、公園を出て平和島温泉へと向かうことにした。

平和島温泉に行くまでは徒歩10分くらいの距離で着いた。平和島温泉はビックファン平和島という施設の中に入っている。映画
館やゲームセンターが入っていて1日楽しめそうだ。
「近くにはトランポリンが出来る施設もあるの。今度行ってみたい。」
「今、芽衣子と同じこと考えてた!」
芽衣子は吹き出した後に笑った。考えがリンクするのは嬉しいものだ。

平和島温泉に着くと靴を脱ぎ、ロッカーにしまった。受付を済ませて室内着に着替える。
ウキウキした気持ちでレストランへ向かった。
芽衣子はメニューと睨めっこしながら悩んでいる。
「決めた!カキフライ定食!」
「ええー!早!待って待って。」
芽衣子はまたメニューへ視線を戻した。
5分くらい迷い続けて、芽衣子はカツ丼と蕎麦セットを注文した。
クオリティの高い美味しいご飯に満足して少し休憩し、温泉へと向かった。

扉を開けると広い温泉が広がっている。まだ正午過ぎということもあってそこまで混雑していない。
体を洗った後、すぐに湯船へと直行した。芽衣子も早く湯船へ浸かりたかったようで、一緒に急ぎながら向かった。

熱めの湯、広い湯船、皆がのんびりと過ごす空気感。最高に素晴らしい!

2人して無言で温泉の効能の説明を読んでいる。静かな時間が疲れた体を癒してくれる。

次のお風呂へと向かって歩いた。
ビューイングスパは開放感のあるお風呂で、大型テレビが設置されており、テレビを観ながらのんびりと湯に浸かることができる。
先ほどのお湯よりもぬるめなので、長湯出来そうだ。
「ここもまた違う雰囲気でいいね。」
「分かる。数年前に新しくリニューアルしたこともあって綺麗だよね。」
綺麗で清潔感があるのも魅力のひとつだ。
ただぼーっとテレビを眺めていると旅番組が流れていた。テレビに映るキャスターは富士山を見ながら温泉へ入っている。
「富士山を眺めながら温泉に入るのって良いな。行きたいね。」
さっきから気持ちがリンクしているので、芽衣子も行く前提で話をしてくれるのが有り難い。
「行きたい。いつ行くか決めよう。」
「出たら予約しちゃおう。」
笑いながら次の予約について話をして、またテレビを観る。旅番組が好きなのでついつい30分くらい半身浴をしてしまった。

次は岩盤浴に向かった。
座れる岩盤浴で暑すぎないのでちょうど良い。
2人で10分くらいただ時が過ぎるのを待つように過ごす。
汗が噴き出てきたので、出ると結構な疲労感を感じていた。
「そろそろ出よっか。」
芽衣子も同じように思っていたようで頷いた。

温泉を出るとしばらく汗が引かなかったので、水を飲んで汗が引くのを待つ。

身支度を済ませると休憩室に向かった。
ここには1人用のソファがあり、小さなテレビもついている。
私たちはソファに腰掛ける。芽衣子は漫画を読みたいようですぐに席を立った。
テレビをぼーっと眺めているうちにいつの間にか眠っていた。

暫く経って芽衣子が起こしてくれた。
「ごめん、眠ってた!」
「大丈夫だよ!読みたかった漫画を読めたから。漫画の種類が多くて楽しいね。」
彼女は嬉しそうに漫画を読み進めているようだった。5冊ほど積まれている。
「泉、ご飯どうする?」
時計に目をやるともう17時半だった。なんだかんだ2時間ぐらい眠っていたようだ。
「芽衣子が良かったら一緒に食べたい。」
「よーし!じゃあフードコートに行こうか。」
そう言うと芽衣子はメニューを調べて見ていた。

いつもは1人でのんびりとマイペースに過ごせるからと思って銭湯巡りをしていたが、お互いを尊重しながら温泉に入るのもまた楽しいと思った。

また2人で温泉旅行をしたり、新しい場所へと足を運ぶのが楽しみだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?