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兄の恋

兄は年上が好みらしい。

妹である私がいるから、私と同じ歳や年下はナニか違和感があるようだった。

高校生の時の初体験の相手は1歳年上の女の子だった。
彼女は運動もでき頭も良い才女だった。だからその才女を射止めるためにかなり努力をしたようだ。
射止めた年上の彼女からはフィジカルアクティビティも教えてもらったけれど、宿題や勉強もかなり教えてもらっていた。もともと成績は悪くなかったけれど、彼女と同じ選択科目の成績は急激に上昇し、素晴らしい成績の伸びように担任教師から「何かありましたか?!」と母は聞かれたそうだ。
恋の力はすごい。

そして偶然にも彼女の弟(これまた秀才)と私は仲が良い友人の一人だったから、家に遊びに行くと鉢合わせしたことも多々あった。

その次の彼女は確か2つ歳上の別の女子校の子。

学校帰りにわざわざ電車に乗って、下校中の彼女に会いに通ったようで、ここでもかなり頑張って射止めたようだった。私は彼女が好きだった。小さくて可愛かくて、話しやすかった。

でも彼女が大学に通い始め、その大学が電車で往復3時間くらいかかった。高校生で免許なんかまだ持っていなかった兄は迎えに行くことなんかできなかったから、勉強がかなり忙しくなった彼女とはどんどん距離が離れてしまい終わってしまった。

そして19歳の時、またしても射止めたい女性が現れた。
相手は9歳年上のバイト先の正社員の女性だった。
その上、組織の中で男性同等に働いて、負けん気がかなり強い女性だったからかなり時間はかかったようだけど、年下の可愛さと男の強さを持ち合わせていた兄はどうにか彼女の気持ちを動かして射止めたようだった。

でも、かなりの精神的打撃を受けて別れることになった。
付き合い始めて半年ほどして、彼女の部屋に居候することになった兄は、仕事のストレス、自己主張の強さ、愛情確認など、常にイライラや不満が巻いていた彼女のパンチング・バッグ(ボクサーがパンチやキックの練習で使うサンドバックや枕など、苛ついた時や頭にきた時にボコボコにするために使う)にされてしまった。

厳つい外見とは違って、兄は好きな相手には尽くすタイプだった。
誕生日やバレンタインデーなどは、自分で色々用意しては、彼女達に愛情たっぷりなことをしていた。
でもそれが、物足りないと、さらに要求をしてくる女性が、この年上の彼女だった。
兄は、彼女が仕事から帰ってきて休めるように、食事の用意、部屋の掃除、洗濯などは全て引き受けて、心地よい環境を作るのことに頑張った。
でも彼女はそれでは満足せず、さらに文句を言うようになった。
そして、自分がいない時に、別の女の子を引き入れてるのではないか、外であっているのではないか、毎日のように、チェックしてきた。
最初はそれも愛情表現だと思い、兄はさらなる努力をしたり、説明したりしていたけれど、ある日疲れ果てて、家に戻ってきた。

一時の里帰りだろうと思った母が、翌朝玄関先に、兄の荷物が置かれているのを見つけて、これは別れたのだと理解した。

それから、兄は静かにひっそりと自分の部屋で悲しさと苦しみと戦っていた。
その彼女とは3年近く付き合っていた。
でも私は彼女が嫌いだったから、別れてよかったと心底思った。
女は同性の裏の顔を感じるの能力があるから。
彼女は元々自分勝手で傲慢な女性だったのだ。

その後数年のブランクがあり、今度の彼女は初めて1つ年下だった。
今までのタイプとかなり違っていたので、母と私はかなり驚いたけれど、人は外見ではない。今までの経験で学んだのだろう。
でも、尽くす愛情だけではお互いに対等ではないのこと感じた兄は、一方的にやってもらうだけだった彼女に対して、疑問を持ち、別れを告げることになった。
突然の別れ話に、彼女はかなり驚いたようだった。

あれから5年以上過ぎ、兄は30代半ばに差し掛かっている。そしてずっと一人の生活を楽しんでいる。相手のことを優先して、自分がしたいことをずっと後回しにしていたから、自分の好きなものを作って食べ、自分の時間を使ってジムに行き、一人の時間を満喫しているようだ。

でもそろそろ、また兄に恋をして欲しい。
もう恋というのではないだろうけど。
外見がワイルドだし、相手を見て意見を変えたりしないし、はっきり言葉を発する兄は誰にでも好かれるタイプではないけれど、裏表はなく、口は固く、信用がおける男だ。
ちょっとくどいけど・・・・それも利点だ。


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