Chapter2　或いはそもそも在るようで無い

2019年4月15日 22:20

　いきなり禅問答のようなテーマになってしまったが、今回は狩猟民族に見られる移動と分配の習慣についてである。

　農耕社会から遅れをとった社会構造だと言われていた民族が、なぜ20世紀に多くの文化人類学者の研究対象となったのか。その一連のブームが去ってもなお、そこには人類の、あるいは生物の本質にせまる何かがあるように思えて興味は尽きない。

　フットボールの夢、はじまります。

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　4月に入ってばかりの、まだ桜の開き具合も満足に行かないうちに日本を出てきてしまった。スーツケースに荷物をまとめているその傍らで、テレビ画面では平成から令和という新しい元号の名が明かされ、どこからともなく時代の移り変わりが叫ばれた。

　桜は散るから良い、と言うのが日本人の風情である。移ろうものの儚さ、それもまた趣あるわけだ。同期の友人ともども、皆様は社会人、もしくは学生、新生活にはもう慣れた頃だろうか。

　凝り固まった肩に乗っかった由無し事も振り払われて良かったではないか。それに比べて、変化は恐れるに足らないことである。

　例えば、グアルディオラは90分の中で大胆にも11人の配置、つまりフォーメーションを変化させて戦術を巧みに操ることがある。これは、現代サッカーでは可変システムと呼ばれ、彼に限らず多くの欧州サッカーで採用されている戦い方であるし、日本においてももはや珍しいものではなくなった。

　可変システムに始まり、個人戦術に重点が置かれゲームの流動性が増していく様は、細胞分裂や新陳代謝に見られる生物的な、その働きにも似ている。

　変化することは本質的なところにあるのかもしれない。OSもアップデート、僕たちは変化を恐れつつもいつもどこかでは変化を望んでいる。

　社会システムの話を例に挙げると、産業革命より前には農耕社会があり、更にその前には多くの人類は狩猟採集による生活をしていた。そして、アフリカに実在したサンの民族などは20世紀になってもその生活形態を維持しており、多くの人類学者からの注目を集めていた。

　彼らは当初、文明未発達の遅れた人々であると見なされる傾向にあった。その日暮らしで計画もなく、蓄えることを知らず、自然に頼りきりであると。しかし、それは実に一面的な短絡思考である。

　研究が進むうちに、彼らの非常に高度に自立統制された社会システムが明らかになった。

　例えば、彼らは基本的に定住しない。年中、小規模の集団で移動を繰り返し、食事が必要になれば狩りに出る。獲物が見つからなければ確かにそれは命にも関わる一大事だが、実際のところは4,5時間足らずの稼働である。

　また、彼らは獲得した獲物を分配することを心得ている。その仕組みは実に巧みで、狩りに優れた者は狩りに行くことなく分配役に回されるなど、常に権力を分散させ、均衡が保たれるような工夫が為されている。

　ここから何を学ぶか、それは実に単純である。彼らは日々の変化に常に目を向け、今日がどういう日かをちゃんと分かっている。そうしていれば、チーズがどこへ消えてもすぐに気づくことができる。

　それから、彼らはそもそも物が誰にも属していないことを知っている。たとえ、あなたが働いて財布の中に紙の束が増えたにしても、それはあなたのものではない。ただ、流れてきて、今そこにあるだけである。

　パスが回ってきて、足元にボールがあるからといってもあなたはそれがあなただけのものではないとよく分かっているはずだ。得点が11人、もしくはそれ以上の人々とともに共有されることをよく心得ているはずだ。

　ゴールが決まった瞬間は、自分がそのボールを最後に触った者でなくてもいいのだ。何もかも1人で成し遂げる必要はない。物も所有することはない。

　あってもなくても、同じなのである。

ーー

　そもそも自分のものではないと考えるのは面白い考え方である。物にも頓着せず、むしろ分かち合うことで仲間とともに幸福の味を覚える。

　買ったばかりのお気に入りのパンツを寮の洗濯場に出しておいて盗まれても平気！今回は自分の番じゃなかっただけだ！

イラストが気に入った方はこちらをどうぞ。近々、新作も出版されます。

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