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canade@本郷二丁目 池田美穂さん(平11英)

本郷三丁目駅から歩くこと5分ほど。
駅前の商店街を抜けた通り沿いに凛と佇むイタリアン『canade』。
“奏でる“からつけられた店名は、たくさんの人の想いが紡ぎあってできあがる協奏曲のようなお店にという想いが込められているそう。
アットホームな趣を醸し出す店内から、「いらっしゃい!」と優しく迎え入れてくださったのが、オーナーの奥様でソムリエの池田美穂さん(平11英)。

旦那様の池田シェフと二人三脚でイタリア修行後、学生時代からの長年の夢であったお店をオープンした。
心あたたまる空間で、身体に優しく染み入るイタリア料理とピッタリ寄りそうイタリアワインをいただけるこちらのお店は、人気雑誌をはじめとした各種メディアにも数多く取り上げられ、連日予約でいっぱいの人気店。
しかし驚くべきは、コロナ禍の2020年にオープンしたということ。
さらに開業を決意したお二人の年齢は、飲食業界としては遅めの40代。
一体なぜ、お二人は今、canadeをオープンしたのか。
canadeへの想いをたっぷりとお伺いしました。

― 約20年越しの想いがカタチに ―

 大学時代にアルバイトをしていたフランス料理店での経験から、飲食サービスの魅力に惹かれていったという美穂さん。

「一緒に働いている先輩たちのプロ意識が高くて、人柄も含めてすごく環境が良かったんです。お客さんが喜んでくれたり、楽しんでくれたりするのが大好きな人たちのもとでやっていたので、自然と『ああなりたいな』って気持ちが芽生えました。」

 そのお店で料理人を目指す旦那様と出会い、美穂さんは「いつか2人のお店を持ちたい」という夢を密かに抱き始める。結婚を機に、新卒入社した貿易系の会社を退社、再び食の世界に足を踏み入れることを決意する。学生時代から興味のあったワインを本場イタリアで学び始め、ソムリエ資格を取得。帰国後は、夫婦揃って静岡のレストランで働きながら開業の準備を進め、やっとの思いでオープンさせたのがcanadeだ。

まだ新しい「dal 2020」の文字が刻まれたドア

紆余曲折を経て、ご結婚から約20年の時を経て想いがカタチに。
お二人にコロナ禍でのオープンについて心境をお伺いした。

「この業界としては、この年でお店を出すって遅いんです。私たちもいい年だし、お店を出すとなったらこれが最後のチャンス。人生一回しかないから、後悔しないようにしたい、そう思いオープンしました。修行の期間がすごく長かったからこそ、お互いがその間にすごく色々なものを身につけて、時間はかかりましたが二人にとっては一番よいタイミングでお店を出せました。何度も苦しいことを経験してきて、今があるんですけど、必ず応援してくれる人がいつもいました。」

と美穂さん。

 続けて旦那様の池田シェフも、
「こんな時にお店出すなんて、きっとそれだけ強い意志や自信があるんだろうって思われますが、まったくそうではありません(笑)。マイペースな自分にとってコロナの時期のオープンはチャンスでもありました。料理のクオリティを保つためのオペレーションや環境に慣れるまでの時間もつくりやすかった。普段出られないような雑誌に取り上げてもらったり、地元のお客さんにすごく助けてもらったり、予想以上の有難い出来事は多かったです。」

と笑ってお話ししてくださった。

店内の様子
メニューには池田シェフによるおまかせコース料理も


― 「当たり前」ができない苦労が将来の財産に ―

「若い頃に苦労をしておくと免疫ができて、大抵のことがヘッチャラになるんです。」
そう笑顔でお話しされるお二人。

 先にイタリアで修行していた旦那様と一年ぶりにイタリアで感動の再会を果たした美穂さん。しかし、波乱万丈なトラブルにみまわれたり、修行中の身ということもあり生活は決して豊かなものではなかったとのこと。貯金を切り崩しながらギリギリの生活費で暮らしていく中、少しずつやっと余裕が生まれ、二人でジェラートを食べた時はその美味しさに涙が出たそう。

「普段当たり前だったことができなくなって、やっとそれができた時になんとも言えない感動がありました。あの時が一番辛かったから、これを超えることはないよねってなるんです。」

そんな経験があったからこそ、二人ならなんでも乗り越えられる。
人生のパートナーとしての信頼関係が、今もなお強く続いているのだろう。


― 3000年もの歴史を持つイタリアワイン ―

たくさんの経験を二人で乗り越えながら、やっと形になったcanade。
最後にワインとcanadeへの想いをお伺いした。 

「お客さんが美味しい料理で幸せな気持ちになって、笑顔で帰ってくれることが最高の力になっています。ワインはすごく好きだけど、あくまでも寄り添うものでありたい。ワインは、他のアルコールに比べて、一緒に飲む人やその時の雰囲気、環境とかで味わいがちょっと変わる不思議な飲み物だと思います。元気がない時に飲んだら励ましてくれることがあったり、みんなで飲むとより美味しく感じたり。ワインがあることで一体感が出て、お料理の美味しさがもっとアップすることもある。お料理があって、ワインがあることで両方が引き立てられるような、そんなワインを出していきたいです。」

「『いつかお店開くから』って言葉を、みんな信じてくれて『頑張れ』って想いを常に感じていました。今やっとお店をオープンできて、支えてきてくれた人たちにこれから返していけるなっていう思いが強く嬉しいです。これからも頑張って、ずっと続けていきたいと思っています。」

― 人とのつながりを大事に ―

 あたたかな美穂さんのお人柄を知れば、このお店が連日常連客で賑わっているのも納得。旦那様の池田シェフは、美穂さんについてこっそり教えてくれた。

「彼女はどんなに忙しくてもお手紙をしたためるなど人とのつながりを大事にしていて。今のお店がお客様に支えられている理由もそういったところにあるのかもしれません。彼女はそのためにやっている訳ではないけど、そうやって人の輪ってどんどん広がっていくんだなって思います。」

コロナ禍で悲しいニュースで溢れた飲食業界。
逆風の中でも、それを追い風に、笑顔で跳ね除けてしまうお二人。
これからコロナが明けたらますますcanadeのハーモニーは大きくなっていくのだろう。

美味しい料理を届けようと奮闘されているお二人のお話を聞き、少し背伸びをしてお店に足を運んでみたくなった。

取材協力 / canade 池田光寿さん・池田美穂さん(平11英)
取材・文 / 学生ライター  大貫あさみ
 写 真  /学生カメラマン   霧生 美穂  


canade
〒113-0033
東京都文京区本郷2‐31‐3二木ビル1F


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