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一年間のティッシュ交換に「9時間」もかかっていた話

「まま、ティッシュがない」

息子が、ダイニングテーブルの上に置いたティッシュケースを指さして言う。

私は、棚からティッシュを取り出してケースに収めた。するりと一枚引き出して、息子の小さなてのひらに乗せる。
ここまで「5秒」もかからない。無意識の動きだった。


左奥の棚からティッシュを取り出して、ダイニングテーブル左側のケースへ入れる。


でもじつは、彼がまだ赤ちゃんだった四年前。
私は、たったこれだけの作業に「3分」もの時間をかけていた。なんと30倍もの時間が必要だったのである。




当時、私たち家族は、東京から四国へ引っ越したばかりだった。新居を建てるまでの二年ほど、義実家にお世話になっていた。

そのころの私は、この作業がとにかく億劫で仕方がなかった。今のようにティッシュケースを使っておらず、むき出しのティッシュを出してきて置くだけだというのに、何よりもきらいな作業のひとつ。

減ってきたなと思いながらも、とにかくぎりぎりまで「ティッシュがない」ことに気づかぬふりをしては、夫に苦言を呈されていた。

当時、ティッシュ交換は大変な作業だった。

まずはダイニングから十五歩くらい歩いて洗面所へ移動。扉を開ける。数歩進み、物入れの扉も開ける。

収納庫は半地下になっているので、階段を二段ほど降りる。まとめ買いしておいたティッシュのパッケージを開け、一つを取り出す。

あとは同じ手順を繰り返し、ダイニングテーブルへと戻る。

まだこれで終わりではない。ティッシュを使うために、蓋部分を開けなければいけない。指のはらで押し込むようにして、穴をあけたら、指でひっかけて、ビリビリと蓋を引き剥がす。

ここまでやってから、ようやく新しいティッシュを使うことができるのだ。

これも同じく無意識でしているのだけれど、とにかく億劫で、きらいな作業だった。やるたびにイライラしたし、むなしくなっていた。

家事は、中でも補充などの「名もなき家事」は、やって当たり前、できて当たり前と思われているものだ。それは他の人からしてもそうだし、自分の意識としても同じこと。

だから改善をしようと思うことなく過ごしていたけれど、ある日、「これってものすごくむだなのでは?」と思うようになった。


義実家にお世話になる前、私たち家族が住んでいたのは、東京郊外にあるマンションの小さな部屋だった。トイレ・洗面所・廊下を除いた居住空間は13.5畳しかなく、そこに家族四人と猫2匹でぎゅうぎゅうに暮らしていた。

狭いことで不便さもたくさんあったけれど、手に届きやすい場所にあるのが当たり前という暮らしだった。徒歩圏内でなんでもそろうから、ストックをたくさん持つ必要はなかったのだ。

だから、なぜこんなにもティッシュを交換するのが嫌なのか、なかなか気づけずにいた。


それから家を建てたとき、キッチンの横にパントリーをつくった。取り出しやすいと思っていたけれど、家族四人、しかも小さな子どもと一緒に暮らしているとティッシュはほんの数日で一箱空いてしまう。

「こんなに毎日使うものなのに、わざわざしまい込むから大変なんだ」

改めてそう気づく。当たり前のことなのに、目からうろこだった。

義実家では子どもたちは皆成人していて家にいない。だから、しまい込んであっても減りが少なかったのだ。


買いものに行きづらい環境だったので、ストックが必須なのは変わらない。そこで、図書館風の収納を考えてみた。表の本棚に出ている本と書庫にしまわれている本をイメージする。

「表の本棚」として、まず、towerのブレッドケースを買った。


キッチンカップボードの左側にあるのがブレッドケース。


キッチンのカップボードの上に設置し、つねに3、4箱のティッシュが入っている状態にする。ダイニングテーブルの前から移動せずにティッシュを取り出せるようにした。

ブレッドケース使うと、箱の大きさによるが3~4箱のティッシュを隠しておける。


同時に「書庫」として、今まで通りパントリーに多めのティッシュを入れておくことも続けた。

Nインボックス(クリア)に入れて、ペイントマーカーでラベリング。残量がひとめでわかる。

買いものルーティンも見直した。Amazonで24箱セットのティッシュを定期購入。まずは「表の本棚」用に取り置く。残りをニトリのNインボックスに入れる。それでも入り切らない分を、減りが少ない「2階用」「車用」と分けて持っていく。


さらに、ティッシュケースを使うようにしたことで、「蓋」を開けたりしめたりする手間が増えたのがプチストレスだった。これを使うことは変えたくないので、まとめ買いしたティッシュを、届いたその日のうちに「3ヶ所」指で押し開けておくルールにした。

蓋を外すこと。畳んで捨てるときに穴を開ける両側もあらかじめ穴を開けておくこと。これで大幅な時短になった。

これで、今まで私を悩ませていた「名もなき家事」はなくなった。


驚くことに、「表の本棚」に入れたティッシュは1週間以内にすべてなくなった。

そう考えると、以前は2日に1回ほどの頻度で「3分」ものむだ時間をつくっていたことになる。
1ヶ月なら45分。
1年なら540分、なんと「9時間」という、驚くほど長い時間だった。


私は、2015年から1年で365個、家事について考えたり、改善したり、新しいことに挑戦したりという時間をつくっている。
「とっておき家事」と呼び、ブログに書いたり、書籍化もしていただいたこの試みは、この12月末で3,285個となるはずだ。
(※うるう年は計算していないけれど)

この試みを始める前、まだ子どもはおらず、出版社で週に3回アルバイトをするだけの生活だったのだけれど、つねに時間がなかった。いつもなにかに焦り、困り、迷い、探し、調べていた。

今、2人の子どもを育て、執筆をしながらも、ほっとひと息つける時間を持てるようになった。それは、この「失われた9時間」のようなむだをこつこつ発掘しては、変えてきたからだと思っている。

物理的な持ち時間は変えられないけれど、当たり前に思えることの中に、じつはたくさんの「時間の種」が眠っている。

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