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【ショートショート】引越し先には棘がある


新しい引っ越し先は軽く10部屋はあったはず。どの部屋をどういう風に使っていこうか考えても考えても部屋が余るなんてなんて贅沢なんだろう。家賃は一万円。訳あり物件なのかとも思ったけれど、とにかく間取りと築年数を見ても住まないって選択はなかった。私はあまりその場所で何があったとか気にしないタイプだったのでこんなに大きなお家をたった一枚のお札で借りられることが夢でもみているかのようだった。

内見はすっ飛ばして、早速入居へ向かう。所詮カバン一つで済んでしまうような人生の私は目の前の冗談みたいな大きさのお屋敷に腰が痛くなった。案内された冗談みたいな大きさのドアを開けると、効果音でしか聞いたことのないようなギギギという音を放ち新たな生活の幕が開けた。玄関ホールの目の前には大きな階段。ゼンマイの止まってしまったであろう柱時計は13時過ぎをさしたままお昼寝中。「いらっしゃい!」なんて階段から手すりを伝って優雅にお姫様でも降りてきそうだった。

ホール左手には少しだけ下へ窪んだドアのない部屋に子供が遊べるような柔らかい床に散らばった積み木。その奥に優しい白色のベッドが2つ並ぶ。壁には貝殻のお洒落なランプが並んでいる。玄関ホールの階段の裏側には奥には大きな大きなテーブルが。架空の友達と晩餐会でもできそうだ。天井は高く吹き抜けていて、天窓からは星がこちらを見つめている。とにかく不思議とドアが全くない造りだった。
階段を上がった二階の壁は一面本棚。ふと物音がし、そちらに目をやると、何故かもう飼っているハムスターは運ばれていた。この家に住む茶色いネズミと子供を作ったらしく、子ネズミがうろうろしていた。鼻をヒクつかせ新居を楽しんでいるように見えた。
私は一通り案内され、外へと出た。木漏れ日が優しく木のトンネルを作って私のことを案内させた。

「元気にしてる?」
突然肩をとん、と叩いてきたのはあの日の彼だった。普段話さないはずの彼は楽しげに楽しげに最近あったことを話している。私は久しぶりにあった時間を感じているが、彼は時間も距離感も感じていないのか腰に手を回してきた。驚いて声がでなかった。

「うわ、俺久しぶりだわこんなことしたの」
緊張感とは無縁な素敵すぎる小川の流れる庭。私は足元に小さくなっている蛇苺と同じような色に頬が染まっているのであろう。もうこれでもかと恥ずかしくなり道を逸れた。そして盛大に躓く。小川に顔を突っ込む。小川には見たこともない黄色い魚がうようよとしていた。黄色い魚は私の顔をパクパクと啄む。その感触が気持ち悪いこと悪いこと。散々もがいた挙句にやっとの思いで顔をあげると目の前には地味な倉庫があった。ボロボロの看板には乱雑にペンキで「水族館」と書いてあった。餌やりコーナーこちらという看板に惹かれそちらへ行く。黄色い魚はここのだったらしい。



本日のオススメ餌

1、鯨の干し肉
2、甘エビの握り
3、あなた

10年ぐらい前にみた夢のメモが出てきました。
夢日記ってつけないほうがいいらしいのですが、あまりにも奇妙な夢は
結構記録して、そこから作詞したりします。結構な量があるので、肉付けして小出しにしていこうかと思います。夢なのでシーンが急に変わったりと結構めちゃくちゃなところもありますが、お付き合いいただけたら嬉しいです。


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