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いつもの廊下 第5話

人間の屑


人生に青写真が有るのだとしたら・・


僕の、あの悲劇は、

外せないイベントとして僕の人生に組み込まれていたに違いない。


宿命のように


きっと、どうしても避けられなかったんだと思う。


どうあがこうが、すべては、あの廊下に繋がっていたはずだ。


今も、そんな風に考える。






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆





フラッシュバック



その映画館は、女の子たちが、

すすり泣く声でいっぱいだった。


僕も、カッコ悪いけど涙が止まらない・・


主人公が、海底に沈んでいく


女の子たちの泣き声も一際激しくなった。


みんな、泣いた。


恐らく、この映画で日本中が泣いたのだろう


全米も泣いたらしい。


世界中が泣いた。


主人公とヒロインの離別をテーマとした悲劇


一見してネガティブなストーリー


ただ、最後こそ、

魂の共同創造を思わせるエンディングで閉められ


打って変わって、人生の甘美さをも感じさせる。


当時の僕は、なぜか、この離別をテーマとする

この、悲劇の映画に憧れのような感情を抱いていた。


映画 タイタニック


この映画をきっかけにして


僕は、半年間吸わなかったタバコに・・また手を出した。


もちろん、抵抗したが、止まらなった。


呪いのようだった。


この映画の中で主人公のジャックが、


星空の下で吹かした一本のたばこ。


何とも言えない、もの思いの入ったタバコ・・・


死ぬほど、美味しそう。


その映像が、


脳裏に焼きついて離れなくなった。


前日に、後輩に乗せられて吸てしまった一本のタバコ・・


体内に、ニコチンとタールが入ったせいかも知れない。


それは、噂に聞く、フラッシュバックだった。


暗闇に光る自動販売機が魅惑的すぎて無視できなくなる。


目の前に、ホログラムみたいに、煙草の箱が浮かんでいた。


幻覚って面白い・・


目を閉じても見えている・・


何がなんでも吸いたい。


中毒症状とは何かを身をもって知った。


20歳の健康な男が・・


プラトニックな恋より


・・セックスの快楽より


ニコチンとタールの摂取を選択した。


悪魔に心を握られているようだった。


これが、中毒症状なんだと思い知らされた。



「隠さずに、吸ってってもいいから・・」


そう言って別れの日には、ずっと泣いていた。


あの映画館で、唯一泣かなかった冷血な女の子が・・


ずっと、ずっと泣いていた。



自分でも分からない

何故あの時、頑なに別れると言い出したのか

そして押し通したのか。



あ~あ


そっかあ~。

思い出した。


僕は、人間の屑だったんだ。


開き直った途端聞こえた・・


「お前の屑は、こんなものじゃない・・」


僕の中の何者かが、確かにそう言った。



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