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全仏前の3大会。バルセロナ、ベオグラード、シュトゥットガルト

 テニスの世界は今、クレイコート(赤土)のシーズンに入っています。そこで最近気になること、気になる選手のことなど書いてみます。

テニスならではの「表面」への適応

 以前書きましたが、テニスというスポーツの珍しい特徴は、異なる三つのコートサーフェス(コートの表面)に対応しなければいけないということです。そして現在はヨーロッパを中心に「クレイコート」で試合が行われています。「クレイ clay」とは、粘土、土、泥といった意味で、ほら時々顔に塗ったりするでしょう?そう、クレイパック。その「クレイ」です。ですから、クレイコートの試合では皆さんまあまあ泥だらけになります。

この係、やってみたい♡

 次に、なぜ今クレイコートか?です。これも毎回書きますが、年間数十回あるテニスの大会で最も価値がある(つまり賞金が高額かつ獲得ポイントが多い)大会は4大大会(Grand Slam,以下GS)、その次が男子の場合 ATP1000、ATP500、ATP250と基本四段階の格付けがされています。女子だとアタマが「ATP」ではなく「WTA」になるだけです。ちなみにこの四段階に格付けされる大会に、日本で「プロ」とされるテニス選手のほとんどは出られません。一部のトップ選手以外のほとんどの選手にとって、この四つの格付けの大会の本戦に出ることは、テニス選手として生涯の夢といってもいいくらいなのです。じゃあそんな彼女ら、彼らはどこで試合してるのかというと、いわゆる「下部ツアー」と言われる大会を転戦しています。
 そして話を戻して、GSの一つで、クレイコートで行われる全仏オープンが5月22日から始まるので、今開催されている試合は言ってみれば全て全仏に向けての「足慣らし」つまり前哨戦なのです。

セルビアオープン

セルビア国旗。覚えてね

 セルビアの首都ベオグラードで開催されるこの大会は「ATP250」という格付けで、通常ジョコがこのクラスの大会に出場することはありません。じゃあなんで出ているのかというと、もちろん地元だからです。

この前の大会(モンテカルロ)は初戦負け

 今年1月には(簡単に言うと)コロナワクチン未接種ということで全豪オープンに出られず、ナダルに21個目のGSタイトルをさらわれましたが、オーストラリアのその処遇は後の世で「愚行」として語られるでしょう。
 この記事を書いている今、ロシアのルブレフと決勝を戦っています。なんとフルセットの末負けそうです。ちなみに今回このルブレフに敗れたのですが、ダニエル・太郎も頑張っています。

今回名前の横に国旗は表示されない
今がおそらくキャリアの正念場

 話は逸れますが、6月27日からのウィンブルドンで、ロシアベラルーシの選手が締め出されることになりそうです。それは大会を主催するオールイングランドクラブ(略)の方針なのですが、本当にそれでいいのでしょうか。となるとこのルブレフも、優勝候補の一角となるメドヴェーデフも出られません。彼らは今、いったいどんな顔でウクライナの選手に対応したらよいのか悩ましいはずです。しかし彼らにしてみればプーチンがしたことの責任を取らされるいわれはないはずですし、こんなことをしたところで、ロシア国民が目覚めてプーチンを打倒するようなことはありません。しかし「何もしないわけにはいかない」とオールイングランドクラブは考えているのでしょうか。

バルセロナオープン(重要)

  こちらは「ATP500」という格付けです。今最もテニス界を熱くしている選手は間違いなくカルロス・アルカラス、なんと18歳です。以前にも取り上げました。なんと覚えやすいスペインネーム、カルロスって…。この大会は地元スペインということもあり応援がすごいです。きっちり優勝するでしょう。そのことに少しの疑いも持てないくらい今強いのです、この少年。(いや18歳を少年と言っては失礼ですね)

ここまでボールを見ている!

 今世界中のテニスファンはこう思っているはずです。「こいつはもしかしてビッグ3クラスになるかも!?」間違いなく現在の男子ツアーで、最も速く動き、最も強くボールを打ち、最も効果的なドロップショットを放ち、そして最も残酷な勝ち方をする選手です。「残酷な勝ち方」とは、端的に言えば、相手のマッチポイントをあたかも偶然のようなショットでしのいで、結局は勝ってしまう、というようなことです。
 このバルセロナオープンの準決勝がそうでした。相手は元気印(古い?)のオジー(オーストラリア人)アレックス・デ・ミノー。デ・ミノーが第1セットを獲り、第2セット、デ・ミノーリードの6-5で40-15、デ・ミノーサーブのマッチポイントです。デ・ミノーは1stサーブを上手くワイドに入れアルカラスをコートの外に追い出します。何とか返したリターンは力がなくチャンスボールになります。落ち着いてオープンコートに叩き込むか、或いはそっとネット際に落とせばゲームセットです。しかしなんとここでデ・ミノーはセンターにボールを打ってしまいます。オープンコートめがけてダッシュしていたアルカラスは行き過ぎてしまい慌てて止まってフォアで返球したのですが、それがネットについたデ・ミノーのフォア側を抜けてパッシングショットとなります。
 デ・ミノーにしてみれば完全アウェイの熱狂スタジアムで、今最も注目を浴びるライジングスターをストレートで下し決勝に上がれるマッチポイントでした。少し打ち急いでコースが甘くなったのか、或いはアルカラスの俊足を見越して裏をかいてのセンター狙いだったのかもしれません。しかし結果的にその一球を正にターニングポイントにしてアルカラスは勝ち、翌日の決勝では簡単に同胞のパブロ・カレーニョ・ブスタ(PCB)を下しトロフィーを手にします。一方デ・ミノーは優勝者を苦しめたというだけのベスト4です。(そのデ・ミノーのマッチポイントです👇)

 私は常々、本当に頂点に立つ選手は徹底して「残酷さ」を備えていると信じていますが、このティーンエイジャーは確実にそれを持っています。深刻なケガさえなければ世界ランク1位、或いはGSのトロフィーを手にするのに二十歳の声を聞く必要はないでしょう。

(バルセロナオープンの優勝者はボールパーソンと一緒に「プールダイブ」をするのが恒例です👇 やはり年齢も近く、同じスペイン人の優勝者ということでボールパーソン達の盛り上がりが違いますね。錦織くんも2014,2015と連続で飛び込んでいます。ぁぁ、あの頃はよかったなぁ…)

 ちなみにアルカラスはかつてのナダルと同じ18歳で、ナダルと同じ日に、ナダルと同じバルセロナオープンで、なんと世界ランキング10位内に入ることが決まったようです。しかし「ビッグ3クラス」になる条件が揃っているとはまだ言えません。あのクラスに到達するのに最も必要な要素がまだ未確定です。それは「ライバル」の存在です。

ポルシェ・テニスグランプリ

ポルシェといえばドイツ、シュトゥットガルト

 さて女子です。今この人の勢いが止まりません。イガ・シュヴィオンテク、ポーランドの20歳です。以前にも紹介しました。先ほど決勝が終わり、あっさり優勝。これで4大会連続優勝、そして23試合連続勝利(←これは大坂さんの記録にならんだそうです)。

イガ、ポルシェを運転してる感じ?

 なんというかこの人、気合がすごい。まるで飢えた獣のようにテニスをしています。打つボール全てが厳しい。決勝ではベラルーシのアリナ・サバレンカを84分で片づけました。気合だけならサバレンカも負けていませんが、やはりビッグポイントで弱さが出てしまうのが、一桁ランクの常連ながらタイトルに恵まれない所以でしょう。

打つ時の叫び声が半端ないサバレンカ

 話が少し戻りますが、このサバレンカ、ベラルーシの選手ですよ。昨年のウィンブルドンではベスト4でした。そして彼女も今年ウィンブルドンのドローから除外されることになるのです。彼女を大会から締め出したところで、ベラルーシ国民が目覚めてルカシェンコを政権から引きずり下ろすでしょうか。いや、ないでしょう。本当に難しい問題です…

最後に写真のオマケです👇

ポルシェミュージアムを訪れるサカリ
カザフのイレナ・リバキナ。私の「推し」です、すみません

 今回は三つのクレーコート大会と注目選手を紹介しながら、ジョコのワクチン問題や、ロシアとベラルーシ選手の締め出し問題にも少し触れました。
 ここまで読んでいただきありがとうございました。




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