やまぐちりりこ
幻想
叙情
道端でみかけた草花の写真と、ほんのひとことふたこと。
BGMのない しずかな朗読です
短いエッセイ
わたしという存在をとおくからながめたら どんなふうにみえるだろう 手鏡でみるじぶんは ちかすぎる 宇宙からみるのでは とおすぎる 未来の、死を目の前にしている わたしからみたらどうだろう 明日がくることに ほんのすこしうんざりしながら カフェオレを飲んでいる今のわたしを どこかとおいところから わたしが みつめている なにかを かたりかけている
ねつきのわるいかえるが かれはのふとんから かおをだした なかまはみんな ねむってしまった みあげると まんげつがでている かえるは しみじみとながめた ひとりもいいもんだな かえるは うまれてはじめて せかいとむきあった そして かえるであるじぶんをおもった はるはまだ とおい
イタイノイタイノトンデイケ とばされたイタイノイタイノが でんちゅうにぶつかって ないている いくとこなくて ないている さびしくて こころぼそくて ないている どこかにないだろうか イタイノイタイノの いけるばしょ あっちこっちのイタイノが みんなでいっしょに かえれるところ
どこかで つぼみがひらいた つぼみは ひみつのじゅもんをつぶやいた そのじゅもんを かぜがはこび どこかで さびしくたちどまっているひとの みみたぶをそっとなでた それはあまりにささやかで そのだれかはきづかないけれど だいじょうぶ だいじょうぶ なぜだか そんな気がしてきて どこかのだれかは あるきだす あしもとを 月がてらしている
かれていく やさしいいろになっていく にがいおもいでも カフェオレいろになって とけていく ぼやけていく うすれていく
風のない しずかな午後 足元にいちまいの枯れ葉がおちてきた ひとつぶの涙のようにおちてきた こんにちは さようなら この世のすべては こんにちは さようなら
おもちゃのぶどうのような ちいさな実を くちいっぱいにほおばって かおやらてやら むらさきにそめた こぎつねが そこいらへんにいたらいいのに とおもいながら むらさきしきぶのわきとおりすぎたら おとといきいたふうりんくらいに かすかなかすかな こんっというこえが きこえたきがした
散る散る満ちる 満ちていく きょうという日のどこかにも しあわせがきっとかくれている
じぶんには もう 光はいらないのです ねむりながら やさしい灯台になって あたりをてらしています
枝からはなれた枯れ葉が 北風の子とあそびました おいかけっこして おしくらまんじゅうして あそんであそんで あそびつかれてねむっています
ふゆがれの木が ほおきになって 空を掃いています 浮遊していた だれかのためいきも 青空に溶けていきます
おひさまのひかりをうけて うまれたての おひさまのこどものように ひかっている わらっている きのうとも あしたともちがう きょうのひかりをあびて
冬芽のおなかを ぱかっとわれば ちいさな春がかくれている その春のなかには さらにちいさな夏が そして夏には秋が 秋には冬が… マトリョーシカのように 季節は次の季節を内包している どこまでも どこまでも この星のつづくかぎり
てのひらを貝殻にして 耳にあてたら 吹雪のような音がした ガラス窓をへだてた吹雪の音だ 目をとじる ここはちいさな山小屋 アラジンストーブの青い火がゆれている とおいくにの ものがたりがきこえてくる 吹雪はますますつよくなる ねむれねむれ りすのように いやなことは わすれて