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「女記者が見た、タイ夜の街」コラム)75歳男×19歳女カップルから見る幸せの形

国際色豊かな都市、バンコク。

一歩街へ出れば、アジア、欧米、中東など、世界各国の人種が交錯し、言語が入り乱れる。

私は20代の若かりし頃、40代のイタリア人男性と交際していた。

バンコクの全てが目新しく、エネルギーに満ち溢れるこの街のとりこになっていた私は、とにかく動いて、さまざまな界隈に顔を出していた。

彼とはそんな時、多国籍な人種が集まる交流会で出会ったのだ。

彼と交際して驚いたのは、イタリア人というのは、本当にいつも愛を表現している。

例えば、デートで待ち合わせすると、彼は必ず一輪のバラを持って現れる。もしくは、チョコレートなど、ちょっとしたプレゼントを用意してくれる。

まるで映画のワンシーンのような彼の振る舞いに、交際を始めた頃、私はすっかり、舞い上がっていた。しかし、やがてその年の差からくる価値観の違いや、若さゆえの傲慢さも相まって、彼への熱は冷めていった。

そんな時、あるカップルに出会った。

11月のある日。その日は、タイの最も美しい祭りの一つともいわれる「ロイクラトン」の行事が行われていた。

灯籠(クラトン)を川に流して、川の女神に感謝をささげるという、タイで古くから続いている風習だ。

水辺に、火を灯した色とりどりのクラトンが浮かぶ様子は、とても美しく、タイでは、カップルが共に時間を過ごす行事になっている。

その日、私たちは、バンコクにあるルンピニ公園で、そのイベントに参加していた。目の前で広がるロマンチックな情景も、自分の冷めた心にはむなしく、感動が響いてこなかった。

すると、そんな私の気持ちを読み取ったかのように、次第に雲行きが怪しくなり、やがてスコールが始まった。

急いで彼と私は、イベント会場に設置されたテントの下に駆け込んだ。すると、同じタイミングで、そこにある女性が走ってきた。

その女性は、褐色の肌をもつ、無駄なぜい肉が一つもない、抜群のスタイルをもつタイ人美女だった。

顔に幼さが残るものの、彼女の腕の中には、生まれたばかりの赤ん坊がいた。そして、その赤ん坊は白人の顔立ちで、彼女とは全く似ていなかった。

その後、彼女を追いかけるようにテントにやってきたのが、腰を曲げた、今にも倒れてしまいそうな白人の老人だった。彼はイタリア語でなにか叫んで、息を切らしながら彼女のもとにやってきた。

私は興味津々で彼らを眺めてしまった。いったいこのカップルはどんな関係なのだろう?

すると、イタリア人の彼が、その老人と談笑し始めた。

イタリア人というのは、お互いが同じイタリア人同士だと分かると、初対面だろうが関係なく、長話を始める。お互いの出身とか、経歴とか、日本人からすると驚くほど、赤裸々に情報を交換するのだ。

しかも、イタリア語で話しこんでしまうので、言葉が分からない私とタイ人女性は退屈して、お互いに会話を始めた。

「あなたの赤ちゃん、とても可愛いね」

「そうでしょう。私はハーフの子がずっとほしかったの」

タイ語訛りの語尾を伸ばす英語で、彼女はゆっくり話す。これまでの経験から、なんとなく彼女が夜の街の女性だと感じた。

「この人があなたの旦那さん?」

そう言って老人の方を見ると、彼女は「そうよ!」と、満面の笑みを浮かべた。彼らは夫婦だったのだ。

イタリア人の彼が聞いた話によると、その老人は75歳で、女性は東北部出身の19歳。彼らはやはりバンコクの夜の街で出会い、結ばれ、子をもうけた。

老人は過去にイタリアで家庭を持っていたが、子供が大きくなると離婚して、タイに来た。実業家で資産を築いて、家も買って、タイで骨を埋める覚悟なのだという。

彼女を見ると、体中を高級ブランドの洋服に包み、顔立ちのはっきりした可愛い赤ん坊を抱えて、心底幸せそうに見えた。

老人の先行きも長くなさそうだし、そうなれば彼女に彼の資産が渡るのだろう。彼女はきっと、欲しいものの全てを手に入れたのだ。

世間では、「歳の差」だとか、「金目当て」だとか、彼らの関係を、とやかく言う人もいるのかもしれない。

しかし、いくら金を積まれても、老人とセックスできるか?結婚できるか?と問われたら、自分も含めて、多くの女性は尻込みするだろう。

自分の欲しいもののために、なにかを妥協して、幸せを手に入れた彼女の姿は潔く、私は拍手を送りたい気持ちにさえなった。

翻って、自分の欲しいものは何なのか?

そう問いかけた時に、まだまだ勢いが止まらない雨を見上げながら、「今日でこの恋は終わりにしよう」と、静かに決意したのだった。






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