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時の彼方で ~第4章・樹(たつき)~
『樹ーーーっ!』
アイツが校庭の向こうから叫んでる。相変わらずデカい声だな。何だよ。いつも一緒にマックに寄ってるじゃん。その時でも良いだろう。ん?あれ?隣にいるのB組の子じゃん。何か用なのか?
『樹、後で言おうと思ってたんだけどさ』
「何だよ。だったら後でもいいじゃん」
『いや、ちょうど会ったから』
「後で俺んち来るんだろ。オマエの好きな漫画、借りてあるぜ」
『いや…今日はちょっと』
そう言う
時の彼方で ~第3章・紗央里(さおり)~
『いつか僕たち結婚しよう』
彼は、私の1番お気に入りの笑顔でそう言った。同じ大学の1年先輩。背が高くてスポーツが得意なのに、頭も良くて顔も良い。文武両道とは彼のためにある言葉だと思った。おまけに柔らかい声と優しい気遣い。キャンパス内の大半の女子は彼のファンだった。3年生になってキャンパスが1~2年とは別の場所になって初めて彼に出逢った。彼は4年生で既に就職活動を終えている。ほとんど大学に顔を出す
時の彼方で ~第2章・和也(かずや)~
彼女と出会ったのは、もう5年ほど前になる。俺は小さな文具会社の営業をしている。いわゆる御用聞きだが、顧客はたいてい中小企業だ。個人的に契約をすることはまずないが、先輩の知人と言うことで個人経営の彼女の店に出入りすることになった。
「お前の営業ルート途中に彼女の店があるから、悪いが寄ってくれないか」
先輩の紹介で彼女が経営してる小さなアートクラフトの店に出向いた。こじんまりとした綺麗な店で、経営者
時の彼方で ~第1章・亜希子(あきこ)~
その日、私は仕事を早めに切り上げて、あるアーティストのライブに急いでいた。イヤホンから流れてくる推しの歌声。ハスキーなところが、ちょっと「彼」に似ている。もう忘れようとしていたのに…。「彼」に似た芸能人を探しては追いかけているんだから、忘れられるわけないか…。
そんなことを考えながら会場へと向かう。ポツポツと小雨が降ってきた。
「ついてないな…」
会場に着くと、アーティストのポスターがあちこち