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(短編)夜ふかし

夜活動するのが性に合っている。

誰もが寝静まった時間で集中できるし、何より落ち着く。

(そろそろ寝ないとマズイよな……)

時計はもうすぐ深夜2時になろうとしていた。
映画に読書、そしてゲーム。いつもやり始めたら止まらない。

(何で朝早い仕事にしちゃったかな〜…)

自分の勤めている会社の就業時間は9:00〜17:00の、いわゆる世間の皆様のお勤めタイムだ。

前は午後出のスーパーの品出しをしていたが、休みもろくに取れなくて今の仕事に転職した。

現在は土日祝休み。残業はほぼ無い。
見る人から見れば理想的だろう。
しかし、働いてみて思い出したのは朝起きることが苦手だという事だ。

すっかり忘れていた。

朝型の生活は会社から帰ってあっという間に寝る時間になってしまう。
それが嫌で、本を読んだり映画を観たり色々していると夜更かししてしまい、睡眠時間が減る。

要領よく出来たらいいのに、出来た試しがない。

電気を消してからカーテンを少し開け外を見た。闇夜に浮かぶ明かりがチラチラ、信号の刺激的な光の合間で瞬いている。
自分と同じように起きている人はどれくらいいるんだろう。

布団に入り暗闇の中で天井を見上げると、部屋の中でなにか光が点滅している。

(あ、スマホ)

伏せるのを忘れていた。
手に取ると画面が立ち上がり、パッと光が広がる。

(こんな時間にLINE…?)

見てしまった。いつもは見ないのに。送り主は友達の悠介だった。

‘’テツ、もし起きてたら頼みがある。‘’

数分前の送信。

(なんだろ…。)

とりあえず、‘’起きてたよ。どうした?‘’と返す。

高校時代からの友人の悠介はどんな仕事も卒なくこなす、いわゆるスマートな男だ。

嫌味のない性格で、よく女子に告白されてたっけ。

今でも時々飲みに行くし、つい昨日も会ったばかりだ。
有名大学を出て、大手企業で忙しくしてるらしいが…。

すぐ返事が来た。

‘’泊めて欲しい‘’

20分後、悠介はいつものピシッとしたダークグレーのスーツ姿で現れた。大きなスーツケースに、何やら理由を感じたが、

「とりあえずあがれ」
と、招き入れる。
「ごめん、真夜中も良いとこだよな。でも助かった」

照明の下で見ると、やつれて見えた。
座らせてビールの缶を渡して「どうした?」
と一言かけると、俯いたまま

「相手が浮気しててさ。問い詰めたら追い出された」
「同棲してたのか」
悠介は小さく頷く。

「先月始めたばかりだよ。なのに…」
「相手がいるのは聞いてたけど、一緒に暮らす程なら真剣だったんだよな…」
「…まあね。でも向こうは違ったみたいだ」

今にも泣き出しそうな顔で、クシャリと笑った。
こんな顔今まで見たことなかった。
見たこともない相手に怒りがフツフツと湧いてくる。

「会社の先輩でさ…相手にされると思ってなかったから、浮かれちゃったんだな、きっと」
「…いや、向こうが悪いだろ。浮気はなんで分かったんだよ」
「家に帰ったら、現場に鉢合わせた」

おい…。

「…相手が女性だったから、更に辛かったよ」
「ややこしいな」
悠介は笑うと、
「だな、、しかも会社の後輩だった」
「近場で済ませ過ぎだろ!なんだよそれ…」

すっかり目が覚めて、自分にもビールの缶を開けた。
「で、どうすんだ」
今、少しだけ恋バナが好きな女子の気分になっている。
「そりゃ、、もうどうにもならないよ」
残りのビールをグイッと煽ると、
「部屋も探さないと。」
「当分ここ住めよ、部屋一個空いてるし。今ちょっと物置みたいだけど…片付けるしさ」

ほんのちょっと悠介の目に希望の光が差した。しかし、
「いや…いいよ。今日だけ泊めてくれたら」
「なぁんだよ、遠慮すんなって!」
「でも…」

とりあえず今日は自分のベッドの横に布団を敷き、そこに寝てもらうことにした。
「さ、とにかく寝よう。」

寝床をこしらえてる間に、悠介はシャワーを浴びてさっぱりしたのか、心なしか顔色が良くなっている。
「ありがとう」
「良いってことよ」

暗がりの中で、眠たかった筈なのに中々眠ることができなかった。
天井を見つめながら、なぜかこれからの事を考えてしまい、目が冴える。

「哲也」
「なんだ、起きてたのか…どうした」
横を向くと、向こうもこちらを向いていた。

「…ほんとに助かったよ、ありがとう」
「夜ふかしもたまには役に立ったな」
悠介は仰向けになると、静かに呟いた。
「…最初からお前を好きになってれば良かった」

急に言われて面食らったが、すぐに
「冗談だよ。お休み。」
そう言って反対側を向いてしまった。

何も言い返せずに悠介の背中を見つめる。
この状況で冗談を吐くタイプでない事は重々承知している。

「言いっぱなしか?」
悠介はこちらを向いた。
視線は違う所を向いている。

「冗談て言っただろ」
「嘘付くな」
「…………」

しばらく沈黙を守っていたが、
「…彼女が後輩の子といるのを見た時に、ああ、これは俺へのメッセージなんだなって気付いたんだ」
重い何かを引きずるように、言葉を続ける。
「色んな人と付き合ってきたけど、誰も心から好きになれなかった。ほんとは誰が好きなのか知ってるのに無視してたんだ」

「…それがオレ?」
悠介は静かに頷く。
「でも友人として大切にしたかった。テツは良い奴だし、、仲良くできるだけで充分だって」
悠介の瞳が潤んでるようにみえる。
心なしか声も震えていた。

「泊めてくれて感謝してるよ。だから…」
また反対を向いてしまった。

「…急でビビったけど、、住めないって言ったのはそのせいか?」
悠介は何も言わない。
「わざわざ夜中に来たのは元カノの話をしたかった訳でもないだろ。お前ならホテルで一泊するなんて余裕なんだから」
返事はなかった。

「いつもしっかりしてるお前が頼ってくれて嬉しかった。だからオレはそれを返したいだけだ。部屋が決まるまでここに住め」

悠介は起き上がってこちらを睨んだ。
「……勝手に決めるな」
「オレ、明日会社サボる!お前もな」
「は…?」

「部屋の片付け手伝ってくれ」
「何だよそれ…」
「たまには元カノと後輩に仕事押し付けとけ」
悠介は少しはっとなった。

「それに、むっちゃ眠てぇ〜…」
大きなあくびをして、掛け布団を頭までかぶった。これ以上話す体力ないし…。

「お休み」
悠介もこれ以上何も言わなかった。

二人がどうなるかとか、気持ちに応えるのかどうかも分からないけど、とにかく明日また考えればいい。

真夜中のサプライズは身体に応えるな…。

きっと悪くはならないはずだ。
お互いを大事に思っていれば。









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