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栄養失調と診断された話

「軽い脱水症状と、軽い栄養失調だね」

目の前の老医師が、何の気なしに言った。



社会人4年目のとある日、僕は体調を崩した。
高熱と気怠さと節々の痛みとが、僕の体内で仲良く暴れまわっている。

当時、人事異動で初めての部署に来たばかりだった。先輩から教えてもらうことは山のようにある。
しかし、こんな状態ではとても出勤することはできなかった。

断腸の思いで上司に連絡し、有給休暇を申請した。そして、上司との通話を終えるや否や、すぐに近所の町立診療所(役場勤務だったので診療所内の職員はほぼ顔見知りだった)へ外来診療の予約を入れた。

そして診察の結果、軽い脱水症状と軽い栄養失調ということだ。

栄養失調?飽食が問題視されているこの時代(平成27年)に、栄養失調と診断される20代の日本人男性公務員なんているのか?いるのか、ここに。


点滴を打ってもらい、「ポカリスエットでも飲んで、安静にしてなさい。あと、しっかり食べてね」と老医師からありがたいお言葉をいただいて、診察は終了した。

帰る途中にスーパーへ寄り、ポカリスエットのほかにゼリー飲料やら冷凍うどんやら買い込み、ぜえぜえ言いながら帰路に就いた。



数日後、体調が回復した僕は、職場復帰した。

上司やほかの職員は、「もう大丈夫なの? 」と話すたびに心配してくれていた。
保健福祉部署に異動してきたので、こと保健師の皆さんは我が子を思う母親のように不安な顔をしていた。

僕は思い出したように、ある保健師さんに質問した。


「そういえば、尿検査でケトン体が出ているって言われたんですけど、どういうことかわかりますか? 」


それを聞いた保健師さんは、半分驚き、半分笑いの表情で僕に返した。


「いやそれ糖質の代わりに筋肉を分解して出てくるやつだから! 現代人でありえないから! 」


ケトン体とは、脂肪を合成したり分解したりしたときに生まれるもの(中間代謝産物)で、糖質(グルコース)が利用できないときに代わりのエネルギー源として使われるという。

何らかの理由で体内のグルコース供給が減少すると、血糖値を維持するために肝臓に蓄えられているグリコーゲンがグルコースに分解され、利用される。
しかし、肝臓のグリコーゲンは18~24時間程度で枯渇するため、次に筋肉(タンパク質)や脂肪細胞に蓄えられている脂肪(脂肪酸)がエネルギー源となる。
その結果、ケトン体が検出されるのだと。


「ちゃんとご飯食べてないでしょ!? 」


保健師さんに聞かれて、僕は苦笑いした。
図星だった。

その頃、ほとんどまともな食事をしていなかった。
朝食は基本食べないし、昼食はおにぎり1個。夕食はコンビニ弁当か外食が主だったが、疲労のせいか何も口にせず寝ることが多くなっていったと思う。
「寝て起きたら空腹感がなくなる」という成功体験(?)も相まって、ただでさえガリガリのヒョロヒョロだったのが、いよいよ体調にはっきりと表れたのだった。


要するに、「全然食べてないから体内にエネルギーが蓄えられず、仕方なしに筋肉を分解してエネルギーとしている」状態というわけだ。



元々、食べることには頓着がなかった(学生時代は別だが)。「健康被害がなければ食べなくてもいい」という考えは、実は今でもある。

ただ、この一件の後、職場の人が事あるごとに「ちゃんと食べてる? 」「もう栄養失調になるなよ? 」とイジってくる心配するようになったので、たとえ食欲がなくても食事は摂るようにしている。

それよりも、食べることの大切さについて身をもって知ったので、ご飯をしっかり食べようと誓った。

その甲斐もあってか、今は当時より10kgほど増量した。これは喜ぶべきかどうなのか。


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