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英雄譚とその後~「15時17分、パリ行き」

実話を基にした映画は数多く作られているが、その主役を本人にさせるという作品は他にないのではないだろうか。しかもそれが俳優ではなく一般人なのに成立させてしまうのだから、イーストウッドの手練たるや超人の域に達していると言えよう。2018年公開「15時17分、パリ行き」。

偶然乗り合わせた3人のアメリカ人青年たちによって、鉄道テロが阻止されたという2015年の実話を基にしている。

映画は、テロの場面とそれにつながる伏線を示す過去の場面とが交互に展開されていく。
それまでとりたてて目立ったエピソードもなく、どちらかというと不遇をかこっていた青年たち。でもそれが、すべてこの事件の瞬間につながっていて報われる。
そういった展開もあり、映画では「何か困難に直面した時に行動する勇気を持つことが大事」というメッセージが込められているようだった。

なお、本作はまずノンフィクションの書籍があり、その映画化という形になっている。

こちらの方は少し印象が異なる。それは後日談にも触れられているからだ。

3人は事件後、テロを防いだ英雄として称えられることになるのだが、それは次第に重圧になっていく。
2015年はフランスではこのほかにもテロに見舞われた。
「あなたたちが、その時にパリにいれば防げたのではないか」
ただの一般人に寄せられる無責任な期待。そして度重なる嫌がらせ。

この本を読むと、それでもなお映画化に踏み切りかつ本人たちが出演しようとした決意は並々ならぬものだったのではなかろうかと感じる。

現在彼らはどのような人生を歩んでいるのだろうか。
この事件での行動は称賛に値するものではあるが、これはいってみれば”たまたま”のこと。こんなことで人生が狂わされてしまうことがないことを切に願うばかりである。

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