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善悪の判断に迷いが生じていた時代~「ワイルドバンチ」

今月はサム・ペキンパー監督作品を中心に鑑賞中。
最初の数作はまあ穏当な内容が続いたが、いよいよペキンパー監督の最高傑作の呼び声高い本作品を鑑賞。1969年公開「ワイルドバンチ」

アメリカンニューシネマというは死ぬことと見つけたり。
なんて思えてしまうような作品である。

この時代、社会は戦後体制のひずみがあちらこちらで顕在化し、価値観の変革がなされようとしていたころ。
映画でもそれまでの価値観に対する疑問や反発を描くものが多く作られた。アメリカ映画界ではその潮流をアメリカンニューシネマと言う。本作の舞台は20世紀初頭のアメリカ南西部だが、置かれた状況は公開当時のアメリカを投影したものなのだ。

フロンティアもなくなり、20世紀の秩序が成り立ちつつあったころ、以前のような強盗団は徐々に駆逐されていく。今回が最後の仕事と思いつつ、なかなか辞める踏ん切りがつかない男たち。いまさら安穏とした生活に身を置けるのか、逆に不安なのだ。

終盤、仲間の一人が囚われてリンチを受けているところ、4人で救い出しにいこうとする。物語のクライマックス直前の場面。それはそれで構図としては美しく、胸が高鳴るシーンでもある。
でもまあよく考えてみれば、自分たちだって相応の非道を尽くしてきたわけで、第三者からすれば何をいまさら・自業自得でしょう、の謗りは免れないと思う。

それでも、この場面が美しく見えるのは、人間は誰でも善悪完全に割り切れるものではなく、どんな人にも一片の義侠心があるものだという、ある種の希望を示してくれるからなのだろう。
もしくはペキンパーは、善悪の境が融解していく様を描きたかったのかもしれない。とかく現実は正義・悪の峻別をつけたがるもの。でもそういう方がいつまで経っても理想の社会に近づけないのではないか、と。

そんな善悪の輪廻から抜け出せず再び修羅の道を生きるソーントンと、死に場所を見つけて飛び込んでいったパイクと、どちらが望ましい在り方なのか。凄惨なアクションシーンばかりが話題になるが、そういう問いを突き付けているような作品だと感じた。まさに傑作。

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