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逡巡の4秒ルール

 うっかりと落としてしまったチョコが床の上に見えている。

1秒 今ならまだ間に合う。全力で追えば、既に落ちているとは言え、なかったことにすることもできる。わかっているなら、躊躇うことは悪だろう。迷う必要などない。迷うには1秒は十分な時間ではない。すぐに決断することが待たれる。1秒を躊躇えば後悔は長くなるだろう。

2秒 過去と呼ぶには新しすぎる時間。指先を責めるか。重力を恨むな。そのため世界は安定して回っているのだろう。時間は戻らない。けれども、取り戻せるものはある。今なすべきことは、前向きに手を伸ばすことではないか。過ちはどこにでもある。そこから何を得られるか、どれほど失うか。それはその後の行動によって変わるのだ。1秒を軽んじれば後悔は重くなるだろう。

3秒 伸縮する1秒がある。1秒に恋は芽生え、猫は止まり、雷は落ち、星は流れ、ヒョウは駆け、疑念は晴れ、我に返る。受け止めるには青すぎる。見過ごすには大きすぎる。1秒でなせなければ、永遠であっても起こり得ない。ならば同じことだろう。猫のひとかきも、大河の如き夢も、同じ時間の中に含まれるのだ。僕にできることと言えば……。

4秒 審判の笛が鳴る。
 躊躇いのペナルティー。
 敵チームのキックインから、ゲームは再開される。


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