夏の間だけ恋をした話

この夏好きな人がいました。

「2019年の夏、僕はこの2ヶ月間だけ宇宙で一番君に優しいから。9月からは他人だけど、それまでは全力で君のために夏を使うよ」

そんなひどい言葉から僕たちの関係は始まった。

今年の僕の夏は、僕と彼女の夏でした。


仕事のパートナーとして出会った彼女と仲良くなるのに時間はかからなかった。

仕事後に2人で出かけて、休みの日に食事して、寝るまで連絡して、また朝から一緒に働いて。

すぐに友達になれたし、端から見た関係性はどうみてもそれ以上だった。


「なんであの子とそんなに仲いいの?なんでそんなに優しいの?」
不思議そうな周りの声。

「なんでって?そう決めたから」
普段から多用する言葉で返す。


周りに言われる「ロッキーさんってあの子抱きました?」なんて質問が低俗すぎて何度も呆れた記憶がある。

「仕事相手ですよ?抱かないでしょ」

もちろん真っ当だし嘘のない言葉で毎回返事する僕。

けど僕が彼女を抱く対象にしたくない理由は「好きだから」だった。

だから僕たちは「友達」だった。


「君にはなんでもしてあげるよ」
「本当になんでもですか?」
「終わりがあることなら」

僕はキリがないことが好きじゃない。終わりのあることが好きなんだ。

「例えばお金はあげられない。終わりがないから。けど食事なら大丈夫。終われるから」
「難しいですね。じゃあカニカマ買ってください」
「いいよ」
伝わってるかどうかわからない会話と、優しい彼女のリアクション。


仕事仲間との会話で
「ロッキーあの子のこと好きだよね?」
「めっちゃ好きですよ。見てわかる通り」
「好きだから付き合いたい?」
「どうだろ、考えてない」
「キスしたい?抱きたい?」
「どうだろ、考えてない」
「好きなんでしょ?どうしたいの?」
「好きなんだから他にやりたいことあるんすよ」

はっきりと時間がない。
僕と彼女の関係には期限が決まっている。


「2019年の夏、僕はこの2ヶ月間だけ宇宙で一番君に優しいから。9月からは他人だけど、それまでは全力で君のために夏を使うよ」


初めて会ってから夏の9割は彼女といた。

いろんな話をしたし、いろんな話をしてくれた

ずっと働いてるから行ける場所は限られたけど、許す限りいろんな場所へ出かけた


夏は終わりに近づき、僕と彼女はとても仲良くなって、少しずつ離れていった。

「2019年の夏、僕はこの2ヶ月間だけ宇宙で一番君に優しいから。9月からは他人だけど、それまでは全力で君のために夏を使うよ」

最初から決まっていた夏だけの関係。
キスもセックスもしないけど、僕は誰よりも好きだったし何よりも大切だった。


「お前、俺のこと好き?」
唐突な僕の質問に
「ど、どういう意味ですか?」
と戸惑いながら返してくる彼女
「どういう意味でもいいけど」
「じゃあ好きです」

夏が終わる直前にしたその会話が、彼女から唯一もらえた言葉での好きだった。

彼女が僕のことをどれくらい好きかなんて聞かないし知ろうとも思わないし、実際どうでもいい。

「仲良いよね?付き合ってんの?」
「いえ、僕が一方的に好きなんです」

僕にとってはそれだけで満足だった。

「僕が彼女に恋をしただけ」だから。


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彼女のことはまた書きます。



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