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『ゴールデンカムイ』はなぜ黄金時代の日本映画と親和性が高いのか〜ゴールデンカムファンに送る名画5選

人気マンガ『ゴールデンカムイ』の原作ファンの皆さま、実写映画の試写も終わり、ついに公開ですね。情緒保ててますか?

原作もの、しかも画を伴うマンガを原作にするのは、どっちにしたって誰もが納得なものができるわけないと思うのですが、それでもどんどん制作されているのは様々な事情があるのだろうなあと思わずにいられません。

この記事では、日本映画の黄金時代である1950年代から60年代にかけての作品を中心に、邦画の名作について『ゴールデンカムイ』と絡めてお話していきます。


『ゴールデンカムイ』と黄金時代の日本映画の親和性について

近年のマンガ原作映画の増加は、映画以外のコンテンツが増えた社会の中で、なんとか映画業界ががんばろうとしてるんだろうと理解しつつ、失礼ながら、個人的にはマンガ原作の実写はキャスト発表がクライマックスだと感じています。おお解釈一致とか、そう来たかとか、わかってないなあとか責任のない立場でギャーギャー言うところの楽しさに勝る映画は、残念ながらそんなにありません。

そしてキャスト発表後に様々な意見がSNSで見られるのも時代の賜物ですね。深いキャラ考察を披露してくれるポストにのけぞったり、安直なキャスティングを自慢げに発表するポストを見て薄笑いしたりしつつ、酒を飲む。このフェーズもなかなか楽しいものです。

もちろん、わたし自身も脳内キャスティングは延々やりながら読むタイプ。『ゴールデンカムイ』は近年稀に見る黄金時代の日本映画との親和性が高い作品でした。

舞台が明治とあって、当時の日本映画が描いた世界と近いことはもちろん大きな要素でしょう。加えて映画パロディを存分に含む『ゴールデンカムイ』、原作者の野田サトル先生がこれらの旧作からヒントを得たり、受けた影響を意図せず表出させた部分もあると推察できます。

この作品は、脳内キャスティングごっこで頭を絞らなくても、仁義なきメンバーや黒澤組の俳優がどんどん勝手に参加してくれて(狂気)存分に楽しませていただきました。そう、脳内キャスティングごっこは実写化が決まる前から始めるのが正式な作法の遊びだと断言させていただきたい(戯言)。

それともうひとつ、キャスティングは時空と予算を超えて配役を考えるのが楽しむコツだと思っています。そうすることで、実際に実写になった時の不満が格段に減るのです。『ゴールデンカムイ』実写化の際には、杉元役は長瀬くんが良かったという意見を散見しました。確かに、と思うものの、これはどうも不満が残りすぎてしまう。

その点、わたしは三船敏郎がいいと思っているので「わたし同じくらい良い配役知ってるのよウフフ、まあ死んだ人なんで無理なんですけどね…」みたいな謎すぎる余裕が生まれます(狂気)。

実現可能なキャストを考え過ぎると思い通りにならない時に実際の俳優さんへのあてこすりのひとつも言いたくなると思うのですが、それは避けたい。あくまで我々は責任がない分、そのへんは謙虚にいきたいところです。

それとね、作品を味わう深みが増すんです。実現可能で単に見た目が似てる人を選ぶのではなく、古今東西の知る限りのすべて俳優を対象にすると「この人のこの部分をあの俳優が上手く表現してくれそう」という気づきが起きやすく、点と点が結ばれ線になっていきます。そうしてると自分の好みもわかってくる。だから鑑賞法としてはとても愉快。

いずれにせよ、実写化のキャストは人によっての「そのキャラクターのどこを表現してほしいか」のズレによって、必ず誰もが納得いくようなものにはならないもの。

その上で、黄金時代の日本映画のいずれかでも「あ、観てみたいかも」と思ってもらえれば嬉しいです。

*この記事は、あくまでも実現した『ゴールデンカムイ』実写を喜び、観に行くまえにどうしても脳みそから出しておくべきとアップしたものです。イラスト等が間に合わないままなので(出来れば後で付け足したい)皆さまには本物の映画に満足したあと、お遊び程度に読んでもらうのが推奨です。


ゴールデンカムイファンに捧げる日本映画その1: 『ジャコ萬と鉄』

1949/監督:谷口千吉 1964/監督:深作欣二

道西のニシン漁場での出来事を描いたこの映画は、『ゴールデンカムイ』のファンに見てほしい1本です。刺青人皮を探す序盤のエピソードである辺見和男編は、時代は異なるものの同じくニシン漁場を舞台とするものでした。

この映画については前に描いたものがあった(しかしラフ)

辺見編は、少年誌では語りにくい人間の暗い欲望と残虐描写をギャグを混在させながら描くという、『ゴールデンカムイ』の個性が大きく花開いたパートです。また、ジャコ萬のジャコは麝香鹿のジャコ。樺太編でキロランケが季節労働者のことをジャコジカと呼ぶことを語るシーンがあります。その、ジャコジカ達の物語が『ジャコ萬の鉄』なのです。

1949年の三船敏郎主演バージョンと1964年の高倉健主演バージョンがありますが、これは三船に憧れる高倉健が自らリメイクを申し出たのが64年版。

戦死したと思われていた鉄がひょこっと戻ってきて、自分の骨壺の中の馬の骨をかじるシーンや、物語中で存在感を増していく爽やかなカリスマ性はどうしたって三船敏郎の方が仁に合うキャストと言えましょう。やはりオリジナルは強い。

先述したように三船は杉元役です。顔が良くて、でもそのことに気負いがなくて、さりげない優しさや繊細さや、茶目っ気など杉元みを感じさせる。

三船は実家が写真館で、第二次世界大戦中は写真の知識を買われ軍の写真部に在籍し、出撃を前にした特攻隊員の写真を撮影した経歴を持ちます。生命の危機は少なくとも、なんという地獄。出撃する少年兵たちに「『天皇陛下万歳!』なんて言うな。恥ずかしくないから『お母ちゃん!』と叫べ」と伝えていたというエピソードにも人柄が偲ばれます。

戦争のトラウマに人生を棒に振ることなく前に進む強さや、地獄を見た上での優しさは杉元佐一というキャラクターの軸となる部分ではないかと思うのですが、三船はそれと共通する要素を持ち、それが魅力のスターでした。

産業経済新聞社(Sankei Shinbun Co., Ltd.) - 『サンケイグラフ』1955年6月5日号、産業経済新聞社 ”The Sankei Graphic”, Sankei Shinbun Co., Ltd. 1955.
三船敏郎。1943年。八日市第八航空教育隊に在営時。
三船敏郎. (2024, January 10). In Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E8%88%B9%E6%95%8F%E9%83%8E

これほんとに戦時中の軍服ですが、この若き日の三船の顔の1巻の表紙の杉元み。単に顔立ちが似ているというより、そういう人はこういう顔つき、ということにも思えてきます。ん〜でもやっぱり眉毛の角度とか口角とか似てる感じもしますね。

対して、主人公の鉄の敵となるのは49年版では月形龍之介、64年版では丹波哲郎です。わたしが1人で考えて1人でで喜んでいる昭和の『ゴールデンカムイ』主人公の対立勢力の将である鶴見中尉は丹波哲郎です。役の性質としては同じ構造ではあります。

丹波哲郎の鶴見中尉という配役は、まずは「あの格好してもらっていいですか」コスプレ的な要素が大きいことは先に告白しておきます。

とはいえ、脳内キャスティングがある程度固まってから気づいたのですが、丹波哲郎という人は日本をベースに活動しているのに海外映画の出演がそれなりにある人という点で三船と共通しています。いるだけで様になるというか、存在感があるタイプの俳優。これは鶴見中尉を演じてもらうのに重要な要素です(まあもう死んじゃってるんですけど)。

本人の個性が強烈な割に、個性派俳優というわけでもなく、割とどこに置いても役にうまく収まる不思議な存在感は、責任に押しつぶされそうになりながら耐えていたように見える三船敏郎(この話は長くなるので割愛しますが、三船は自身のプロダクションを設立した後は、業績に似合わぬ不遇だったと思う)とは対照的です。この自由奔放さも丹波哲郎の魅力です。

代々医師の家計に生まれつつも、本人曰く「丹波家の落ちこぼれ」。大学在学中に学徒出陣し、近衛隊を経て陸軍航空隊で終戦。その後は復学しGHQの通訳アルバイト(英語は半分しか分からずトイレでサボっていたらしいが)を経て役者の道へ。途中で霊界研究家という怪しい経歴を名乗り出すも、車椅子の奥さまを最後まで大事にした愛妻家でもある。

育ちの良さや、おおらかさ、戦争に翻弄された複雑な経歴が滲み出る個性を作り上げ、そのひとつひとつの違う断片が作品ごとに表出していったのではないかというのが、わたしの丹波哲郎観です。

そこには鶴見中尉との共通項を見出すこともできますが、なんとなく大塚芳忠さんが吹替をしたら良さそうな怪しさ(丹波哲郎は日本語話者なので必要ない)があるところ、そういうとこが決め手ですね。

もちろん、長く通った鼻梁と目立つ下まつ毛を湛えたやや三白眼の眼差しの上に、例の額当てがあったらどうだろうか…と思うとワクワクするのも確かではあります。

ただ『ジャコ満と鉄』で丹波哲郎が演じるジャコ満はヤン衆なので、姿としては毛皮を着ていて眼帯で髭面(イラスト参照)。将校さんという感じの風貌ではありません。でもねスーツを着てスカしていることの多い60年代の丹波哲郎と一味違う異例のワイルドな色気も、ぜひぜひご覧いただきたい。

この映画を紹介したくて始めたに等しいnoteなので、映画についてはこちらの記事にさらに詳しく書いております。

現在、49年の谷口千吉版は配信がなく、ディスクも高騰気味なので、手元になく詳細がお伝えできないのは残念ですが、64年版はU-nextでも見られます。


ゴールデンカムイファンに捧げる日本映画その2『東京の恋人』

1952年/監督:千葉泰樹

東京の恋人 (1952年の映画). (2023, September 7). In Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E3%81%AE%E6%81%8B%E4%BA%BA_(1952%E5%B9%B4%E3%81%AE%E6%98%A0%E7%94%BB)
毎日新聞社「毎日グラフ(1952年7月10日号)

銀座で似顔絵描きをする主人公ユキは原節子、相手役として出演するのが三船敏郎です。かなり古い作品で配信などもないのですが、DVDは販売されています。決してアクセスしやすいわけではないのですが、原節子と三船敏郎の共演が珍しいのとか、勝鬨橋が可動橋であることが動画として残っている資料的な面もあり、興味がある人もいるかもね…という1本です。

わたしがこれを観たのは、今はなき銀座三原橋のシネパトスだったかと記憶しています。三船敏郎の良さに気づいて追っかけをしていた2010年前後『こち亀』だけでしか見たことがなかった開く勝鬨橋を映像で見られると知って観に行きました。

三船敏郎は宝石の贋作作家の黒川役。お侍さんとか山本五十六のような軍人のイメージが強いですが、若い頃は絵描きとか医者とか凶悪犯とかヤクザの兄貴とか様々な役をしています。これは、アーティスト系の三船。

病で床に伏せっているユキのために黒川が身の回りの世話を買って出るのですが、共同住宅の水道でシミューズって言うのですかね、女性用の下着を手洗いするシーンがあります。それを見て「男が女の下着を洗うなんて」と揶揄した相手に、黒川は「男も女も関係ない。困ってる人がいて、助けてあげているだけだ」と言い返します。

これ、1952年、昭和27年の映画ですよ??

こんな台詞を三船敏郎の誰が言えるだろうか。2024年となった今でも、トキシック・マスキュリニティ(有害な男性性)が蔓延り、女性だけではなく、その規範から外れた男性をも圧迫しているというのに。

でも、この黒川の言葉は説得力を持って揶揄する者の言葉を奪います。三船以外の誰が、その時代にこの言葉に説得力を持たせることができたでしょうか。

『ゴールデンカムイ』のヒロインであるアシリパ(正式表記はリが小文字)は、大変聡明ではあるものの10代前半の少女です。しかし主人公の杉元は彼女に常に敬意を払い、敬称をつけて呼びます。アシリパさんは杉元のことは呼び捨てだけどね。

本作は女性キャラクターが極端に少ないながらも、女性の扱いには明らかに注意が払われていました。それを単なるコンプラ的なものとしてではなく、心からそう思っている様子で演じられる俳優を挙げるとしたら、このシーンの三船敏郎を真っ先に挙げたいですね。

原節子さんの衣装もとても可愛いし、すごく美人だけどお尻が垂れててパンツスタイルが決まりきらないところすらも愛おしいです。

ゴールデンカムイファンに捧げる日本映画その3:『恋と太陽とギャング』

1962年/監督:石井輝夫

東映ギャング路線の1本で、高倉健と丹波哲郎のW主演。劇伴がジャズでかっこいいし、なかなか楽しい映画です。これについても既に詳細は記事にしてあるので、内容について興味をお持ちいただけましたら、そちらをどうぞ。

このnote、本来は丹波哲郎の推し活なので、イラストは丹波をバーンと描くべきなのですが、わたしが描いてしまったのは衆木役の江原真二郎でした。この方、家族でライオンの歯磨き粉のCMに出ていらしたことで有名ですが、昭和生まれのわたしもさすがに記憶がいまいち、お名前については奥さまの中原ひとみさんはなんとか。

しかし丹波哲郎見たさに60年代の映画を見まくっていると、ほぼ全部の映画に出てくるのが江原真二郎、名バイプレイヤーなのですね。

丹波哲郎と高倉健が基本味変しないでいろんな映画で主役を張っているのに対し、その脇でさまざまな役を演じ分けているのが江原真二郎なのです。

この映画の中では、自動車工場を営む単なる下町のお兄ちゃんと見せかけて、実は前科者という役柄を演じています。ちょっと短気だけど気のいい兄ちゃんから、旧友(千葉真一。尾形役の眞栄田郷敦さんのお父さんですね)に見せる諦めの表情や薄気味悪い笑顔など、どんどん別の顔を見せていく様子は圧巻。そして、斜めの角度の細面ぶりが白石由竹ぽい! 

江原真二郎は、三船や丹波といったニューフェイスではなく大部屋出身の俳優さんですが、正面から見ると眉から目にかけての彫りの深さが際立つイケメンです。でも少し斜めになると鼻梁のカーブが大変に白石。

ちなみに『ジャコ萬と鉄』の64年版では、恋愛のもつれに女を殺してしまった情けない前科者(ただしイケメン)を演じており、短いシーンですがこちらも印象深い。また、同じく石井輝夫監督の日本のギャングノワールの名作『ならず者』(1964)では、感情を全く出さないカジノディーラーを演じています。渋い。

白石は、いつもヘラヘラしているけど心の中では相当に色んなことを考え、自分なりに納得がいくようにと勇気を振り絞りながら行動しているキャラクターなのだと個人的には捉えています。

だけど、それをほとんど言葉にすることがないのも白石。おちゃらけているけど、多くの感情を内側に持ち、それを自分で消化する強さもあるのも白石。これを演じて薄っぺらくならない実力者で、顔もそこそこ納得がいく似方という点で、白石ファンの人にぜひ見てほしい俳優さんです。

ちなみになんですが、ギャング一味の1人を演じる曽根晴美のルックスは、太い眉毛と顔の傷が有古一等卒みがたっぷりなので、もしご覧になるならば、そちらもぜひ注目してほしい。また、ロングコートの丹波哲郎の伊達男ぶりは、やはりちょっと鶴見中尉を彷彿とさせます(そういう目で見ているから)。

ゴールデンカムイファンに捧げる日本映画その4『仁義なき戦い』

1976年 監督:深作欣二

仁義なきシリーズでは、丹波哲郎がなぜか止め画でのみ出演する(多分ボラギノールのCMの元ネタである)代理戦争、わたしが大好きなスピンオフ的作品の広島死闘編なども見所はあるのですが、『ゴールデンカムイ』的な文脈で言えば、一作目をご覧いただくのが良いかしらと思っています。

見て欲しいのは伊吹吾郎演じる上田透ですね。出番はちょっとしかないのですが、まず顔が笑ってしまうくらいキロちゃんなんだ…上に貼ってある動画にも紹介されていますので、格さん以前の伊吹吾郎のイケメンぶりをご覧いただきたいですね。

しかしながら、画像検索をして若い頃の姿をチェックしていくと、ふんどしグラビアがあるのも伊吹吾郎さんなのです。どうみても谷垣…

というわけで、わたしは今でも伊吹吾郎をキロちゃんにするか谷垣にするか迷い続けています。ああ楽しい

『仁義なき戦い』は第二次世界大戦直後に行くところがなかった帰還兵を中心とする物語です。実録物なので金塊争奪戦のようなロマンには欠けますが、構造としてはゴールデンカムイと共通する部分もあります。

また、サラリーマンの友達が「上の組織からは無茶振りされ、若い衆も食わさないといけない、私は文太の気持ちを考えたら泣く!」と言っていたので、門倉部長や月島軍曹などの中間管理職キャラに感情移入してしまう人にとっては面白いかもしれません。70年代のイケメンパラダイスとしてもどうぞ。


ゴールデンカムイファンに捧げる日本映画その5:『七人の侍』

1954年/監督:黒澤明

言わずと知れた日本映画屈指の名作、七人の侍。そして、七人の中には日本映画史、最もかっこいい男と言っても過言ではない宮口精二が演じる久蔵がいます。

いや、もちろん色んな映画にかっこいい人はいっぱい出てくるし、異論もいつでも受け付ける! でも久蔵をかっこいいと思わない人っていないんじゃないのでは? それが久蔵というキャラクターなのです。

実際、海外の黒澤ファンの中では久蔵は一番人気だとよく聞きます。サムライのイメージを具現化したキャラクターなのでしょうね。

修行の旅を続ける凄腕の剣客である久蔵は、最初は一度、仲間になることを断ります。強さだけを求める久蔵のことをを侍たちのリーダーである勘兵衛(志村喬)は最初は酷評しますが、仲間になった後は食事中に笑顔を見せたり、違う面を見せ始めます。

無口で、滅法強く、所々で根っこの優しさを見せ、時に思ったよりもノリがいいかも…と思わせる久蔵。まってこれ…月島軍曹…。

去年の夏休みに『ゴールデンカムイ』を改めて一気読みした後にダラけながらこの映画を見ていたら、突然心の中のドアがバーンと開いてバタムと閉じたあの瞬間、わたしは軍曹ガチ勢となったのだと思います…

宮口精二さんは小柄なところは月島と共通していますが、華奢で剣道自体もしたことがなかったとのこと。どうしてそんな俳優さんに久蔵役をオファーしたのか、ご本人も不思議だったと何かで読んだ記憶があります。しかし、なかなかどうして、そんなことはつゆとも思わせない風格。構えも、残心も剣客そのものです。

原作ありの実写化は、俳優さんとキャラの共通項を探りつつも、埋められない溝をどのくらい俳優さんが埋めてくれるかが成功の可否を握っています。全く剣道経験がない宮口が、誰よりもかっこいい剣客を演じたというのは、役者の力量を感じさせます。

実写映画の月島を演じる俳優さんが身長が180あることで、公開前から物議を醸していましたし、なぜその身長の人に役をオファーしたのだろうとは思うものの、役者さんが語る演技プランはどれも妥当すぎて、好感度大。自分と役の離れた部分をどう近づけるかをしっかり計画できる俳優さんはいいですね。今日の夜には完全に落ちてるかもしれません。

黒澤監督作品では『生きる』のヤクザの親分役では印象的な宮口精二(台詞ないのに!)。さまざまな映画でバイプレイヤーとして活躍した実力と存在感を持つ稀有な俳優の1人です。ちなみに顔は月島には似ていないのですが、ゴルゴラインはあります。

久蔵を慕う育ちの良いボンボンの勝四郎役の木村功に鯉登少尉を演じてもらうのもいいかもですが、この少尉だとちょっと他の剣キャラに勝てそうにないのがちょっとね…とも思わなくもなく。14歳の音之進とかかなあ。

ちなみに、某SNSでキャスティングごっこをしていて遊んでいた時、ガムシンどうするか問題に「志村喬さんが良いのでは」と提案してくれた方がいらっしゃいました。キャラ考察の深さと映画知識、そして実現不可能なところにどんと踏み込める自由さが天才で、そういう方と雑談できるの至福だなと思いましたね。

どっちにしても『七人の侍』は日本の宝を超えた映画史の宝。宮口精二の話ばかりでさっぱり映画の説明もしてないくせに、全人類が履修してくれれば良いと今でも夢見てしまう(老害発言)。

ま、リマスターの前は音声が悪く「ちょっと何言ってるかわかんない」となってしまって、なかなか最後まで見られませんでしたけど今はもうちょっと観やすいので、いつか履修しようと思っている方はぜひ!

最後に

なんで二百三高地はの言及がないのかとか、今回の5選では尾形が入らなかったとか心残りはありますが、その辺もいつかまた機会があれば…。

ひとまず一言言っておきたいのは、若い頃の仲代達矢さんの喋り方が割とアニカム尾形みがあるので、そのあたりから尾形ファンに捧げる日本映画とかも探り続けたい所存ですが、それはまた別のお話ということで!


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