見出し画像

頭を悩ます「副業・兼業」の普及|迷想日誌

厚生労働省というより政府は、副業・兼業の普及を推し進めていますが、どう考えても現状のままだと労働時間管理に無理があります。
最大のネックは、複数事業場における正確な通算労働時間の把握が困難な点です。正確な労働時間が把握できなければ、使用者に労働基準法上などの各種責任を負わせるのは無理です。

今回は、労災補償上の責任が焦点となっています(下記リンク参照)。

現状では、複数事業場のうち労災責任を問われるのは、基本的には、労災を発生させた1つの事業場で、補償の基礎となる賃金もその事業場の賃金となります。
しかし、労災保険制度の目的を労災の被災者に対して迅速に補償し貧困の状態に陥らないようにすることとすれば、低賃金で複数事業所で仕事をしている場合、複数事業場から得ていた賃金を合算しないと低い補償しか受けられないことになります。

つまり、異なる使用者の事業場における労働時間をその使用者間相互で正確に把握することが最低限必要です。
脳・心疾患など疲労の蓄積による労災の場合は、なおさら複数事業場での労働実態の把握が必要ですが、とても困難です。
ガイドラインでは、労働者からの自己申告に頼っていますが、当然、曖昧にならざるを得ません。
そもそも、公表しないで副業・兼業している労働者は自己申告しないでしょう。
だからといって、わが国には自己申告の義務化は馴染まないでしょう。

こう考えてくると、副業・兼業の拡大は、労働法にとって想定外のことで、もしかすると幅広い関係法令の改正を行うか、あるいは、不正確な労働時間管理を甘んじて受入れ、最小限の改正に留めるかの選択となるでしょう。
不正確な労働時間管理を前提とすると、労働者側に責任が発生します。副業・兼業自体を使用者に自己申告していなかったり、正確な労働時間を届出しないまま労災が発生した場合、限定的な補償しか受けられないことになります。
使用者側としては労働者の副業・兼業の実態を知らない方がダメージは少ないことになりかねません。全体としてどのような結論とするか注目です。

労働新聞編集長 箱田 尊文

【関連ニュース】

――――――――――――――――――――

〈労働新聞・安全スタッフ電子版のご案内〉
労働にまつわる最新の情報など、充実したコンテンツを配信中の『労働新聞・安全スタッフ電子版』は、下記よりご覧ください。

―――――――――――――――――――

Copyright(C),2019(株)労働新聞社 許可なく転載することを禁じます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?