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よい会社はよいバランスの上に成り立つ

[要旨]

会社の事業は、顧客、従業員、株主などの異なる立場のステークホルダーの間で、うまくバランスをとることで、最大の成果を得ることができます。経営者は、そのバランスをとる役割を担っており、そのためには、会計的な裏付けを得た上で、ステークホルダーコミュニケーションを図ることが大切です。


[本文]

今回も、コンサルティング会社のシニフィアンの共同代表の朝倉祐介さんのご著書、「ファイナンス思考-日本企業を蝕む病と、再生の戦略論」を拝読して気づいた点をご紹介したいと思います。前回は、商品の原価管理は厳密に行われることが多い一方で、販売促進費などの販売に関する費用は、煩雑さなどの理由で厳格な管理が行われていないことが多く、採算を得られないことが少なくないということを説明しました。今回は、経営者の方が経営判断を行う上で重要な視点についてご説明したいと思います。

「一般的に、経済学では、会社は、財市場(顧客による評価)、労働市場(従業員による評価)、資本市場(投資家による評価)の3つの市場の評価にさらされていると言われています。(中略)ポイントは、財市場、労働市場、資本市場における、会社の評価の良し悪しが合致しないということです。(中略)したがって、それぞれの人々にとっての『よい会社』の意味も、また、当然、異なるのです。(中略)

例えば、従業員は安定的な雇用と待遇の向上を求めるのに対し、株主は従業員の削減を通じた財務体質の改善を求めるといった状況が生じかねません。ここまで極端な例ではなくても、顧客、従業員、株主にとっての『よい会社』は、極めて危ういバランスのうえで成立しているのです。(中略)会社を取り巻く3つの市場という経済学的な切り口から考えてみると、経営者の重要な役目のひとつは(中略)、会社の事業と組織を育て、適切にステークホルダーとコミュニケーションをとることによって、関係者の目線を同じ方向に向けることであると言えるでしょう」(11ページ)

経営者の役割は、会社の売上を増やすために、従業員を鼓舞しながら牽引していくというイメージを持っている人も少なくないと思います。しかし、現在は、朝倉さんの指摘するように、利害の異なるステークホルダーの意見をまとめるという役割の重要性が増しつつあります。中小企業でよくみられる例だと思いますが、顧客から厳しい条件をつきつけられ、それに応えるために、従業員を酷使してしまうということが、残念ながら、かつては、たくさんあったと思います。

そのような会社は、いわゆるブラック会社ですが、そのような会社の事業は長続きしません。そこで、ステークホルダーコミュニケーションを図ることによって、バランスをとることが大切になるわけですが、そのためには、きちんとした会計的な裏付けが必要になります。このような面から、現在は、経営者の方には、会計的なリテラシーを持つことが、ますます、欠かせなくなっているといえるでしょう。

2022/3/19 No.1921

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