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『驚き』という顧客体験価値を提供する

[要旨]

山芳製菓は、仕事やプライベートで不満を抱えていて、ちょっとだけ刺激が欲しい人に向けて、「驚き」という顧客体験価値を提供しようとしています。そして、このような、インパクトのある驚きの体験は、日常生活の中に、『トゲ』を残して強く記憶されることで、同社のブランドを強化していくと言えます。

[本文]

今回も、前回に引き続き、作家の濱畠太さんのご著書、「『わさビーフ』したたかに笑う。業界3位以下の会社のための商品戦略」を読んで、私が気づいたことについて説明します。前回は、山芳製菓はポテトチップスの市場占有率が3.4%であり、ランチェスター戦略でいうところの「弱者」ですが、現在も売上の半分を占めるPB製品の製造ノウハウを活用し、NB製品の製造を行うようになり、さらに、PB製品の販売先にNB製品も販売するという相乗効果を活用した戦略も実践しているということについて説明しました。

これに続いて、濱畠さんは、山芳製菓は、顧客に驚きの体験を提供しようとしているということについて述べておられます。「山芳製菓の商品を購入するお客様は、コンビニエンスストアの店頭で、何か面白いものはないか、いつも探している人ではないでしょうか。もしかすると、仕事やプライベートで不満を抱えていて、ちょっとだけ刺激が欲しい人かもしれません。人生のスパイスを求めているような人です。つまらない日常を抜け出したい。けれども日常から抜け出す勇気がない。

たまたまその日は、そんなモヤモヤした気分を抱えながらコンビニエンスストアにふらりと立ち寄った。そんなお客様もいるのではないかと想像されます。そんなお客様のちょっとした冒険心をくすぐるためには、驚きが必要です。ささやかなサプライズが冒険心を刺激します。まずはパッケージを見て、『こんな味が菓子になっちゃったの!』と、びっくりさせてみたい。『これはありえない…』と、唖然とするぐらいの驚きを与えたい。

そして、購入して食べてみて、『やられた!というか、これはやりすぎ!』と思われるくらいの驚きを生み出したい。わずか100円程度とはいえ、冒険を体験したお客様は、このメーカーはちょっと面白いかもしれないな、次はどんな商品を出すのだろうと、わくわくしながら新商品を待つのではないかと考えています。美味しさの体験も大切ですが、美味しい気持ちは日常生活のなかで薄れていってしまいがちです。けれども、インパクトのある驚きの体験は、日常生活の中に、『トゲ』を残して強く記憶されるのではないでしょうか?」(128ページ)

濱畠さんのご指摘の1つ目のポイントは、「100円程度の冒険を提供する」、すなわち、顧客体験価値を提供しているということだと思います。すなわち、山芳製菓は、お菓子を売っているのではなく、「驚き」という顧客体験価値を売っているということです。2つ目のポイントは、「インパクトのある驚きの体験は、日常生活の中に、『トゲ』を残して強く記憶される」ということです。

これは、ブランドの研究者の大家である、デューン・ナップのブランドの定義、「顧客や生活者に認識された、情緒的・機能的ベネフィットがもたらす印象の蓄積が、心の眼の中でとんがった位置を占めること」に類似していると、私は感じました。すなわち、山芳製菓は「『驚き』という顧客体験価値を提供する会社」というブランドが、顧客の間で築かれているということだと思いますこのような、顧客体験価値を提供することの積み重ねは、顧客の心の中にある同社のブランドを強化し、競争力を高めていいくことにつながるのだと私は考えています。

2024/2/12 No.2616

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