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人は感情によってしばしば判断を誤る

[要旨]

バリュエンスホールディングス社長の嵜本さんは、ブランド品買い取り事業に専念することにした際、仕入れたブランド品の売却方法を、インターネットオークションから、すべてBtoBオークションに変更しました。インターネットオークションには愛着があったものの、利幅が減少したことから、感情での判断を避けたものですが、そのことが次の事業展開に有利な結果となりました。

[本文]

今回も、前回に引き続き、バリュエンスホールディングス社長の、嵜本晋輔さんのご著書、「戦力外Jリーガー経営で勝ちにいく-新たな未来を切り拓く『前向きな撤退』の力」を読んで、私が気づいがことについて述べたいと思います。前回は、嵜本さんがブランド品買い取りを始めた際、顧客の持ち物に関するストーリーを聞いて、なるべく顧客の要望する価格で買い取りをするようにした結果、リピート客が増えただけでなく、顧客からの信頼が得られたり、盗品の買い取りを防ぐことができるようになったりするなど、副産物を得ることができたということを説明しました。

その後、嵜本さんは、2人の兄から離れ、単独でブランド品買い取り事業を行うことにしたそうです。そして、それまで仕入れたブランド品を、利幅が減少してきたインターネットオークションで販売するのをやめ、リユース業を営むプロだけが参加する、BtoBオークションだけで販売することに決めたそうです。「それまで私たちがインターネットオークションを利用していたのにも、もちろん、理由があります。それは、個人への販売を前提としたプロに売るよりも、直接、個人へ販売した方が利幅が大きいこと、そして、BtoBオークションを利用する場合は、手数料が発生することでした。

私たちは、長い間、インターネットオークションを主な販売の場としてきましたが、一部の商品については、こうしたBtoBオークションも利用してきました。比率で言えば、9対1くらいで、インターネットオークションに依存していたのです。売上が下がってきたと気づいた時、徐々にインターネットオークションから、BtoBオークションへと移行させることもできました。インターネットオークションには愛着すら持っていました。

そこで、例えば、比率を1対9にひっくり返して、それを使い続けることもできたでしょう。しかし、愛着と言うのは感情です。そして、感情によって、しばしば、人は判断を誤ります。私には、インターネットオークションを手放したその手で掴み取るべき、BtoBオークションという、次の選択肢と、その可能性のすごさが、はっきり見えていました。こうした状況がはっきりしているのであれば、可能性が減少していく一方の市場からは、いち早く前向きに撤退し、次の足場を築くべきです」(156ページ)

嵜本さんがご指摘しておられるように、「愛着は感情であり、その感情にによって人は判断を誤る」ということについても、多くの方がご理解されると思います。しかし、私がこれまで中小企業の事業の改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、これも嵜本さんがご指摘しておられるように、「愛着」で判断する経営者は少なくないということです。そのような判断の誤りが起きてしまう要因のひとつは、人は、心の深いところでは、変化を好まないからだと思います。

顕在意識では、環境の変化に合わせて、事業も変えて行かなければいけないということは分かっているものの、変化することは負担が大きいことから、強い意思をもっていないと、改善を避けたり先延ばしにしてしまったりしがちです。そこで、こういった感情につられることを避けるには、意思決定の際には、努めて客観的な根拠を用いるようにすることです。嵜本さんは、インターネットオークションでは利幅が薄くなってきたという事実を根拠に、そこからの撤退を決断しました。もちろん、数値だけですべてを判断してよいとは限りませんが、できるだけ精度の高い判断をするためにも、客観性の高い材料を用いることができるようにしなければならないでしょう。

2023/7/6 No.2395

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