見出し画像

【目の前にある】「ガラスの器と静物画」山野アンダーソン陽子と18人の画家 東京オペラシティアートギャラリー


文字、立体、絵画、写真。
この4要素で展覧会が成り立っている。
面白かったのだ。
初めて見た展示形式というか…

まず、依頼があって、

○○を食べる時だけに牛乳を飲む、
その為のコップ。良いなぁ。
私も鳩サブレーを食べる時は牛乳を飲む。



依頼後に作者がそれを作り、

握りごごちの良さげなコップ。



絵になるとこうなり

縁の厚みとかそのもの。



写真に収められるとこうなる

佇まいの良さ



と、言うことが淡々と続く。

なんというか、この「ご本人登場〜!」感。
淡々としているのだけども、なんだか見ていてウキウキした。

今まで、静物画に描かれたモチーフ現物をその現場で見た経験はあったかな?と思い返す。

あった。

・茨城県立近代美術館で見た中村彝の静物画&その絵に描かれた水指し(震災でヒビが入ってしまったが中村彝が所持していたもの)の現物が別館アトリエに置いてあった。

中村彝のこの絵、奥に描かれているポット
こちらとのこと。



・23年マティス展にてマティスの作った彫刻の展示とそれをモチーフに描いた静物画展示を見た時。

その時も静かな感動があったのだ。「コレ、あの絵のモチーフだ」という。

絵の中のモチーフの実物を見れる。
絵画の目の前にある。
なんだか当たり前のようで当たり前でない、不思議な楽しさを感じられる展示室だ。

------

伊庭靖子氏登場!


東京都現代美術館にあるクッションの絵画を見て一気に好きになった伊庭靖子氏。オペラシティの所蔵品の和風な陶器の絵も好きだった。

醬油小皿か煮物鉢サイズか。

そしたらこの企画の中に名前があるではないか。
伊庭さんの新作&伊庭さんがモチーフにしたガラスの瓶。
伊庭さんはこの瓶をみてこの絵を描き上げたのか。

同じものを見れている、というこの臨場感。
この瓶を通して作者と目があっている、という感覚に陥る。


好き。



絵だけ見るとデキャンタぐらいの大きさの瓶を想像してしまったが、さて実際の大きさは…?


検討がつくだろうか?



この、鑑賞者側のサイズ認識ズレも面白い。
伊庭さんはモチーフの背景を描き込んでいないので、大きさを捉えるための比較対象がなく実物を見て大きさのズレを認識する。

もしかしたら東京都現代美術館にあるクッションの絵画も、普通サイズのクッションの拡大図をイメージしたが実はすごく小さい人形用のクッションがモチーフだったりして。その逆で絵よりももっと大きいかもしれない。


【途中ガラス制作の動画があった】
とろりと灼熱に溶けたガラスに形を吹き込む作業は見ていて飽きない。

とろり
プー
手の角度が美しい



幼少期、かがくのとも、みたいな本で「ガラス」ってやつを読んだな。
パンタロン履いたお兄さん(時代)が長ーい管を吹いている写真が載るページを見て「ガラスって吹いて作るんだ」と知った。
そんなことを思い出した。

【文章も楽しむ展示】

イメージを文字で伝えて文字以外の表現で返す。実現させる。
はじめの段階は文字、なわけで。その文字部分を読むのも楽しかった。


「大事にお菓子を保存する容器」というグッと来るフレーズ


今展示制作までの道のりも書籍になっていて、展示室の休憩箇所にぽつんと置いてあったりする。
パラパラとめくると当然作家とのやり取りに苦労が垣間見えたり。
何もかも順調に進んだわけではないのだな、と。
文化や習慣、価値観が違えば当然すれ違いも生まれる。
一つのものを作り上げるのって本当に大変だ。

【図録の話】

今回の展示はとても惹かれたので図録も購入した。

こちら、現物


展示を見て図録買ってウキウキして、さぁ金曜だし一杯飲んで帰ろう、とパブに入りサングリアを片手に注文したフィッシュ&チップスが来るまでの間の時間、何気なく図録を読み始めたら目がうるうるになってしまった。

この展覧会は巡回展で、広島市現代美術館でも開催された。

その、広島市現代美術館の学芸員、竹口浩司さんの文章がとても良かったのだ。
人と美術の出会いに想いを馳せる。
その体温のあるやりとりが心を解す。

直接この展覧会とは関係ない一文だがぐっとくるものがあり、そういう文章に出会えたことだけでもこの図録を購入してよかったなと思った。

心地よい展覧会

非常に良い心地よい展示空間の展覧会。
フッと力を抜きたくなった時におすすめである。

コレクション展示室もお忘れなく。
伊庭さんのこのトイレットペーパーの絵は
ちょっと笑ってしまった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?