大和田浪漫

フィルム写真愛好家。 SNSは @romanowada

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最近の記事

手漉き和紙フォトシートについて

先日、新たなグッズとして「手漉き和紙フォトシート」の販売を開始しました。 名前の通り、機械漉きならぬ手漉きの和紙にネガフィルムで撮影したものをプリントしました。 僕はデジタル化の過程を含まない写真を「作品」、デジタル化の過程を含むものを「グッズ」として区別しています。 デジタル化の過程を含まないアナログな物のもつ「揺らぎ」に魅力が宿るというのが、デジタル化しないものを「作品」とする理由のひとつです。 僕が「揺らぎ」に重きを置くのは、世界も人間も本来「揺らぎ」に満ちてい

    • 飲酒写真展『歓待』について

      写真だけをじっと見ていられるひとはかなり限られます。 物語を構築しやすいため、動画はじっと見ていられるひとも少なくありませんが、必ずしも因果的に理解するものでもなく、物語性を剥奪されがちな写真はそうはいかないようです。 写真には動画とは違う「見方」が存在します。どういう「見方」をするようになるのか、いくつのアングルの「見方」を身につけるのかは個人差がありますが、はじめから写真の「見方」が備わっている人は多くありません。 僕自身、自分なりの写真の「見方」をするようになった

      • 写真展『hannah』について

        『hannah』というタイトルはポラロイド写真展であることと強く結びついています。 ポラロイド写真と通常のフィルム写真の違いのひとつがサイズです。 普通、写真展では作品をどういうサイズで展示するのか、ということは作品の展示意図に関わります。写真は出力される紙のサイズと質感で、鑑賞者に与える印象が大きく異なります。 ポラロイド写真は撮影の時点で大きさが決定されているので、展示に際して大きくしたり小さくしたり、紙質を変えたりすることができません。なので、展示の仕方のほうで工

        • 2023年、ポラロイド個人史

          今日は個人的な話をします。 2022年末に、「これしかない」という思いつきでポラロイドカメラを購入しました。 経験上、考え抜いての「これしかない」よりも思いつきの「これしかない」のほうが本当に「これしかない」と言える場合が多かったので検討してみることにしたのです。 なので、「本当にこれしかないのか」ではなく、「これは本当に思いつきなのか」ということについてよく自問しました。 合理性をちゃんと逸脱しているかどうかを問うてみたわけです。 僕の理性は「ちゃんと合理性を逸脱

        手漉き和紙フォトシートについて

          芸術作品とは何か

          「自身の作品を規定し尽くしてこそ作家だ」と言うひとがいます。 つまり、作品におけるすべてをコントロールし、偶然性のようなものを排除してこそ、それはその作家の作品と呼べるのだ、という考えのひとです。 しかし、人間の能力の限界からして、作品が表現するところのすべてを完全にコントロールすることは不可能(コントロールどころか、作家は自身の作品のことすら完全には知り得ない)ですし、仮に作品の内容をすべてコントロールできたとしても、受容文脈は文化や時代で変わってしまうので、結果的に含

          芸術作品とは何か

          カメラはただの箱か

          フィルムカメラを使うひとの一部は「カメラはただの箱である」と言います。 デジタルカメラ全盛の現代にあっては考えにくいことですが、理屈はこうです。 つまり、フィルム写真の画質は、機材面では、レンズとフィルムの組み合わせでほとんど決まる。それならば、カメラとはただ正常に動作する暗箱であれば機能を満たす、ということです。 厳密にはシャッタースピードの限界値や、高速シャッターがきれいに開ききっているかで、記録できるイメージに差はあるのですが、よほど写真に精通していない限り気が付

          カメラはただの箱か

          芸術体験の説明

          芸術体験は言語の外にあります。 それは文学のような、言語を用いた芸術でも同様です。 実際に芸術体験をしたことがあるひとは、いま「そうそう」と頷いているでしょう。芸術体験がないひとにはただの文章として「そんな気がする」程度に感じられていると思います。 さて、芸術体験は言語の外にあるのに、僕は言葉で芸術を説明してきました。これは不毛なことではありません。 芸術体験の言語による説明で期待できる効果はふたつあります。 ひとつめです。芸術体験は言語の外側にありますが、その入り

          芸術体験の説明

          芸術作品の見方入門

          「芸術作品」と言われると敷居が高いと感じる人は多いと思います。 「わたしには難しい」「分かる人にしか分からないもの」という印象があるでしょう。 これは一面当たっています。 ただし、それは芸術がありがたく格式高いものだからではありません。 経験上、芸術が分からないと言うひとの多くは芸術を必要としないひとです。そのため、そもそも芸術に関心が向けられていないのです。詳しくは後述しますが、ゲーム盤の上だけでの人生に満足しているひとです。 「いや、わたしはアートが好きなんだか

          芸術作品の見方入門

          あたたかい写真

          今回は「あたたかい写真」というテーマを設けます。 家族写真だとか、好きなひとの写真だとか、写っている内容のことではありません。その手のものについては僕が論じるまでもなく、多くのひとがいろいろなところで発信しているので、ここでは触れません。 むしろここでは、写っているものが「あたたかい」ということだけでその写真自体が「あたたかい」ものでありえるのか? という問題提起を含みます。 本題に入ります。 中学生か高校生の頃、現代文の問題に使われた、著者の分からない文章を、いまで

          あたたかい写真

          哲学の入り口見学

          今回は哲学について書きます。入り口までです。なので難しい表現は極力避けます。 「哲学」と聞くと「真理=究極の答え」の探求、を思い浮かべるひとが少なくないようです。 「真理=究極の答え」とは、簡単に言えば、「絶対に正しいもの」です。 哲学は自明に思えた前提にメスをいれます。 なので、むしろ、世間で「絶対に正しいもの」とされている何かについて、ほんとうに正しいのか、なんで正しいのかと問い直すことで、相対化する営みです。 「絶対に正しいもの」を支えに生きているひとにとって

          哲学の入り口見学

          「キャラ」を脱げ

          言葉には意味の他に属性があります。陰(ネガティブ、否定的)の属性と陽(ポジティブ、肯定的)の属性です。 例えば、「楽しい」はポジティブな属性も持ち、「つまらない」はネガティブな属性を持ちます。 さて、導入です。 「変態」という言葉を聞く機会が増えました。ファッション関連の話題においてです。 「変態」という言葉は本来ネガティブな属性にあるので日常あまり使われません。 文脈を参照せず、単語の意味や属性に反射的に嫌悪感を抱いてしまうひとが少なくないからです。 実際にこの

          「キャラ」を脱げ

          「撮影」の意味

          写真における「撮影」というと、カメラ(あるいはカメラ機能のついたもの)のシャッターボタンを押す行為、あるいはそれまでのセッティングの過程までを含んだものを思い浮かべるひとが多いと思います。 一般的な意味としてはそれで間違いはないでしょう。 さて、僕における「撮影」の話をします。 最終的には個人的な話にとどまらないので、興味を失わずに最後までついてきてください。 僕はフィルムカメラを使用して作品を撮ります。なので、「撮影」の意味は一般におけるそれより少し狭くなります。

          「撮影」の意味

          写真は芸術か

          先日「写真は芸術か」という議論があるということを知りました。 「写真は芸術ではない」と言いたくなる気持ちが分かるので、この議論の存在には注意を引かれました。 「写真は芸術ではない」と言いたくなる気持ちがなぜ分かるのかというと、僕自身、かつてそのように感じていたからです。 理由はと問われれば、「漠然とそんな気がしていたから」というのが正直なところであり、十代の僕に理屈はなく、この感覚だけがなんとなく脳内を占めていたのです。 現在の立場で、十代の僕が「写真は芸術ではない」

          写真は芸術か

          「プリント」という言葉、概念の細分化

          作品について説明する際に「プリント」という言葉を使うと「印刷」という言葉に置き換えられて返ってくることが多かったので、写真の分野におけるふたつの言葉の同じさと違いについて説明します。 一般的には「プリント」という言葉は「印刷」と同義です。プリント=印刷(物)です。 写真の分野では「プリント」と「印刷」は同じ意味になる場合とまったく異なる意味になる場合があります。 これは写真のプリント過程に由来します。 昔の話をします。 昔は、「写真」というと印画紙という写真用紙に焼

          「プリント」という言葉、概念の細分化

          「アナログプリント」という概念

          僕は自分の作品を紹介する際に「アナログプリント」という言葉を使います。 これは一般的な言葉ですが、僕が使う場合には少し意味が狭くなりますので、今回は「アナログプリント」という言葉について説明していきます。 「フィルム写真」という言葉も本来意味に幅があるものなので、この点についても触れることにします。 まず、「アナログプリント」という言葉の一般的な意味は「フィルムを原稿に、印画紙に像を焼き付ける」ことと説明できます。 日常で使う言葉に置き換えて簡単にするならば「フィルム

          「アナログプリント」という概念