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「アナログプリント」という概念

僕は自分の作品を紹介する際に「アナログプリント」という言葉を使います。

これは一般的な言葉ですが、僕が使う場合には少し意味が狭くなりますので、今回は「アナログプリント」という言葉について説明していきます。

「フィルム写真」という言葉も本来意味に幅があるものなので、この点についても触れることにします。

まず、「アナログプリント」という言葉の一般的な意味は「フィルムを原稿に、印画紙に像を焼き付ける」ことと説明できます。

日常で使う言葉に置き換えて簡単にするならば「フィルムから作った写真」です。

「フィルム写真」という言葉もほとんど同じ意味で使われています。原稿がデジタルデータではなく、フィルムである、ということです。混乱を防ぐために「アナログプリント」との若干の違いについては最後に記します。

デジタルデータが原稿になりえない時代までは「プリント」や「写真」という言葉で表現できたものが、デジタルデータが原稿として利用できるようになったことで分化され「アナログプリント」と「デジタルプリント」、「フィルム写真」と「デジタル写真」という概念が生まれました。

さて、「アナログプリント」や「フィルム写真」と呼ばれるものには二種類あります。フィルムに光を透過させる昔ながらのやりかたと、フィルムからデジタルデータを作るやりかたの二種類です。

現在は「アナログプリント」や「フィルム写真」を謳っていても、フィルムをスキャナーで読み込みデジタルデータ化し、それを紙に写したものがほとんどになりました。

僕はフィルム写真の物質性、つまり、フィルムという「物」に刻まれた像が光の透過を通して印画紙(写真用紙の一種)という「物」に刻まれるという完全にアナログな過程に意味を見出しています(このことは書き始めると長くなるのでいずれどこかで書くことにします)。

デジタルデータの画像は小さな均質なドットの集積です。フィルムに刻まれた像はこれとは異なる連続性から構成されています。これを一度でもデジタル化すると、均質なドットの集まりに還元されてしまいます。

つまり、原理的に別物になるということです。これは不可逆な過程です。

スキャナーによるデジタル化を挟まないことでアナログな連続性(フィルムに刻まれた像)からアナログな連続性(印画紙に刻まれた像)を記録することができます。

まとめましょう。

「アナログプリント」と「フィルム写真」にはデジタルデータ化の過程を含まないものと含むものの二種類がある。現在は後者がほとんどを占めている。

ちなみに、「アナログプリント」は紙にプリントされたものを指しますが「フィルム写真」はそれに加え、フィルムで撮影したものであれば紙媒体ではないデータの状態も含んで「フィルム写真」と呼ばれています。「写真」という単語を含む以上は紙媒体であるべき、というのが伝統に則った正確なところですが、事実として画像データの状態を「写真」と呼ぶのが一般的になりました。

以上が「アナログプリント」と「フィルム写真」という言葉の意味です。

僕が作品紹介で使う「アナログプリント」という言葉はデジタルデータ化の過程を含まないものです。

デジタルデータ化の過程を含むものと区別するために、「完全アナログプリント」という言葉を使うこともあります。

最後に大事な話を付け加えます。

アナログだから良いとか悪いとかということではありません。

その作品を通じて何を提示したいのか、それによって方法は選ばれます。

映像ではなく写真、デジタルではなくアナログ、それはどういう背骨、軸があるから選ばれたものなのかが大事になります。

その方法でしかその人が表せえないものがあることが重要です。方法は入り口ではなく帰結であるべきなのです。

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