見出し画像

子持ち様 とおひとり様が永遠に分かち合えない理由



背景

最近ネットでは、子育て世代を皮肉った「子持ち様」というスラングが存在する。少子化の加速と労働力不足により、子育て世帯が優遇されている現状に不満を持つ人々からのメッセージではないだろうか。職場では、子育て中の社員(子持ち様)と独身社員(おひとり様)の間で仁義なき戦いが繰り広げられていることも多々ある。実際に、ここ数年の間に子育て世帯に対して様々な支援が行われていることも事実だし、出産後も復職できるようサポートする企業も増えている。ただもう一方で、子育て世代以外の層に対して負担を強いている側面も否定できない。

子持ち様と呼ばれるようになった背景として、お互い様ではなくなった社会情勢も大きく影響している。生涯未婚率は増加傾向にあり、出産率の低下にも歯止めがかかっていない。お互い様という概念は、いつかは自分も同じ立場(つまり子持ち様になる)になり助けられることがあるという前提から成り立つ。しかし現実には、子持ち様を永遠にサポートし続けて疲労困憊してしまうおひとり様が後を立たない。私の友人は、コロナ禍にひたすら子持ち様のサポートをし続け(在宅勤務は子持ち様が優先、コロナ感染のリスクが高い対面での対応は独身者が率先して行うなど)、精神的にも肉体的にも限界を超え離職する結果となった。

職場で深まる溝

現在の日本では、子育て中の母親の正社員率(正規雇用)は依然として低い。2023年9月に発表された「国民生活基礎調査」では、2022年において18歳未満の児童のいる世帯で、母親の仕事の状況は正社員が30.4%*である。つまり、出産後も正社員として働き続ける女性はまだまだ珍しい存在であることには変わりない。もう一方で、女性の未婚率は増加傾向にある。特に、年収が上がるにつれて女性の未婚率は増加傾向になる。
*https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/dl/14.pdf

職場では子持ち様(子育て中の女性社員)とおひとり様(独身女性社員)が共存せざる得なくなっている。さらに日本の企業では、女性が多い部署(総務・経理・人事など)と女性が非常に少ない部署(開発・製造・設計など)に分かれていることが多い。その結果、「女性同士で助け合おう・困ったときはお互い様」というような女性同士でフォローし合うことを前提とした人事配置が行われていることもある。男性社員の間では、「子持ち様」問題は発生しずらい。子供を授かった後でも、働き方を大きく変えざるを得ない男性社員は非常に少ないからである。実際に、大企業で管理職として激務をこなしている男性の多くは既婚者であり子持ちである。しかし、働き方は独身時代と変わらないため、独身男性と子持ち男性の間において「子持ち様」問題は発生しずらい。最近は男性の育休取得も推奨され出したが、依然として時短勤務を申請したり、子育てを理由に昇進を見送る男性社員は少ない。

女性の場合、職場において子持ち様とおひとり様は対極的な立場にある。子持ち様の多くは、なりたくてなっているわけではない。子供が熱を出す、夫が激務で育児のサポートが望めない、両親や親戚を頼れない、など自分ではどうすることもできない状況で働いている。子持ち様にならなければ、子育てと仕事を並行することはできない。実際に、保育園から呼び出しがあれば駆けつけなければならない。そして、その子持ち様の穴埋めをするのがおひとり様である。子持ち様の突発的な欠勤・退社により残業が続く。子持ち様の有給が優先され、おひとり様の希望する日に有給が取得できない。そして、「どうせ一人だから、いいよね。」と社内でも配慮されることは少ない。

社会的なヒエラルキーと現実

おひとり様の社会的地位は、低い。私の友人の多くは、おひとり様(40代独身・子なし)なのだが日々肩身の狭い思いをしているらしい。少子化が加速する日本で、少子化の要因を作っていると言われる。お金も時間も自由に使えていいよね、と羨ましがられる。子供のいない人は、分からないよねと何でも子供がいないことを理由にされる。そして、理不尽なバッシングを受けながらもニコニコと大人の対応をし続けなければならない。じゃあ、おひとり様の現実は悲惨かというと、そうでもない。仕事と一定の収入があれば、実際の幸福度は極めて高い。深夜にマッサージに行く事もできるし、好きな場所に住めるし、素敵な恋人とおしゃれなバーで金曜日の夜を過ごすこともできる。シミが気になったら美容皮膚科でレーザー治療を受ける事もできるし、おしゃれなネイルも気兼ねなくできる。

もう一方で、働く子持ち様は社会や国から称賛されている。子供のいる家庭への支援は、今後も拡大していくであろう。少子化が加速する中で、子供を産み育て尚且つ働き続ける、まさに政府が提言している「輝く女性」のモデルケースである。昔は子供を預けて働くとバッシングされたらしいが、現在においては出産後も働きづづけている女性は称賛される。二人以上の子供を出産し(少子化に貢献)、正社員として働き続ける女性(労働市場に貢献)の姿は日経ウーマンで何度も取り上げられている。しかし、職場では子持ち様だと批判され、家庭ではワンオペに苦しみ、最後に一人でスタバに行ったのは思い出せないくらい昔である。毎日、ギリギリの時間と精神で日々を乗り切っている子持ち様が多い。実際に、子持ち女性の日々が悲惨すぎて結婚や出産を躊躇う若い女性も増加している。

共存する方法は、あるのか?!

過去には、子持ち様とおひとり様が共存する環境はあまりなかった。20年前においては、18歳未満の子供を持つ女性の正規雇用率(2004年)は、16.9%であったが2022年において30.9%にまでも増加している。つまり、今後もおひとり様とお子様が共存していかなければ現状は続くのであろう。

1番シンプルな解決法は、タスクの細分化と金銭的なインセンティブである。夫の職場では、男女問わず育休を取得する人が非常に多いのだが、育休を希望する社員が担当していた案件は、希望する他の社員へ割り当てられる。つまり、新しい案件を受ける余裕がある社員にとっては売上を伸ばす絶好の機会にもなる。既に多くの案件を抱えている社員にとっては、自分のキャパシティと希望に反してタスクが増えることはないので負担にはならない。この制度が成り立つ前提としては、(1)タスクの細分化、(2)同スキル(スペシャリストであること)のメンバー、(3)増加した業務に対する明確な経済的インセンティブ(年間の総売上の%が年俸に反映)の要素を備えた職場環境が必要である。

2番目の解決法は、「お互い様」という概念が成り立つ環境を作り出すことである。子持ち様以外にも、介護している家族がおり時間的な制約がある社員、身体的・精神的な事由から短時間勤務を希望する社員、パラレルキャリア(副業等)を希望する社員など週の労働時間を20時間程度に限定したい社員を1つのチームにする。もう1つのチームは、フルタイム勤務・国内外の出張・必要に応じて残業や休日出勤に対応できる、など仕事を優先するライフスタイルを希望する社員で構成する。各チームにおいては、労働時間に見合ったタスクを分配し、給料にも反映させる。社員は、毎年自分の働き方に対する希望を人事部へ提出し、その希望に沿って各部門では1年間のチームが構成される。長い人生において、仕事にウェイトを置きたい時期もあれば、プライベートを充実させたい時期もある。また、家族が病に侵されケアが必要な時期も出てくる。自分と同じ働き方を希望するメンバーで仕事をすれば「お互い様」であるため、不公平感を感じにくい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?