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構造設計からメディア立ち上げへ。建築ソーシャルメディアBAUES創業者が建築をスキになった話

今年9月にサービスを開始した「建築ソーシャルメディアBAUES|建築をしる、とどける」。
これまで各企業のニュースリリースや専門分野に特化した建築業界のメディアなどさまざまな場所で発信されてきた建築に関するニュースを一箇所でまとめて閲覧できるサービスです。
前回の記事では注目を集めるBAUESの創業者・掛本啓太さんに、なぜこのようなサービスをつくったのか、そしてこれからの展望について聞いてきました。
今回は、掛本さんがBAUESを立ち上げるまでの経緯や建築への想いについて語っていただきました。

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ロンロ
ありがとうございました。言葉の端々から建築を変革していこうという強い意思が感じられて、BAUESが盛り上がってくれると良いなと僕も強く思いました。もう少し個人的なお話も聞かせてください。掛本さんはアラップに勤めていたそうですが、なぜ構造設計の道に進んだのでしょうか?

掛本
構造をやろうと思ったのは大学に入って割りと早い段階でした。単純に物理や数学が得意だったので、建築というジャンルのなかで自分ができそうなこと、ということで選びました。

ロンロ
その頃から建築がスキだったのでしょうか?

掛本
いや、正直そうでもなくて。学部生の頃、建築学科の友人とルームシェアをしていたので同期が建築に真剣に取り組む様子は間近で見ていたのですが、そこまでのめり込めないなぁというのが正直なところでした。自分のなかで大きく心境が変わったのはデンマークに留学してからですね。

ロンロ
なにか決定的な出会いがあったんですか?

掛本
デンマークの周辺にある建築をいろいろと見て回ったんですよね。そのなかで特に印象に残っているのが「ルイジアナ美術館」やグンナール・アスプルンドが設計した「森の火葬場」での空間体験でした。これらの建築を訪れたとき、空間に吸い込まれていくような、なんともいえない感覚があったんですよね。自然とフィットするように設計されていて。建築って良いものだな、こんな建築をつくってみたいなと思いました。

ロンロ
やはり実際に見て学ぶこと、感じることが一番大きいですよね。僕もいろいろな建築を見るようになってからどんどん建築をスキになっていきました。

掛本
ええ。ほかにもサンティアゴ・カラトラヴァが設計した「リヨン・サン・テグジュペリTGV駅」も構造がそのままデザインとして現れていて、衝撃的でした。

ロンロ
デザイン性の高い建築に構造設計者として携わりたいという思いが、アラップで働くことにつながっていくわけですね。

掛本
そうですね。やはり構造設計者であってもデザインにコミットしていきたい、自分が関わったからこそ良い建築になったといえるものをつくりたいという想いはありました。デザインとして優れた構造を設計したいという想いと、優れたデザインを構造設計の面でサポートしたいという想いと両方あって。

ロンロ
そうなるとやはり建築家とタッグを組むことの多いアラップは最適な環境ですね。

掛本
はい。ただ、決定的だったのは東日本大震災の経験でした。デンマークという遠く離れた場所から日本の状況を見ていましたが、非常にショックでしたし、自分にできることはなんだろうということを真剣に考えました。そして自然と、これまで学んできた構造設計で貢献していきたいと思うようになっていったんです。

ロンロ
あの時期は日本の建築界全体に閉塞感が漂っていました。特に意匠設計に携わっている人にとっては自分たちが追求していることを全否定されたような、これからなにを足掛かりに建築を考えていけば良いんだという迷いがあったように思います。掛本さんはすぐに自分の答えを見つけられたのですね。

掛本
自分ができることはなんだろうと考えたときに、構造設計を究めていくことしかないと思ったんです。東日本大震災の少し前にスマトラ沖地震がありましたよね。あのときはそんなに深刻に受け止めなかったというか、自分事としてはとらえられなかったんです。でもそれが日本、特に東北で起こったときにはものすごいショックだった。留学先の人たちも心配して声を掛けてくれたりはするものの、根本的にはあまり興味がない様子だったんですよね。同じ想いをしていた人がスマトラでもいたのに、それを他人事として考えていた自分が恥ずかしくなりました。それに気づいたからこそ、真剣に取り組まなくてはいけないと思えました。僕がそれまで学んできたのは免震や制振の技術で、日本はその最先端を行く国なので環境としてはもってこいだなと。培った技術で世界にも貢献していきたいという想いもあったので、グローバルで展開しているアラップしかないと思って進路を決めました。

ロンロ
東日本大震災に関していうと、地震での揺れ以前に津波の被害が大きかったわけですが、迷いはなかったですか。

掛本
そうですね。仰るとおり津波の被害は大きかっので、津波にも負けない建築を考えようと思ったことはありました笑 でも、津波の力や実際の状況などを調べたり聞いたりすると、構造設計者として自分ができることとは違うかと思いました。それよりは自分の専門とする領域を突き詰めて、自分にしかできないかたちで貢献したいと思いました。

ロンロ
なるほど。自然災害による被害を防ぐという大きな課題に対して、きちんとご自身のテーマを決められたのですね。建築界の進化を加速させるために、まずはメディアを立ち上げたBAUESの取り組みにもつながる姿勢ですね。

掛本
意匠設計とは違う道を歩んだからか、さまざまな人の専門性が集積して建築が成り立っているというのを強く意識していました。建築に携わる人がそれぞれ自分の専門スキルを磨くからこそ、建築は良くなっていくんだと思います。

ロンロ
耳の痛い話です笑 僕自身は意匠を学んでおきながらなんの知識も経験もない編集の道に進んでしまったので…。構造設計の面白さはどういったところにあるんでしょうか?

掛本
優れた構造設計者がいないと実現しえなかった建築があると思っています。時には構造を前面に押し出したり、時には存在感を消すなど、良い建築の裏側には構造設計者の優れた判断と非常に高い技術があると思います。構造設計者は表立って賞賛されることは稀ですが、そういった良い建築を高い専門性をもって実現に導けるところが魅力です。
アラップでは坂茂さんの設計した「富士山世界遺産センター」の構造設計を先輩に教わりながらお手伝いさせていただきました。持病が悪化してしまい仕事を辞めざるを得なくなったので最後まで関わることはできなかったのですが、やはり竣工したときはすごく嬉しかったですね。このために今までやってきたんだなという、なににも替え難い感動があります。

ロンロ
確かにあの建築は構造的にもかなりエキサイティングですね。

掛本
あの建築をつくるうえでも、アラップの内部や坂事務所の方以外にもいろんな専門性をもった人たちがプロジェクトを実現に導いています。そのなかでもっと効率化できるところはあるだろうなと感じたし、テクノロジーを積極的に導入していくことで実現できると思います。無駄が減っていくことで労働環境も改善していくでしょう。よりクリエイティブなことに時間を割けるようになることで、建築全体の性能やデザインも良くなり、技術開発ももっと進んでいくと思うんです。そうした業界の進化を加速させるのに、BAUESが寄与することができれば良いなと考えています。

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2000年の歴史をもち、どんな分野とも関わりがある建築は、いくらでも壮大な課題を見出すことができてしまいます。ただ、課題が大きくなればなるほど、じゃあ自分はなにをしたら良いんだと悩んでしまって手が止まってしまうことも。
そのなかで大きなビジョンをもちながら、自分ができることを的確に判断して取り組む掛本さんの姿勢は、建築に携わる人たち皆が意識すべきものだなと感じます。

掛本さんが建築業界の進化を加速させるために1年以上をかけてリリースした建築ソーシャルメディアBAUES、ぜひ使ってみてください!


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