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人欲

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人欲という小説の記事をまとめたマガジンです。完結済。 営業職の女性が自分自身の性や在り方に向き合う話です。
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【小説】人欲(1/10)

【小説】人欲(1/10)

 探しているものがある。いつから探し始めたのかはわからない。あのときかも知れないし、それよりずっと前かもしれない。それはあまりにも漠然としていて、頭に描くことはできない。もとより、文字にすることも。

 わたしは快楽の奴隷になり、余計な想像から切り離され、夢のようにすべてが曖昧になる。彷徨い続けて伸ばした手の先にあった感触が、現実に引き戻してくれた。

 いつも、他人の体の上を深く泳ぐ。きょうの相

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【小説】人欲(2/10)

【小説】人欲(2/10)

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 長いこと提案を続けた取引先から、「御社のシステムの導入をしたい」と連絡をもらった。IT企業に勤めるわたしが思うのも妙な話だが、画面越しではなく、やはり足を運び、面と向かってことばを交わしたほうが熱意が伝わるのだと実感してしまう。

 わたしの勤める会社にはいま推しているふたつの新サービスがある。ひとつは「コスモス」と言って、いわゆる通信販売のシステムだ。単なるカ

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【小説】人欲(3/10)

【小説】人欲(3/10)

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 毎朝、タブレットで新聞のチェックをする。前は紙がかさばって捨てるのが大変だったが、全部電子で済んでよい。経済面よりも悩み相談の記事を楽しみに読んでしまう。これをハガキで書くとき、どんな気持ちなのだろう。

 身支度をしてリビングに設置しているデスクに向かい、ノートパソコンを広げ、HDMIケーブルに接続し、モニターに出力する。

「ウェビナーに参加されていない方は今週

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【小説】人欲(4/10)

【小説】人欲(4/10)

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 何があろうと生きていれば毎日、日は昇る。わたしの情緒に関係なく、平日は仕事をしないといけない。この会社に好んで勤めているのはわたしなのだから。

 きょうは、新規の顧客への訪問がなく、導入顧客へのフォローが主なので少し気が楽だ。でも、なにか嫌なことを言われたらきょうは耐えられそうになかった。

 訪問は卒なく終わり、ひたすら「コスモス」のシステムに感謝されて終わった

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【小説】人欲(5/10)

【小説】人欲(5/10)

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 週末は実家に帰り、特に何もせず寝て過ごした。それでもたまには帰って来いという両親は奇特だと思う。わたしは大学生のときに自分がレズビアンなんだと思うと親に言った。ウチの両親は「理解のある親」になろうと努めてくれているようだが、結局七歳下の大学生の弟の悠人に期待を全振りしただけだった。正真正銘のレズビアンだとわかったが、わたしの性的指向について両親にもうこれ以上話すのは

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【小説】人欲(6/10)

【小説】人欲(6/10)

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 風俗嬢に恋をするなんてばかばかしいと思っていたが自分がその沼に落ちることになるとは思わなかった。仕事中、食事をしているとき、眠る前、四六時中、アイのことばかり考えていた。

 アイは新人で、人気のあるキャストではなかったから予約をすれば確実に指名することができた。

 彼女の肌は瑞々しかった。どんな女の子の肌でもぬくもりを感じると快楽一直線だが、アイの場合は泣きたく

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【小説】人欲(7/10)

【小説】人欲(7/10)

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 アイと付き合いはじめてからはほとんど出社するようになった。わたしの顔を見るたび前沢に「きょうも出社なんですね」とストレスをぶつけられるが、幸福感がすべて無効化してくれる。

 家に帰り、誰かが待っていてくれるなんてこと、いままでなかった。悪くないなと心底思った。

 アイがいるとき、ぴったりとくっついて過ごした。

「今度のほのちゃんのお休み、どこか行きたいなぁ」

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【小説】人欲(8/10)

【小説】人欲(8/10)

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 アイはわたしを気遣って毎日会いに来てくれるし、夕飯をつくってくれる。アイのつくる料理は見栄えが悪いが、味は悪くない。食事というよりエサ。それでもよかった。ひとりのときは食事に気を遣わないから「食事をする」というモードに切り替えて食事をすることが大事なんだと思う。

 先日改修した「イダテンフード」プログラムにミスがあり、再度リリースすることになり、きょうは謝罪行脚の

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【小説】人欲(9/10)

【小説】人欲(9/10)

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 アイに会いたいか会いたくないかと訊かれれば会いたいが、接触してまた傷つけてしまうような気がして、なかなかメッセージを送れずにいた。もう終わるかもしれない。付き合いはじめてまだ一ヶ月も経っていない。情けない。

 確かにアイは、わたしが景雪に対して抱く負の感情をすべて理解してくれた。同じ分の重さを彼女から受け取っていない。それで恋愛関係が成り立つはずがない。頭で考えれ

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【小説】人欲(10/10)

【小説】人欲(10/10)

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 総務の前沢から「会社でLGBTの講演をやる」という告知のチャットが送られてきた。ウェブ参加可だったが、なんとなく家に居たくなかったので、出席することにした。

 リアルでの出席者は十人だった。わたしは一席飛ばしで本高の隣に座った。いちばん前の席に総務の三人が居る。

 身長が一八〇センチくらいありそうな女性が話者だった。話は、彼女の生い立ちからだった。男性として生ま

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