【短編小説】グリーンな日【エッセイ】
チャ、チャ、チャ。
おもちゃのではない。生身の人間。年老いているが。
背後の座席で、なぜかずっと口を鳴らしている。唾液のねちゃつきを容易に感じられる音をバスの車内に響かせている。
ちょっとした旅行の荷物のように押し込められた車内は、昨日よりいくらか陽気そうな雰囲気をみせる。チャ、チャ、チャ、この爺のリズムがそうさせる。
薄汚れた遅暮の一生が、唾液を口の中でウジ虫のように跳ね回らせる奇癖を生ませた? 現代文学はみじめな彼に寄り添い、主題を見出すことをしなかった。ここに、退