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本読みの記録(2018)

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ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2018年刊行の書籍。
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2018年7月の記事一覧

戦後民主主義を生きてきた女優〜『私が愛した映画たち』

◆吉永小百合著『私が愛した映画たち』 出版社:集英社 発売時期:2018年2月 吉永小百合は日本が敗戦した1945年に生まれました。文字どおり日本の戦後民主主義の歩みとともに生きてきた映画女優といえるでしょう。《朝を呼ぶ口笛》でデビューして以来、最新作の《北の桜守》まで出演した作品は、120本。本書ではその中からとくに吉永にとって印象深い作品を選び、それに即した思い出話やエピソードを問わず語りで振り返ります。インタビュアーは共同通信者編集委員の立花珠樹。 《キューポラのあ

忘れられた言葉に光をあてる〜『1968[2]文学』

◆四方田犬彦、福間健二編著『1968[2]文学』 出版社:筑摩書房 発売時期:2018年3月 四方田犬彦が編集を務める『1968』シリーズの第二弾。文学作品に対象をしぼったアンソロジーです。本書では、詩人・映画監督の福間健二も編集に加わっています。 ここで積極的に目を向けているのは「時代をすぐれて体現しているにもかかわらず、不当なまでに蔑ろにされたり、また一度も照明が当てられることなく、忘却に付されてきた文学作品」です。 中上健次の若かりし頃の詩を読めたのはうれしい。寺

時代が生み出した多彩な才能〜『1968[1]文化』

◆四方田犬彦編著『1968[1]文化』 出版社:筑摩書房 発売時期:2018年1月 1968年。それは世界の現代史にあっては特筆されるべき年でした。 米軍がハノイ爆撃を本格的に開始しベトナム戦争が激化する。ドゴール政権打倒を叫ぶ学生たちによりパリで次々と大学が閉鎖され「五月革命」が始まる。西ベルリンで学生がゼネストを行なう。 日本ではエンタープライズの佐世保入港をめぐり全学連と機動隊が激しく衝突する。東京大学医学部自治会では無期限ストに突入する。年末には入試中止が決定され

世間話の延長としての〜『社会学』

◆加藤秀俊著『社会学 わたしと世間』 出版社:中央公論新社 発売時期:2018年4月 社会学者・加藤秀俊による肩のこらないエッセイ集とでもいえばいいでしょうか。「集団」「コミュニケーション」「組織」「行動」「自我」「方法」をキーワードにした章立てをして、新書らしく読みやすい構成といえましょう。平易な語り口ですが、内容は滋味に富んでいます。 社会学とは何か。どのようにあるべきか。そうした基本的な問いに対して、狭義の社会学だけでなく人類学や民俗学、歴史学など隣接する学問をも視

自民党政権から野村萬斎まで語り倒す〜『平成史』

◆佐藤優、片山杜秀著『平成史』 出版社:小学館 発売時期:2018年4月 平成時代を振り返る。元外交官・佐藤優と思想史研究者・片山杜秀の対談集です。ふだんの二人の博覧強記ぶりには敬意を表するに吝かではないけれど、本書に関してはいささか期待ハズレでした。全体をとおして辛口の議論が繰り出されるのですが、右も左もひっくるめて──安倍政権からSEALDsまで──高みからあれもダメこれもダメと全方位的にぶった斬っていくのはこの手の対論にお決まりの仕草とはいえ、批判のしかたがやや粗雑で