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京都エッセイ⑦ 大学デビュー失敗Ⅳ

 前回の記事では先生や先輩方に褒めていただいた経験で救われた話をした。

 今回はもう一つの救われたお話、イベントについて。

 大学の授業で文学イベントを企画するというものがあった。僕は褒められた経験こそあったものの相変わらず痛々しいままだ。

 生徒に意見を求められることがあればいの一番に手を上げたし、質問タイムも逃さなかった。やる気のない(ように見える)他の生徒に叱咤激励もとい怒ることで嘆いていた。

 そんなだから案の定先生に呼び出されてしまう。

 自分は真面目にやっているのに、どうして自分だけ怒られなくてはならないのかと先生より先に怒っていた。そのせいか元々怒る気がなかったのか、先生は優しく諭してくる。

「やる気がないんじゃなくて、出しづらいだけ」
「出しづらい空気に少なくとも市川が関わっている」
「内々で燃えているものもあるからさ」

 怒られると思っていた僕は、困ったような顔で言う先生にすっかり気を削がれてしまった。

 怒ることによって不安から目を逸らすようになっていた僕は、次に怒るべき対象を探す。が、すぐには見つからない。ようやく見つけ出したのは先生のこいつには言っても分からないかもなという思いのありそうなその困った表情。

 分かったよ。だったら、その顔を僕に期待する顔に変えてやる! 

 と意気込んだ僕は自分の非礼を謝った。その上で自分の何がいけなくてどこを継続してもいいかを話し合った。

 驚いたことに授業に積極的に参加していることは先生陣の中でも評価は高いらしい。僕やその下の代は自己が強い人が少なく、おとなしい人が多いのが事実と教えてもらったことで、溜飲はどこかに行ってしまった。

「君より上の代で色々あったからね。君を見ているとその時代のことを思い出すんだよ」とまるで昭和レトロなものを懐かしむように言われたのはいささか不服ではあったが、創作に対して内にも外にも全力だと思ってもらっていると受け取った。

 その先生に言ってもらって僕の人生がガラリと変わった言葉がある。

「君は場をまとめたがっているからなぁ」

 僕はそれを言われるまでまさか自分がそんな人間だとは思っていなかった。友人と馴染めないのは、自分が場の中心でないと納得いかないからだと気づいた僕は絶望した。

 先生のその言葉を呪いだと思い込んだこともある。

 だけどイベントが実際に行われ、自分の発言一つで場が沸くところを目にして、加えて合評会のこともあって、その言葉は真実だと否が応でも知ることになる。

 それがかつてないほど心地よいことにも。

 今まであった不安が消えること、場が盛り上がれば不服なことも許せる、それどころかもっといじってくれとすら思えるのだ。

 僕はイベント終了後をきっかけに文芸創作研究サークル『文芸みぃはぁ』を立ち上げた。自分が馴染める場所がなければ作ってしまえばいいのだという具合だ。仲のいい先輩後輩に声をかけ、読書会と合評会に加えてボードゲームを使って書く企画などを作った。

『文芸みぃはぁ』について詳しくはこちら

 結果として『文芸みぃはぁ』は初めて4年目に突入した。参加してくれる人の文学で交流したいという気持ちや、才能のかけらを目にするのは楽しい。刺激をもらえているし、仕事などでなかなか創作できない人のちょっとしたオアシスになっていると思う。

 意見を言わないとという焦りのおかげで、意見を言おうとする力がついた。意見を言うために読んだり聞いたりする力がついた。チームを運営するために、怒るのではなく諭すことを覚えた。誰かを無償に褒める癖は、作品の良いところを見つける目になった。負けず嫌いな性格は創作を続けるエンジンとなり、今も僕を突き動かしている。チームはガソリンスタンドだろうか。

 褒められた経験と、イベントとの出会いが大学デビューに失敗して燻っていた僕を、少しはまともにしてくれた。それは友人、後輩、先輩、先生のおかげであることは間違いない。絶望し、動けなくなる手前までは一人でやらせてくれ、そうなってしまったら色々な方法で掬い上げてくれた。つぐつぐ人の運がいいなと思う。

 最後に褒めてもらってうれしかった経験をもう一つ。

 僕を変えてくれたイベントは朗読だった。自分の小説を壁に写し、自分は手元で読み、お客様はそれを見るというもの。

 そこで書いた作品『アンビバレント・アニマル』が別の先生に褒められたのだ。

「やっと市川の小説らしい小説が読めたよ」

 これまで自分の経験や恨みつらみからしか書けなかった僕が、きちんと小説を書けるようになった瞬間である。

 それは結局また違った創作の壁との衝突でもあったのだが、それはまた別のお話。

『アンビバレント・アニマルズ』はこちら

朗読の様子。おしゃんてぃ。

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