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QuestReading[8] 広告心理

仕事に関わる本もとりあげてみます。
『広告心理』は、心理学をベースとした学術的な視点と広告代理店の実務的な視点が交わった、広告と人の関係を論じた一冊。任天堂からWiiが発売され、SNSや”つながり”が意識されはじめた2007年の広告心理をQuestReading。

書名:広告心理
著者:仁科貞文、田中洋、丸岡吉人
出版社:株式会社電通
出版年:2007年

広告と人の心理変化については、「AIDMA(アイドマ)」という有名なモデルがある。Wikipediaを信じるならば、この購買決定プロセスは1920年代にアメリカの広告実務家が提唱したそうだ。
具体的には、人はまず認知し(Attention)、次に興味をもち(Interest )、そして欲しいと思い(Desire)、特徴などを記憶して(Memory)、最終的な行動に移る(Action)という一連の流れを表したモデルだ。それぞれの英語の頭文字を取りAIDMAと名付けられている。

マーケティングの仕事にかかわると、初期段階でこのモデルについて知ることになるが、この『広告心理』を読むと、このAIDMAが実務家にとって都合のよいものだということがわかった。

どんな商品やブランドにも販売のプランがある。そのプランを実現するために、さまざまな目標が立てられ、その進捗が管理される。そこで、何を進捗管理するのかということを考えるときに、モデルが役にたつ。AIDMAがあれば、とりあえずAIDMAで考えておけばよいという話になっていた。

ただ、「商品やブランドの特性」や「商品をどのように展開したいのか」によって、常にAIDMAで考えればよいという流れではなくなってきている。

まず、商品やブランドの特性については、商品選択への個人の関与が高いか低いか、そして、ブランドの情報を求めるか、イメージを求めるかの組み合わせで、一連の流れ方が変わるという。

(1)高関与で情報を求める商品やブランド:認知→情緒→行動
(2)高関与でイメージを求める商品やブランド:情緒→認知→行動
(3)低関与で情報を求める商品やブランド::行動→認知→情緒
(4)低関与でイメージを求める商品やブランド:行動→情緒→認知

AIDMAは万能というわけではなく、4つのパターンのうち、特に(1)のパターンとは合致する。確かに、モノによって、まず「かっこいい!欲しい!」ということも、「とりあえず食べてみて知ること」もある。

次に商品をどのように展開したいのかについても、新しい市場か・今まで通りの市場か、新しい商品か・今ある商品かの、組み合わせにで商品・ブランドが戦う競合・生きていくフィールドが異なってくる。

(A)新市場に新ブランド→従来からの代替商品を競合として
(B)現市場に新ブランド→差別優位性のあるポジションを築く
(C)新市場に現ブランド→従来のブランドユーザを継承する
(D)現市場に現ブランド→既存ユーザを維持

販売のプランとは、この(1)~(4)と(A)~(D)を組み合わせて考えられる。広告の役割とは、このプランに沿って「よりよい伝達内容」「表現アイデア」「トーン&マナー」を考えることになのだろう。

たとえば、(2)と(B)を組み合わせたプランを考えてみる。つまり、高関与でイメージを求める商品やブランドで、現市場に新ブランドを投入する場合の話になる。具体的には、スマートフォンの新機種を情緒的に展開することをイメージしたらよいだろうか。
事例に沿えば、差別優位性を持たせて、情緒→認知→行動というステップを踏ませたいと思う。そこで、とあるアニメの「スピーディーな」世界観を借りてきて、よく実態はわからないけど、この機種は「スピーディーだ」というイメージをさせることをスタートとすることを考える。

さて、その時に広告は、何を、どのように、どう仕上げればよいか。
この本の中では、What to say / How to sayの事例がいろいろと挙げられているが、要は、最適にできるはずだということになる。

もし、インターネットを利用するならば、情緒から入るために「スピーディ」ということが伝わるクリエイティブでなくてはならない。商品に関する認知は後回しなので、特徴の紹介などは広告の役目から外してもよい。
情緒面を広げるならばテレビ広告が効果的かもしれない。イメージだけであれば、車や戦闘機などのスピーディを持つコンテンツの雑誌とコラボするという手もある。

このようにして、心理モデルを想定すると、実務家にとって、戦う場に応じた最適なシナリオを想定しやすくなる。そして、状況の振り返りにも有効だ。

具体的には、<差別優位性>を<情緒→認知→行動>のステップで成果をあげているかをリサーチすればよい。
先ほどの例では、広告の役割は「情緒」の獲得である。様々な広告に比べて、スピーディというイメージを持たれればスタートの広告としては成功である。そして、実際の商品で実感が認知されたか、利用・購入という行動につながったかを指標としてば追っていけばよい。

もし、これが低関与の商品であれば、スタートが「行動」という心理モデルを考えるので、最初の広告アクションは、何よりも行動させたかどうかがリサーチする指標となる。デジタル広告の世界は、この行動スタートのモデルと相性がよいといわれ、コンバージョンという言葉で行動との結びつきがトラッキングされている。

結局、広告心理をどう組み立てるかは実務家の意思によるところが大きい。
スマートフォンの新機種の話であったとしても、シェアサービスとして低関与化を目指せば、まずは行動から入ると考えることになる。さらにそのシェアサービスを新市場だと捉えなおせば、戦うフィールドはファッションのレンタルサービスなどを競合に見立てなくてはならなくなる。

商品特性と展開プランが恣意的だから、広告はいつまでたってもつかみどころのないものになってしまうのだろう。ただ、AIDMAに頼り切らない考え方があれば、最適な取り組み方をデザインすることもできる。

だから、私の仕事は、探求探求と続くのだと思う。

免責:
本を精読しているわけではありませんので、すべての内容が正確とは限りません。詳細は、実際の本でご確認ください。

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